今回のアフターコロナ2度目の奈良訪問は、本居宣長記念館の名誉館長と松阪旅館組合長の同行となった。懐かしのオリジナル・メンバーである。行程は往路・復路ともに和歌山街道/伊勢街道に沿った国道166号線で、三重と奈良とを結ぶ街道の変化を私たちは目のあたりにした。高見峠を挟んで三重側には廃屋とソーラーパネルの乱立が目につき、奈良・吉野側には目立った変化はない。奈良側は西側斜面だからだろうか。車は宇陀市から国道166号線に入り、桜井・三輪山麓の茅原大墓古墳を経て奈良市内に到着した。
 JR奈良駅と猿沢池とをつなぐ奈良三条通りには、昨秋オープンしたモダンなアパホテルがそびえ立ち、ワシントンホテルは無症状・軽症患者の一時療養ホテルとなっていた。外国人観光客はほとんど見かけず、修学旅行生も少ない。老舗飲食店の閉店やテナントの入れ替わりも目立つ。奈良国立博物館のポスターを方々で見かけたが、「正倉院展」も予約制で当日券はない。
 シルキア奈良では、奈良市の観光協会に立ち寄り、旅行会社出身の元次長にお会いした。旧知の彼は鳥羽のマリテームをよくご存知だった。
 同じ階にある国連世界観光機関/アジア太平洋観光交流センターでは、副代表とプロジェクトコーディネーター、企画・渉外部長が迎えてくれた。私はツーリズムの方向性について私見を1時間ほど話す(話した内容は※から下の部分)。
 国内外から600人が集まる12月の世界フォーラムでのマスク着用の扱いついてお訊ねした。認識違いによる国内外ギャップに直面しそうだからである。
 国連世界観光機関からは、最新データのプリントアウトとフォーラムのパブリシティを受けとり、私は最新の新聞連載のコピーをお渡した。国際観光の回復の遅れが目立つのはアジアだけ。中国と日本の長期鎖国の為である。
 帰路には大宇陀にも立ち寄り、アフターコロナ活性化に向け、キーパーソンとの旧交も温めることができた(当地のまちづくり協議会謹製の初三郎俯瞰図を読み解く「神武天皇聖跡三國絵」は見事な出来だ!)。もっとお会いしたい方々がいるが、既に陽は西に暮れかけ風も冷たい。私たちは後ろ髪を引かれる思いでこの町を後にした。皆さまありがとうございます。次回の奈良訪問は、国内外から600人あまりが集まる12月の「ガストロノミーツーリズム世界フォーラム」だ。

 ※ロシアによるウクライナ侵攻で、世界の食料供給地図が大きく変わった。ロシアとウクライナは共に重要な穀物の輸出国で、両国が生産する小麦は世界市場のほぼ3分の1を占めている。日本の食料自給率がわずか38%、残りの消費カロリーはすべて輸入品頼み。円安容認下において食品価格急騰は不可避である。
 そもそも、日本の食料自給率は1965年の73%から低下の一途をたどり、現在は主要国で最低水準だ。とりわけ、83%が輸入の小麦、78%が輸入の大豆、97%が輸入の食用油などは海外依存率がきわめて高い。2022年5月、危機感を持った自民党議員団は、日本の食料安全保障の強化を政府に提言。その1カ月後には岸田首相が「新しい資本主義」の実行計画を決定。国内農業の再生を目的に、新技術を導入し、若い世代を農業へ呼び込むための施策がそこに盛り込まれた。
 日本政府は取り組みの一環として、農林水産物の輸出額を2021年の1兆2000億円から、2030年までに5兆円に引き上げることを目指す。これは2019年の旅行収支の受取額4万9324兆円に匹敵する。
 とはいえ、農産物の場合、単純に生産量を増やせばいいわけではない。作物を育てるには、肥料が必須である。だが、日本は肥料も海外頼みで、輸入依存度は75%にものぼる。主要な肥料の価格は、EUが炭酸カリウムの主要生産国ベラルーシに対して人権侵害を理由に経済制裁を発動し既に急騰していた。肥料輸出大国の中国とロシアが国内供給を守るという名目で輸出規制に踏み切ったためである。そこへウクライナ侵攻が始まったのだ。
 今のところ日本は主要な肥料原料について、モロッコやカナダと取引することで地政学的な障害を回避している。だが、ファイナンシャル・タイムズによると、このまま輸入価格が上昇し続ければ、日本は中国などの購買力の強い国に太刀打ちできなくなるといわれている。これは日本国民の腹だけ数えれば当然である。少子高齢化により、益々それは先細りするからだ。
 この点において、サービス貿易の輸出にあたるインバウンドの回復は、国際収支の改善のみならず、円安にも歯止めがかかる。マスク着用が自由化されれば尚更だ。そして、ガストロノミーツーリズムの推進は、スケールメリットによる購買力の強化や、農業政策への追い風にもなる。米国のように、モノ貿易を卒業してサービス貿易で立国するには、インバウンドしかない。国連世界観光機関のデータによると、米国のツーリズム収入2140億ドル(約23兆円2019年)は世界一だ。
 ちなみに、大和総研によると、新型コロナウイルスの感染拡大がなければ、2021年には約3540万人(消費額4・5兆円)、2022年には約4350万人(消費額5・7兆円)が訪日していたとのことである。
 (OHMSS《大宇陀・東紀州・松阪圏・サイト・シーイング・サポート代表》)