2022年8月

今、伝統的な日本型旅館では、コロナ禍による団体客の激減に加え、高齢化や時代に即した働き方等によって、中居さん専従者が大きく減っている。結果として、旅一番の楽しみである夕食も、部屋食提供ではなく、ダイニングやレストランでの提供が増えてきている。これを日本文化の衰退とみるか、或いは世界標準化とみるかは意見の分かれるところだが、もともとコロナ禍以前に策定された観光庁の『観光ビジョン実現プログラム』には、民泊も含めた宿泊業と飲食店とのシェアリングを意図した「泊食分離」が盛り込まれており、時流に抗えないのも事実のようである。
とはいえ、いわゆるガストロノミー・ツーリズムは、その土地ならではの食材に、それを育んだ自然、伝統に則った調理法を、土地の文化として嗜む旅である。抹茶を椅子・テーブルでいただくことは殆どないが、供出作法が文化的一面であることは茶道が端的に表しているといえる。
例えば、特産松阪牛におけるスキヤキだが、特に火加減いかんによる霜降り肉の味付けを、手慣れた中居さんなしで堪能できる食通はそう多くはないはすである。
特産松阪牛とは、松阪牛の中でも兵庫県産の子牛を導入し、松阪牛生産区域で900日以上肥育した牛』と定義されたもので、松阪牛全体の数パーセントしか存在しない『松阪牛の中の松阪牛』『松阪牛のスペシャルグレード』である。
古来、松阪地方では、但馬地方(兵庫県)生まれで紀州育ちの若い雌牛を役牛として導入していたが、明治以降はそうした役牛を長期肥育することで、肉質の優れた松阪牛として生産してきた。
この肥育技術を継承し、松阪牛の中でも特に但馬地方をはじめとする兵庫県から生後約8カ月の選び抜いた子牛を導入し、900日以上の長期に渡り農家の手で1頭づつ手塩にかけて肥育されたものが「特産松阪牛」である。
一般的に牛を長く肥育することは、通常よりコストとリスクを負うため、熟練の農家が秘伝の匠の技を駆使し、『生きたまま熟成』させるという意味で、大切に育て上げた『究極のエイジングビーフ』だといえる。日本の農林水産省は2017年3月3日、「長期肥育による肉質の探求にいち早く特化し、その方法を確立した」として、国の特定農産物として地理的表示に登録した。
地域には、伝統的な生産方法や気候・風土・土壌などの生産地等の特性が、品質等の特性に結びついている産品が数多く存在している。これらの産品の地理的表示を知的財産として登録し、保護する制度が「地理的表示保護制度」である。
つまり、それは地域文化のブランディングなのであるが、ならば、その魅力を100パーセント引き出すための供出作法も、ガストロノミー・ツーリズムには欠かせないものであって、これらはSDGs⑧「すべての人々のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を推進する」や、SDGs⑫の「持続可能な消費生産形態を確保する」にも合致する要素である。
ユネスコの無形文化遺産である和食に欠かせない炊飯米同様、生産性や合理性にとどまらなず、価値観を守り、共有する必要がある。ガストロノミー・ツーリズムにとって世界標準化は水と油である。
(OHMSS《大宇陀・東紀州・松阪圏・サイト・シーイング・サポート代表》)

三重大学医学部附属病院

三重大学医学部附属病院

厚生労働省が令和4年度から実施する「脳卒中・心臓病等総合支援センター」モデル事業について、全国10自治体12病院を選定。東海地方では唯一、三重大学医学部附属病院を採択した。
循環器病とも呼ばれる脳卒中(脳血管疾患…脳梗塞、脳出血、くも膜下出血など)と心臓病(心血管疾患…急性心筋梗塞、大動脈解離、慢性心不全など)は、日本における主な死因の一つ。また、一生を通じて発症するリスクがあり、要介護状態の引き金になることも多い。
国は循環器病対策基本法を令和元年12月に施行。同法に基づき循環器病の予防や正しい知識の普及啓発、循環器病にかかる保健、医療、福祉に係るサービス提供体制の充実、循環器病対策を推進するための基盤整備を進めている。
同事業は循環器病の患者や、その家族の情報提供・相談支援などに対する総合的な取組みについてのモデル事業で、厚生労働省が今年年2月に公募していたもの。
選定を受けた三重大学医学部附属病院は、循環器病に対する急性期医療や高度医療を提供しつつ、県や市町、医療機関、関係団体との地域連携を通じ、医療面にとどまらず、社会面、心理面などからの支援や、予防に関する啓発などの活動を積極的に行っている。
今後はさらに強化し、循環器病の患者やその家族がワンストップで質の高い情報や支援を得られるよう、オール三重で同事業に取り組むとしている。
具体的には、循環器病に関する相談支援窓口として、「脳卒中・心臓病等総合支援センター」を設置し、三重県内の保健・医療・福祉に係る支援の提供体制の充実させ、周産期を含む先天性心疾患及び小児期・若年期から成人期、更には老年期までの生涯にわたるシームレスな循環器病に対する診療支援が可能になるという。

展示作品「埋葬(冥福)」 奈良県大和高田市・吉田勇・画

展示作品「埋葬(冥福)」 奈良県大和高田市・吉田勇・画

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が今も続いている。戦争がもたらす悲劇を目の当たりしている今こそ、先の大戦で苦しんだ先人達の体験を見聞きし、改めて平和の尊さを再認識する事が我々、現代を生きる我々の責務といえよう。中でも戦争が終了したにもかかわらず、在満日本軍人・開拓団・義勇軍・看護婦など60万人余りが旧ソ連のシベリア各地に強制的に拉致され、極寒の地で飢餓と重労働、疫病など、まさに生き地獄のような惨状で約6万人が死亡した「シベリア抑留」は広く知られている。
この事実を決して忘れず、風化させることなく
後世に正しく伝えようと
「シベリア抑留関係展示会~世紀の悲劇を銘記し、永遠の平和を祈念して~」が9月23日(金・祝)~25日㈰10時~16時、アスト津5階ギャラリーで開かれる。主催=(一財)全国強制抑留者協会、後援=総務省大臣官房総務課管理室、県、県教委、津市、市教委。入場無料。
会場では、体験者の描いた絵画(パネル)、体験を語る資料、当時の写真などに加えて、シベリア各地への慰霊訪問などの記録を展示する。
また、9月24日㈯13時~15時にはアストホールで「抑留体験の労苦を語り継ぐ集い」も開かれる。抑留者の体験発表では「ここで死んでたまるか!域て、生きて、一緒に日本へ帰ろう!」と題し、極寒と粗食の中で重労働を強いられながらも何とか生還した99歳の体験者2名が語る。
問い合わせは事務局☎070・2235・8865杉谷さんへ。

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