今年の1月1日から、RCEP(地域的な包括的経済連携協定)が発効した。
世界のGDP、貿易、人口の30%を占めるこの巨大なFTA(自由貿易協定)には、ASEANN10か国、日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドを含む合計15か国が参加。日本の場合、貿易の46%を占めるとされる。日本が期待しているGDP増加の腹積もりは、工業製品輸出が主たるものだ。
しかし、過去30年間賃金が上昇していない日本では、関税引き下げ・貿易円滑化→生産性向上→賃金上昇→実質所得上昇→消費・貯蓄・投資増加→GDP上昇の推計モデルは当てはまらない。
また、農林水産物については、農水省が関税が引き下げられても生産基盤強化政策によって国内生産が減らないという建前をそのまま試算モデルに入れているので、輸入の悪影響が小さすぎる可能性が高い。なにしろRCEPの日本の関税撤廃率は、工業が90%超と高いのに対し、農業は50~60%台と低く、工業製品中心の貿易促進である。それも中国の下請け、つまり日本の対中国輸出の3分の1、経産省によると年5兆とされる自動車部品の輸出だ。
期待するのはそこでの関税撤廃効果であり、農水省が試算を渋ったので農産品への中長期的影響は不明となっている(2021年4月の参院本会議で、農業への影響試算をしない理由を問われた農水大臣は、撤廃品目は「すみ分けができている」ので、国内農業への「特段の影響はない」からと回答している)。
しかも、現在の得意先である台湾や香港はRCEPに参加してはいない。要するに、地域経済を支える農業および観光経済にはRCEPは期待できないということである。
欧米などの先進国事例みると、コスト競争に晒されやすい工業製品の輸出よりもブランディングによる農業とツーリズム貿易にウェイトを移す国が増えている。それがヒト・モノ・カネの移動につながるからだ。我が国においても地域ブランドのプロモーションこそが急務だといえる。
松阪牛で知られる三重県松阪市。今、ここでは豚もブランディングの最中にある。松阪豚とは、松阪生まれの良質な豚を飼育途中で選抜し、220日間育てたLWD(ランドレース、大ヨークシャー、デュロック)三元交配豚のことである※。飼料には植物蛋白のマイロ麦と大豆を多く使用し、免疫力を高める乳酸菌と酵母を配合したオリジナルのものを与え、合成タンパクなどの加工餌は一切使用していない。また、抗生物質は免疫力の弱い幼少期にワクチンを少量投与するのみで、その後は薬剤を一切投与せず飼育されている。
220日飼育された松阪豚の特徴は、松阪牛を彷彿とさせる霜降りで、その食感は柔らか滑らかで肉本来の味わいが深く、豚独特の臭みがないので茹でても灰汁が出ない。また、「つきたてのお餅」に例えられる長期育成による脂は人肌で溶け出すほど融点が低く、水のようにさらさらで調理時には薄く伸びる。これは松阪豚の純白の脂肪酸組成によるもので、他のブランド豚に比べると必須脂肪酸のひとつであるリノール酸や、悪玉コレステロールを減らすと言われるオレイン酸など、不飽和脂肪酸を多く含むからである。また、多量接種により心臓疾患のリスクを高めてしまうパルミチン酸などの飽和脂肪酸の含有量は少ないという分析結果もある。これは高齢化社会に最適だといえるだろう。
本居宣長や三井高利を育くんだ松阪は、古来、情報の拠点となってきた。官民連携を通じ、地域ブランドの更なるプロモーションが必要である。
※LWD三元交配豚=ランドレース(L)背脂肪が薄く、赤肉率が高い品種。発育が極めて早い。大ヨークシャー(W) 赤肉率が高く、加工用の原料として高い評価を得る。ランドレースについで多数飼育されている。デュロック(D)アメリカ原産の赤肉の品種。筋肉内への脂肪がつきやすく、シマリがあり柔らかい。 (OHMSS《大宇陀・東紀州・松阪圏・サイト・シーイング・サポート代表》)