新しい旅立ちの時、希望と夢に向かって歩み始める季節になりました。
 春の花がにぎやかに咲き始め、やわらかな春の日を透かす若葉の葉色の美しさに、見とれてしまいます。
 今回は「俳句と小唄」という題で松尾芭蕉の俳句から小唄二曲をご紹介いたします。
 
 元旦や
元日や 田毎の日こそ恋しきと 翁も若き人々も 逢えば互いに旧冬はだんだん 先ず当年も明けましては むつまじ月の唄の数々を 唄って目出度う 遊ばなくちゃなりやせん オッホン

 この小唄は明治27年頃(新暦晩冬一月)に作詞・三村周、作曲・一中節の都園中、初代清元菊寿太夫、二世清元梅吉の合作による江戸小唄です。 「元日や 田毎の日こそ恋しけれ」
 松尾芭蕉の句「更科日記)
 
 元日に詠んだ俳句を引用しております。初日の出を眺めながら、これが田毎の月(段々畑の水田に写る月)であったら、初日が田毎に写るだろうという意味の有名な句です。
 芭蕉のことを、おきなと呼んでいた所から、これを「老いも若きも」という言葉にして使ったもので、正月ともなれば、お互いに逢えば旧年中は色々とお世話になりました。本年もよろしくという所です。
 次の「むつまじ月」とは睦月(一月)のことで、ひねって「難し好き」として次の唄の数々にかけたもので、唄の好きな人が集まり、江戸小唄を作って目出たく遊びましょう、という意味です。
 明治中期、通人粋客が集まっては、江戸小唄を作って楽しでいた光景が見えるようなしゃれた小唄になっております。

 目もと口もと
目もと口もと 口もと目もと 目は口ほどに物を云う ためしをここに 象潟や 雨に西施が合歓の花
 
 この小唄は、久保田万太郎作詞・山田抄太郎作曲・昭和30年代(新暦晩春四月)の唄です。
 小唄は、夢に「西施」に似た美人を見たという万太郎が、その女性の目もとの美しさは、きりっとした中に憂いを含み、その眼は男性を引き込むような魅力を持っていて、「ためし」つまり、例えていうなら、中国の四大美女の一人、西施のような、美しさであったと唄っております。
 万太郎が引用した俳句は
 「象潟や 雨に西施が合歓の花」
 松尾芭蕉の句(奥の細道)
 
 芭蕉が象潟に舟を浮かべて、その雄大な景色の美しさに感動し蘇東場の「西湖」の詩を連想して、一句としたものです。  雨に打たれた合歓の花は、紫紅色で、白をぼかしたような美しさは西施そのものであるといっています。
 また、抄太郎の作曲も古典小唄調の軽妙な調子で、その女性の美しさを見事に表現しています。
 また、歌舞伎役者は役者名のほかに俳句を詠む時に使用する俳号を持っております。ちなみに、六代目菊五郎の俳号は梅幸、十代目団十郎の俳号は夜雨といい、現在でも団十郎を中心に夜雨の名前からとった小唄夜雨会が続いております。   暖かくなって春はどんどん進むものかと思っていると、意外に寒い日があったり、足踏みをするのは、この時季のお決まりです。お体に気を付けられ、くれぐれも体調を崩ささないようにご自愛ください。
 小唄 土筆派 家元
参考…木村菊太郎著「江戸小唄」

 三味線や小唄に興味ののある方、お聴きになりたい方、お気軽にご連絡下さい。中日文化センターで講師も務めております。稽古場は「料亭ヤマニ」になっております。電話059・228・3590。