このところ公共交通機関を使わないようにしていたのに、たまに乗った電車で珍しい経験をした。駅でもないのに電車が止まり放送が入った。「踏切内に車が立ち往生しているので停車しました。現在確認をしています」
 どんな状況かと私は窓ガラスに頬を押し付けたが、踏切の様子は見えない。赤いランプがぐるぐる回転している。あれは緊急信号だろうか。
 留まること五分ほどで新たな放送が入り、電車が動き出した。トラブルは解消したらしい。赤いランプの回転も消えた。こんな理由で列車が止まる経験は初めてだ。事故にならなくてよかった。
 昔々、私が高校生となって電車で通学し始めた時に父が言った。「絶対に先頭車両に乗ってはいけない。後ろより事故の可能性が高い」思春期の娘は素直ではなくて、その指示を守ったこともあったが、無視したことも多かった。でも、列車に乗るといつもその言葉が頭に浮かんだ。今でも思い出す。
 そういえば、福知山線の脱線事故でも前の方の車両の被害が大きかった。踏切で立ち往生した車に一両目が突っ込むことがあるかもしれない。父の言葉は娘を守るものだった。
 通勤通学で毎日乗るなら、先頭車両は避けた方が賢明だ。それが運を分けるかもしれない。事故などめったに起こらないだろうが、家族に伝えておかなくては。    (舞)