パソコン画面からふと視線を落とすと、手首のシミが見えた。アイロンをかけていた時にうっかり触れて火傷した。その痕が直径七ミリほどのシミになって残っている。
できたシミはほぼ一生もの。シミ取りクリームがCMで言うほど効いた試しはなく、ずっとシミと付き合っていくことになる。手首を眺めて、シミの一つや二つ増えたところで問題ないと自分に言い聞かせる。
言い換えれば、手首のシミを眺めている余裕があるということ。そんな暇のなかった頃を思い出した。
子どもを幼稚園に預けてママ友とのランチ会に出かけたことがある。きちんと化粧して、ワンピースにヒールの靴で出かけた。
その私にママ友が笑いながら言った。「手首に輪ゴムがはまっているよ」見れば私の手首には輪ゴムが二本。朝の忙しい家事育児の合間に、輪ゴムを無意識に手首にはめたらしい。せっかくおしゃれして出てきたはずなのに台無しだ。
幼児を育てる日々はたいへんだった。美容院や歯医者へ行く時間も取れない数年間。眉の手入れもできなくて、その頃の写真を見ると、ぼさぼさ眉に寝癖髪。鏡で自分を見る時間さえもなかった。
気にかかるのはコロナとシミの数ぐらいという今の暮らしは十分幸せだが、子どもたちを眺め育てる忙しい日々は、充実していてとても幸せだったと思う。      (舞)