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「サロン」ってなんと良い響きでしょう。優雅で洗練された客間や応接間で人々が楽しく語っている姿が想い浮かびます。サロンはフランス語で「客間」の意味。教養ある上流婦人が来客をおもてなしする広間です。
日本では平安時代の華やかな文化サロンとして賀茂斎院・定子サロン・彰子サロンが挙げられます。賀茂斎院は賀茂神社に巫女として奉仕した未婚の内親王の御所で、伊勢神宮の斎宮にならったものです。歌会、絵合わせ、雅楽を行い、人との関係や人と自然への礼節を大切にして知性ある所作のところです。なかでも選子内親王(父第六二代村上天皇、母藤原安子)は五代の天皇に仕えた歌人です。選子内親王は定子、彰子のサロンに影響を与えています。教養(歌を詠む、文字を書く、楽器を奏でる)をもった中流貴族の娘が女房(宮中の女官)として皇后、中宮に仕えました。
定子(父藤原道隆 母高階貴子)のサロンは一条天皇や高級官僚が集い会話や芸術を楽しむ知的なサロンです。『枕草子』の作者清少納言は定子に仕えており、定子の頭がよく、思いやり深く、朗らかな性格に心から崇拝しています。一条天皇と定子皇后の仲睦ましい箇所が『枕草子』の四七段と七七段に書かれています。しかし、定子は父兄の政治失脚で後ろ盾をなくし、悲しみと苦しみの中で死んでしまいました。
中宮彰子(父藤原道長母源雅信の娘倫子)がサロンを作っています。赤染衛門、紫式部、和泉式部などが女房として仕えています。高貴なお嬢様の集りの会です。彰子は上品で優しく控えめな性格なのです。父の道長が才能や聡明な人柄の紫式部を探し出して、『源氏物語』を書くのを支援しています。歌会、管弦楽が盛んに行われた事が日記等に書き残しています。
安土桃山時代になると豊臣秀吉の正室寧々がサロンを開いており、大名や禅僧達が集まる文化サロンです。高台寺の圓徳院の名勝「北庭」は時勢の移り行くのをじっと見ていたのでしょう。江戸時代では将軍家の私的なサロンである大奥があります。将軍様しか入れない所です。徳川幕府第三代将軍家光の乳母春日局が作った巨大な女性の居室(ハーレム)。幕末まで続きました。儒学思想を基としての情操教育がなされています。愛憎の深いサロンであったろうと思います。
海外ではフランスのルイ16世とマリー・アントワネットのベルサイユ宮殿や、オーストリアのマリア・テレジアのサロンがあり華やかな舞踏会が行われています。私の好きなナポレオンの皇后ジョゼフィーヌはマルメゾン舘にサロンがあり新しい文化を生み出しています。ジョゼフィーヌは一度だけ着た衣服は女官達に渡したり、化粧の仕方や優雅な言葉は上流階級の婦人達に大きな影響を与えています。「フランス人の皇后閣下」と称され、飾らない朗らかな人柄なので訪れる客人でサロンは一杯です。美しいバラ園の香りが人々の心を満たしています。
さて、サロンには愛玩された猫、犬がいます。日本の猫の起源は6世紀の仏教伝来の頃です。飼育された猫は当時貴重だった紙がネズミに食い荒らされるのを防ぐ為の大切なペット(便利な道具)です。父より譲り受けた黒い猫を一条天皇はまるで宝物のように懐に入れています。平安時代に描かれた『信貴山縁起絵巻』には猫は室内で首輪がつけられてうずくまっており、犬はのびのびと放し飼いです。『源氏物語』の若菜三十四帖には猫は紐で繋がれているシーンがあります。室町時代には臨済宗の東福寺(京都東山区)の吉山明兆(兆殿司)作のもので龍光寺(鈴鹿市)と林性寺(津市榊原町)の涅槃図に猫が描かれています。江戸時代では徳川家康の側室である御奈津の方が増上寺に寄進した涅槃図(狩野芳崖作)に白黒の猫が描かれています。猫には長寿の意味が含まれているからでしょう。
そして犬も猫と共に崇拝された動物です。犬は災いを払いのける力があると言い伝えられています。白い犬は吉兆のしるし=神の使いで幸福をもたらす動物とされていました。日本書紀のヤマトタケルの道案内の白い犬。聖徳太子の犬は白い「雪丸」。藤原道長を呪いから救ったのも白い犬です。平安期は猫のほうが大切にされていましたが、鎌倉期に入ると犬が大切にされるようになり犬も人間の餌として飼われていました。江戸期には「生類憐みの令」の犬公方綱吉は犬を大事にした話は有名ですが、捨て子や病人の保護や弱者の養護に力を入れています。動物愛護の先駆けでしょう。また飼い主の代わりに伊勢参りをする犬もいました。さらに将軍や大奥など室内で飼われた〝狆〟がいます。古代に中国から献上された犬を基にして日本で作り出された小型犬です。
十七~十八世紀のヨーロッパのサロンではパピヨン、コーギー、コリー等を飼っています。
古くからテレビ番組でやっている「トムとジェリー」唱歌の「雪やこんこん」に出てくる猫と犬のシーンが思い出されて楽しい気分になります。猫や犬と一緒にいると癒されると言われます。動物の存在は心の拠りところ、心の安定のためになるのでしょう。「きょうのわんこ」を見ていると何故かおいしそうな名前(例えば、もも、プリン、あずき)が多いように思います。それ程に可愛いのでしょうね。
古代から変わることなく続く人間愛、人と関わりは各サロンの発展となり、また愛玩の猫や犬への心持ちは人を和ませ、心豊かにしてくれるのでしょう。
(全国歴史研究会 三重歴史研究会 ときめき高虎会及び久居城下町案内人の会会員)
2024年7月25日 AM 4:55