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時刻は17時半過ぎ。日没と共に闇のとばりが景色を覆い尽くそうとする中、東海道五十三次の五十番目の宿場町水口宿に入る。ゴールの近江鉄道の水口石橋駅は目前である。水口宿は前回紹介した水口岡山城がある大岡山の南麓に整備された宿場町で、江戸時代後期には40余の旅籠と、本陣と脇本陣も置かれるなど、街道一の人止場と呼ばれるくらい大勢の人々でにぎわった。この集落で最も印象的なのは東海道の道筋が東西の入り口から約1㎞ほどの区間で3つに綺麗に分かれ、それに沿う形で町並みが形成されているところだろう。このまちで有名なのは 毎年4月に行われている水口曳山まつり。町の南に位置する水口神社の例祭で、江戸時代中期に始まっており、滋賀県の無形文化財にも指定されている。各町で受け継がれている豪華な曳山が囃子に合わせて練り歩く。曳山は地域のシンボルにもなっており、三筋の西側の入り口には曳山を模した立派なからくり時計も置かれている。地域のまつりを受け継いでいくためには、多くの人の熱い思いが不可欠である。皆が熱い思いを持っているが故に、一致団結もできるが、時に衝突もある。そんな紆余曲折を繰り返しつつ、あるべき形をつくりあげていく。つまり、伝統は革新の積み重ねなのである。
その後、間も無く近江鉄道の水口石橋に到着。時刻は18時前。総距離は約37㎞。鈴鹿峠越えを含むので、これまでの徒歩旅でも指折りの過酷な行程となった。駅は無人なので、改札からホームへと入り、ベンチに腰掛ける。近江鉄道は滋賀県最古の私鉄で、その歴史はなんと120年を超える。地元の人たちからは電車の走る音にちなんだガチャコンの愛称で親しまれている。ホームに到着した電車はワンマン運転。いかにもローカルな感じで落ち着く。車内に入って吊革にぶら下がりながら周囲を見回してみると、楽しそうに会話をする高校生の男女、本を読むスーツ姿の男性等々、私も含めて家路につく人ばかり。徒歩旅を始めて以来、出来るだけローカル線に乗りたいと思うようになった。新幹線や特急を使えば、あっという間に目的地にたどり着けるが、道中は非常に味気なく感じてしまうからだ。耳にしたことのない駅名、道中の車窓から見える景色、ドアを開けた瞬間入ってくるにおい、車内で出会う地元の人々の表情…。私には、それら全てが愛おしい。さりとて、私は鉄道マニアという訳でもないので、電車に乗ることが目的というわけでもない。つまるところ、道中から目的地まで余すことなく楽しみたいという欲張りな性分なのである。
「次回は草津辺りまでいけるといいな」。近江鉄道に揺られながら頭の中に酷くいい加減な滋賀県地図を描き、これまた酷くいい加減な憶測を基に次回の行程をイメージする。もちろん、そんなことをしても、確かなことなど何一つわからない。こういう時、便利な決め台詞がある。「ええい、ままよ」である。次回も楽しい旅になることだけは確信できる。(本紙報道部長・麻生純矢)
2024年2月22日 AM 4:55
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