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多彩な三重の姿を発信しているウェブマガジン「OTONAMIE」。懐かしさとワクワク感が入り混じる様子を「オトナミエっぽい」と表現するファンもいるなど、独自の立ち位置を確立している。代表・村山祐介さん(44)に多くの県民が気付かない三重の魅力などを聞いた。全3回の第2回。(聞き手=本紙報道部長・麻生純矢)
(前回からの続き)
村山 僕自身は新興住宅地で生まれ育ち、そこは会社勤めの人が多い平均的な地域。学校へ行っても似た境遇の子たちが多く、オトナミエを始めてから、初めて尾鷲にいきました。その時、街中のオシャレなカフェの紹介をしてたら、とある記者から「全然面白くない」と言われました。その人は尾鷲の漁村でゲストハウスをしている人で改めて行くことに。
そして、初めての漁村で衝撃を受けました。狭い地域に人口数百人がギュッと生活しており、昼過ぎには漁師さんが仕事を終えて、酒の自販機の前でたむろして飲むみたいな光景を見たり、ウイスキーを持って步くおじいちゃんを見たり…。道路にガードレールもなくて、すぐ海なので夕方になるとおばちゃんたちが海に夕飯を釣りに行ったりもしています。
平均的な地域で生まれ育った身としては、こんな暮らし方があるのだなと凄く衝撃的で。平均化されてないのがローカルの面白さと気付きました。これは中山間地域でも田園地域でも同じ。平均化されてない面白さはメディアにも活かせると思い、平均PVを上げるよりも「なんか変な記事がいっぱいある!」の方が面白いんじゃないかと思いました。要するにPVよりもらしさですね。
しばらくそういったことをやっていると「オトナミエらしい食堂を見つけた」というような投稿をSNSで見つけました。それは凄く古びた食堂で、オトナミエらしさとはこういうことなんだなって。究極に面白い情報はなんだろうと考えたら、インターネット上に情報が無い良いものを見つける方が面白い。それがオトナミエらしさになっていると思います。
それに気付いたきっかけが、少し前までオトナミエの副代表をしてもらった福田ミキさんという東京から桑名に移住した方の記事。今は閉めたんですが桑名の一見さんが入りにくいラーメン屋さんのようなお店の紹介が凄く面白かったんです。私の記事で1番バズったのが、津市中央の中華料理店の孫悟空さんのお話。今はレトロブームですが、当時は新鮮で、そういったお店からは絶滅危惧種的な魅力も感じます。
─昔は現地の人しか出会えなかったお店でも、今は見つけることで発信と共有ができますしね。
村山 そうですね、だから登録してる記者にも「その地で暮しているからこそ知っている魅力を伝えてください」というようなことを伝えています。あとメディアでは凄い人ばかりを取り上げがちですが若い子からは現実味がない(自分との距離が離れすぎている)と言われることも多い。だから普通であることが面白いと方々で聞くし、普通であることが凄く良いことなんじゃないかと思うようになりました。
─普通というのはその地域で長年培われてきたものの象徴なので、その面白さに気付けると世間が一気に楽しくなりますね。特に印象に残っていることはありますか?
村山 一般的なメディアで限界集落は、高齢化が進んで凄く悲しいといったイメージで報じられがちです。でも、実際行ったらお年寄りはとても元気で明るい。若者が行っても、空き家が沢山あるのでチャンスがある。だから現場を見てほしい。例えば、街中の高齢者は、いわゆる一般的なイメージのおじいちゃん、おばあちゃんが多いです。でも、限界集落のお年寄りは高いところから飛ぶくらい元気でした。一度、尾鷲で限界集落について、お年寄りに聴いたことがあります。すると「確かに町は無くなる。伝統文化が無くなるのも嫌やけど、自分ももう死ぬしな。あはは」ととても明るい。残すのは、大切なことですが、悲観ばかりすることはないのかなと感じました。
─確かに人口数や高齢化率だけを追うと悲壮感と危機感しか湧いてきませんが、限界集落にいる人たちの本音を知るとまた新たな景色が見えてきますね。(次回へ続く)
2024年6月27日 AM 5:00