三寒四温といいますが、ここ最近、暖かい日が続きます。春の訪れを告げる桜の便りも例年より早く届きました。庭の木々も芽吹き、鮮やかに萌え出し、まさに春眠暁を覚えずの候、春の眠りは心地よく朝がきたのも気付かないという春たけなわの季節を迎えております。
 今回は、この季節にふさわしく、「渡辺の綱やん」と「下りて行く」の二曲をご紹介したいと思います。一曲目「渡辺の綱さん」は道化風に面白く作られた曲で、二曲目は、花見の後、山を下りてどこへ遊びに行こうかと、相談している楽しい小唄になっております。
 「渡辺の綱やん」
 この小唄は、上方小唄を明治期に江戸小唄化したものです。
 
 渡辺の綱やんが「物の具」立派に身を固め「金札」ちょいからげ
 東寺の羅生門へたどりつく 時の黒雲がテンドロドロ 舞い下り にゅつと出た鬼の手 綱子の兜をちょいつかみ ところへ刀を抜き放ち ちょいと斬りゃ あいたいたい あいたいたいのあいたちこ 叔母御にその手を見せてんか 見せていな 嫌じゃいな どっこいそっこい そのてはやらじと三つ指でさあ きなぁせ

 唄の解釈は源頼光の家臣、渡辺綱が夜な夜な京の東寺羅生門に現れる鬼神の片腕を、斬りとった物語を小唄にしたものです。
 物の具とは、兜の事をいっています。又、金札とは江戸時代、諸藩で発行された藩札のことです。斬りとったその片腕を鬼神が七日の内に取り返しに来るというので、七日間、自宅の門戸を閉じて心身を清めている所へ、鬼神が叔母に化けて現れ、その腕を持って消え去るという物語を小唄にしたものです。 
 この唄は、謡曲「羅生門」を脚色したもので、つづりて「綱は上意」を参考にし、面白く道化風に作られた曲です。人を茶化したユーモアあふれる構成で、おどけ唄として、今日に唄われております。
 
 下りて行く
 「明治中期に作られた江戸小唄」
 
 下りて行く 花の盛りを後に見て 山で洒落よか船にしょか 大海はこちゃ嫌い
 
 この時代、江戸の遊里語で吉原を「さと」、深川を「かわ」、新宿を「やま」と呼びました。
 小唄の解釈は、上野か飛鳥山の花見で、すっかり酩酊し、酔っ払いながら、花の山を下り、さてこれから揃って、景気よく皆で、新宿へ行くか、船で深川へ行くかと、どちらの遊郭へ行こうかと、相談している所です。 花見帰りにふさわしく、賑やかな曲で、楽しい曲になっております。送りもまた大変長い手がつけられております。
 
 「暑さ寒さも彼岸まで」と言いますが、日差しはすでに初夏を思わせるような日があると思えば、花冷えのする日もあり、寒さが残るこのごろです。静かな気分で春のこの時をもう少し過ごしていきたいと思います。
 新型コロナウイルスも下火になってきたとはいえ、まだ完全にコロナも収まっておらず、マスクのいらない日常の生活が一日でも早く来ることを願うばかりです。くれぐれもお体をご自愛いただき、気をつけてお過ごし下さい。
 小唄 土筆派 家元
 参考・木村菊太郎著「江戸小唄」
 ※三味線や小唄に興味がある方や、お聴きになりたい方は、お気軽にご連絡下さい。稽古場は「料亭ヤマニ」になっております。電話は059・228・3590。