関宿の西の追分付近からスタート

朝8時。JR関駅前の有料駐車場に車を停めた私は荷物をまとめたリュックサックを背負い、澄んだ空を見上げる。彼岸を過ぎてもなりを潜める気配がなかった猛烈な暑さも、いよいよ年貢の納め時といったところか。少し気温は高いものの、湿度の少ないさらりとした空気と柔らかい日差しは、まさに秋うららと呼ぶにふさわしい。
 前回の行程で津市江戸橋から関宿までの伊勢別街道約19㎞を踏破したが、これまで100㎞超の国道を2本踏破した私には少し物足りない。そこで関宿からは東海道を西へ進み、終点の京都三条大橋を目指していくというのが、ここからのルートである。新名神高速道路が完成したおかげで、津市から京都へは随分気軽に行けるようになった。何事も無ければ、京都市中心部からも近い京都東インターチェンジまで1時間強しかかからず、名古屋とさほど変わらない感覚で出掛けられるからだ。一方、古来より京の都へ向かうルートであった東海道とそこから派生した国道1号を利用する人は少数派になってしまった。だからこそ、今、東海道と国道1号を歩いて、京都を目指す行程を多くの方々に楽しんで頂けるのではないかと感じた。ただ、これまで私が踏破してきたいわゆる3桁国道と比べると、東海道や国道1号は余りにメジャーな存在。関連書籍なども豊富で、今更あれこれ語ることに少し腰が引けてしまうが、私ならではの視点で旅情を綴っていくので、ご容赦願いたい。
 今日の行程は関宿から、甲賀市の近江鉄道水口石橋駅までの約35㎞。一日で歩く距離にすると過去の徒歩旅の中では最長。通常一日20㎞前後であることが多いが、これほど長い距離を歩かなければならない理由は、この旅のやり方にある。私が全行程を適宜歩きやすい距離の区間に分割し、一日かけて気楽な徒歩旅をしながら、旅先での出来事を記事にしている。そして、次回は前回のゴール地点からスタートし、一日歩くというサイクルを繰り返して目的地をめざす。しかし、文字通りの一人旅では送迎が無く、電車やバスなどの公共の交通機関に頼るしかない。もし、交通の便が悪い場所で行程を終えてしまうと、帰りづらいばかりか、次回の再開も困難になってしまうので、少し無理をしてでも長距離を歩くしかない場面が出てくる。それが今回に当たる。過去にも何度か経験があるが、そのような区間は大体、昔の国境や県境をまたぐ難所揃い。今回のそれに当たるのが東海道を行きかう旅人の前に立ちはだかった鈴鹿峠である。相手にとって不足がないどころか、自らの力不足すら感じている。帰りの足となるJR関西線と峠の向こう側の東海道のルートは大きく離れているため、東海道沿いにあり、JRと連絡する近江鉄道の「最寄り駅」である水口石橋駅にゴールが自ずと定まったという訳だ。 
 軽い準備運動も兼ねて、関駅から前回のゴール地点である東海道関宿の関西方面への出入り口である西の追分まで戻ると、私は間も無く訪れる難所との戦いを思い描きつつ、スタートを切る。ちなみに、この付近で伊賀方面へと向かう名阪国道の本線に当たる国道25号へと分岐していく。
 まずは、東海道の48番目の宿場町である坂下宿へ。一体となっている国道1号と東海道は少しすると分離し、南北に蛇行しながら国道を一度またいでは戻るという軌跡を描きつつ、坂下宿へと続いていく。今日はどんな旅となるのやら。(本紙報道部長・麻生純矢)