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洗いたての洗濯物など、私たちの生活の中で漂う「良い香り」が知らず知らずのうちに誰かを傷つけているかもしれない…。洗剤や柔軟剤の香りなどに含まれる微量の化学物質に反応し、目や鼻の粘膜がただれたり、めまいなどの症状を引き起こす「化学物質過敏症」。この病気で悩む人たちは至る所に潜む目に見えない脅威を避けるため、うかつに自宅から出られなくなるなど、苦しい生活を強いられている。
化学物質過敏症とは、アレルギー疾患や中毒性疾患と似た症状で、一度に多くの化学物質にさらされたり、慢性的に少量の化学物質にさらされ続けることで発症すると見られている。発症すると微量の化学物質に反応し、目・鼻・喉が荒れたり、めまい、頭痛、吐き気など症状は多岐にわたる。発症の詳細な仕組みや有効な治療法はまだわかっていない。建築用の接着剤に含まれるホルムアルデヒドなどに反応する「シックハウス症候群」は、原因となる住宅から外などへ移動すれば症状が和らぐことが多いが、化学物質過敏症は、空気中に微量でも化学物質が漂っていれば、あらゆる環境下で反応してしまう。その原因となる化学物質を含む最も代表的な存在が洗剤や柔軟剤から漂う香り(香料)だ。
津市在住の中村保美さんも化学物質過敏症で苦しむ一人。幼少期から自動車の排気ガスのアレルギーに悩まされ、15年ほど前から症状が悪化。現在は、洗濯用洗剤、芳香剤、香水、殺菌剤、農薬、食品保存料などに使われる化学物質に反応し、頭痛、吐き気、めまい、呼吸困難、皮膚と粘膜のただれ、集中困難、身体の痛みや倦怠感などの症状がある。そのため、普段から食べ物や飲料、シャンプーや洗剤など、直接肌に触れるものには、細心の注意を払うなど自衛策を講じている。しかし、他者をコントロールすることは不可能なので、すれ違う人から漂う柔軟剤や化粧品の香り、外出先の施設に設置された芳香剤などの香りを嗅ぐことで、体調を崩してしまうため、自宅から出ることすらままならない不自由な生活を余儀なくされている。
この病気の苦しいところは、症状もさることながら、香りの発生源である人間から遠ざかざるを得なくなり、満足に社会生活を送れなくなってしまうことだ。まだまだこの病気について理解している人が少ないため、辛さを訴えても、香りに対する好き嫌いや我がままと受け止められてしまうこともあるので、社会的な孤立も招きやすい。
苦しい日々を送っている中村さんだが、普段利用するコンビニで事情を知った店主がトイレの芳香剤を使うのを控えるようになってくれたことに感激し、人の心の温かさを改めて実感した。「(当事者が)独りよがりな解決策を講じるのではなく、話し合いで問題が解決していく誰にでも優しい社会の構図が出来ることを願う」と相互理解の大切さを訴える。
近年では、中高年男性の「加齢臭」が取りざたされることもあり、エチケットとして、しっかりと香る洗剤・柔軟剤を使う人や香水をつける人が増えたり、不特定多数の人が利用する施設に芳香剤を置くことが日常的になっている。しかし、その優しさや思いやりが一部の人を傷つけかねないという現実もまた広く知られるべきだろう。全国各地の都道府県や市町村も少しずつ、この病気について周知を行っており、三重県内でも名張市や伊賀市がHP上で情報を発信している。
化学物質過敏症は、花粉症のように、誰もが突然発症する可能性のある病気といわれていることからも、決して他人事ではない。有効な治療法が確立されていない現在、できるだけ香りのしない洗剤・柔軟剤・化粧品を使う、虫よけスプレーや殺虫剤を使う時は周囲に気を配るなど、多くの人の理解と、少しの配慮が、この病気で苦しむ人たちの苦しみを和らげることにつながる。
2022年1月13日 AM 11:18
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