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曇天とはいえ、まだまだ蒸し暑い夏の終わりである。古文書や年輪、堆積層から読み解く古気候学によると、平城京があった奈良時代から、都が京に移った平安時代にかけては、現代と同じくらい温暖化が進んだといわれ、海岸線も内陸部深くへと進んでいたそうである。今同様、当時の夏も太平洋上には雲多く、気候も極端だったのだろうか。
今回の奈良行きは、本居宣長記念館名誉館長と一緒である。一人で運転していたら気が遠くなりかねない。心強い限りである。
私たちは国道166号線で県境を越え、午前中には奈良に入った。奈良は、大阪や京都泊まりのインバウンドのオーバーツーリズム受け入れ先としても最適のポジションにある。今日もJR奈良駅構内から三条通りを経て、商店街、奈良公園に至るまで、外国人観光客で大賑わいだ。もともと盛夏の奈良は、奈良盆地特有の暑気の為に日本人観光客は少なかったが、今や殆どいないと言っても過言ではない。まるで外国である。
奈良はインバウンド富裕層や長期滞在者を取り込むべく、高級ホテルの誘致に力を入れている。コロナ禍の中でも奈良公園周辺の高級ホテル開発が進められてきた。2020年6月には「ふふ奈良」が、7月には「JWマリオット・ホテル奈良」が、そして、昨日8月29日は、森トラストとマリオット・インターナショナルのブランドを冠した超高級ホテル「紫翠ラグジュアリーコレクションホテル奈良」がオープンした。
この大正11年建設の奈良県知事公舎を活用した邸内には、昭和天皇がサンフランシスコ講和条約批准書に署名した「御認証の間」が保存され、新たに新築された43の客室は、1泊2名で通常12万6500円から、オンリーワンの最高級スイートは、1泊朝食付きの2名利用で約82万円からとなっている。奈良はコンバージョン(変換)事業のお手本だ。更に奈良では来年以降、国の重要文化財「旧奈良監獄」の建物を活用した、日本初のプリズンホテルも計画されている。
国連世界観光機関では渉外部長とプロジェクトコーディネーターが出迎えてくれた。私たちは、国連世界観光機関の複数回にわたるセミナーや欧州統計局のフォーラムを通じ、地域振興と観光産業のかかわりについて、以下の3つの基本的な方向性を認識している。
まず、ツーリズム産業の安定的な経済活動と地域への貢献。続いて訪問者の多様な価値観への対応と受入環境の整備。そして、ツーリズムによる住民生活の向上である。
①ツーリズム産業の安定的な経済活動と地域への貢献
・シーズンオン・オフ平準化による売り上げと雇用の安定(従業員の所得向上、福利厚生の充実)
・地産地消やツーリズム事業における雇用などの現地調達
・ツーリズム事業者の地域コミュニティへの貢献
②訪問者の多様な価値観への対応と受入環境の整備
・ツーリストへの特別な体験(宿泊、ガストロノミー、アクティビティ等)の提供
・訪問者と住民の自然・歴史・文化などへの理解促進
・安全で快適にサイトシーイングできる受入環境の整備(メディカルも含む)
③ツーリズムによる住民生活の向上
・訪問者の環境配慮型行動の喚起
・地域の魅力や取り組み等のアウターブランディングとインナーブランディング
・ツーリズム関連の起業を増やし、自然・歴史・文化の継承に寄与
そして、「未来志向」のスピリットもだ。加えて、私は「ツーリズム」と「観光」が混同される日本の国民的コンセンサスの遅れについて話した。分かりやすい例を一つあげるならば、「メディカル・ツーリズム」と「医療観光」の訳語のちぐはぐさである。
日本では大学病院などでの渡航治療における高額な外貨収入は旅行収支に反映されてはいない。また、医療はDMOにも参加してはいない。しかしながら、これでは外貨が動くツーリズムの産業化推進においては不条理である(以前書いたが、タックスヘイブン地域における高額観光収入もそうだ)。ツーリズムは物見遊山だけではない。だから私は、三重県鳥羽市に国際会議場を備えたホテルへの改装を提案し、国の補助金採択も得た。最も多い国際会議はメディカルだからだ。
しかし、アフターコロナの回復が遅れているこの地において、それは時期尚早だったようである。3月末に全国旅行支援が終わって以来、閑古鳥が鳴いたホテル・マリテームだが、大量キャンセルをみたお盆の台風7号の影響もあり、この夏をもって事業撤退が決まった。少子高齢化や物価高騰、オフシーズンや天候不順などによる日本人観光客の減少を補うにはインバウンド誘致が必須条件だが、三重県の知名度はまだまだ低い。旅館やホテルの数は奈良県の3倍あるにもかかわらず、47都道府県中ビリから2番目だからである。
ところで、プロジェクトコーディネーターが申されていたように、今でいうウズベキスタンなどの中央アジア=ペルシア帝国の文化はシルクロードを経て日本に伝わった。正にこれこそは、ヒト・カネ・モノが移動するツーリズムの根幹である。奈良の正倉院の宝物には、ペルシャ王国のササン朝時代のものとされるガラス椀やガラス品、日本最古の敷物などが保存されている。
考えてみれば、これも日ユ同祖論の根拠の一つかも知れない。アイデンティティー云々ではなく文化の伝播という意味で、ツーリズムの成果への興味は尽きない。
帰り際、三重ふるさと新聞特別寄稿のナンバー67から70までのコピーをお渡しした。が、国連職員たちは既にその内容をご存知のようだった。新聞社が毎回この新聞を送ってくれていたのである。地方ニュースが殻を破って域外に出ることは意義深い。嬉しい限りである。(OHMSS《大宇陀・東紀州・松阪圏・サイト・シーイング・サポート代表》)
2023年9月28日 AM 4:55