発達さんの日常

発達障害のリアルを当事者・専門家らが語る対談連載。発達障害は、生まれつき脳の発達が通常と違うために幼いうちから現れる様々な症状。出生率は数十人に一人と言われる。発達障害を持つ子の支援に繋がる「発達検査」「自閉症疑似体験」について心理士の米田奈緒子さん、当事者の母・堀井真由美さんが語る(敬称略)。

 

堀井真由美 さん 2児の母。次女は広汎性発達障害。こんぺいとう(旧SAS鈴鹿自閉症勉強会)代表。当事者の親同士を繋げるためランチトークを催している。

堀井真由美 さん
2児の母。次女は広汎性発達障害。こんぺいとう(旧SAS鈴鹿自閉症勉強会)代表。当事者の親同士を繋げるためランチトークを催している。

米田 私たちFACEは、三重県内の公的機関で発達検査を行っています。この検査の知名度が上がったこともあり、受検希望者や、1度受けて1年半後に変化を検証するため再度受ける人も増えてきました。
私がとても嬉しかった事例なんですが、低学年のとき落ち着きがなく親も大変だった子が、高学年で検査を受けて中学での支援に繋げ、先日3回目の検査をしたら落ち着きのなさがほとんど見られなくなり、高校受験に向かっていたんです。学校と家庭が連携し、早期の診立てと支援が適切に行われると子供はこんなに変われるんだなと実感し、これは頑張らないとと改めて思いました。
発達障害を持つ子の支援策に悩んでいた教師や保護者が、「発達検査によって光が見えました」とおっしゃられることもあります。例え厳しい検査結果であっても、きちんと受け止めてもらえれば、適切な支援を始めるきっかけになり得ます。
堀井 こんぺいとうからも、FACEさんに、中学生や高校生になってから周囲

米田奈緒子 さん (一社)家庭教育研究センターFACEふぁす=鈴鹿市=代表。臨床発達心理士。三重県内の公的機関で発達検査を行っている。3児の母。

米田奈緒子 さん
(一社)家庭教育研究センターFACEふぁす=鈴鹿市=代表。臨床発達心理士。三重県内の公的機関で発達検査を行っている。3児の母。

になじめないけれど精神科を受診するのはハードルがとても高いと感じている子を、何人か紹介しましたよね。
こんぺいとうでは、自閉症の人の見え方や聞こえ方を疑似体験してもらうキャラバンを行っています。「こういう見え方、聞こえ方の人もいる」という知識が頭の片隅にあるのとないのとでは、実際出会ったときの接し方が違ってくる。「こういう行動をしているのは、こういう風に見えているからかも」と思ってくれると、親としても、子供と一緒に街に出るのが楽になります。
米田 コンピューター技術が進む中で「認知」という言葉が注目され、もしかしたら一人ひとり全然違うものを見て・聞いているのではという考えがやっと一般的になってきましたよね。例えば「赤色」も、自分が思う赤と他の人が思う赤は、違う色かもしれない。その傾向がすごく強い子には、ただそこに居ることがすごくしんどい。本人にその状況にある程度慣れてもらいしんどさを緩和することと、周りが理解することの両方が必要です。 (次回に続く)

発達障害のリアルを当事者・専門家らが語る対談連載。発達障害は、生まれつき脳の発達が通常と違うために幼いうちから現れる様々な症状。出生率は数十人に一人と言われる。前回に続き、発達障害者の言葉・コミュニケーション能力の支援を当事者の母・亀田佳子さん、特別支援学校教諭の石井幸仁さんが語る(敬称略)。

当事者の親と教諭が語る

亀田佳子 さん 三重県在住。三男が最重度判定の知的障害があり自閉症。子育てに不安を感じ参加した県外の勉強会で息子とのコミュニケーションには視覚的な支援が有効と知り、2002年地元で勉強会を発足。

亀田佳子 さん
三重県在住。三男が最重度判定の知的障害があり自閉症。子育てに不安を感じ参加した県外の勉強会で息子とのコミュニケーションには視覚的な支援が有効と知り、2002年地元で勉強会を発足。

亀田 息子の知的レベルから考えて、小学校時代は当初、学校や家での一日の流れすら意味理解していなかったと思います。コミュニケーションを学ぶ前に、学校に行く意義を分からなきゃいけないから、朝の会などの絵や、全ての教科書の写真を用意し、先生にお願いして毎日、時間割に合わせ教室内に提示してもらいました。家でも、登校前や下校後の予定を毎日、視覚的に伝え続けました。各活動の「終わり」が分かることで、一日の流れも分かっていくのではと考えたからです。
その結果、息子は一日の流れがあるということを、徐々に、なんとなく理解したようです。
石井 適切なコミュニケーションの積み重ねによる効果ですね。
亀田 そうですね。そうやって幼い息子は、身の周りの、訳の分からないことだらけだった世界のことを徐々に理解し、絵カード・写真・筆談で意思を伝えようとするようになりました。
当時はそれで癇癪の回数が減り落ち着いてきたのですが、成長するにつれ語彙が増え、感情も複雑化して、言いたいことが増えています。表現するための写真などを増やしているのですが、数が多すぎて追いつかない。そのため私と息子の間で意思疎通ができないということが日々起きて、葛藤があります。

 

 

肯定的に話し安心感を

石井幸仁 さん
三重県立松阪あゆみ特別支援学校教諭。発達障害の人などが対象の、絵カードを使ったコミュニケーション学習「PECS(ペクス)」の普及に取り組む「三重PECSサークル」の代表。

石井 子供がこれをしたいという願いを伝えてきたときに、いつ叶えられるか見通しを伝えず、「今はだめ」などと否定するだけだと、子供は不安になり確認行動に走る。例えばジュースが飲みたいのにいつ飲めるのか分からないと、「ジュース!」と連呼したりします。
私が以前小学部で担任したある児童は、言葉を話せるんですが当初は全く自分の意思を伝えず、授業にも参加せず走り回っていました。しかし「PECS」を活用し見通しを示して指導したところ、1時間の授業の中で目的を持ち、終了時間まで参加できるようになりました。そして集中し参加できる授業が増えて、最終的には、3週間後の卒業式で好きなDVDを観るのを目標にして3週間も頑張ることができたんです。このとき「子供は、良き見通しがあり、学習を積み重ねることができて、安心感があれば頑張れるんだ」と実感しました。
亀田 私も、肯定的に話すことを心がけています。子供の問題行動には、きっと理由がある。例えば延々と手を洗っていて、理由は石鹸を使い切ってしまいたいからとか。だったら石鹸を小さくしてあげたら済みますよね。子供の言動の理由を色々な視点で考えて安心させてあげることは全部、親と子供のコミュニケーションになります。
発達障害などの障害がある子や、障害の程度が重い子も、上手く表出できないだけで色んなことを考えたり思っていることを皆さんに知ってほしい。障害がある子も、自分に合うツールを使えばコミュニケーションできる能力はきっと持っていると、私は考えています。
(第3回終わり)

発達障害のリアルを当事者・専門家らが語る対談連載。発達障害は、生まれつき脳の発達が通常と違うために幼いうちから現れる様々な症状。出生率は数十人に一人と言われる。今回は、発達障害者の言葉・コミュニケーション能力の支援について、当事者の母・亀田佳子さん、特別支援学校教諭の石井幸仁さんが語る(敬称略)。

 

当事者の親と教諭が支援を語る

亀田 私の息子は現在26歳、手帳では最重度判定の重度の知的障害をもつ自閉症(発達障害の一種)です。2歳のとき発語がないため相談に行って、療育を受け始めましたが本人の状態は変わらず、悩みました。
なんとか息子とコミュニケーションをしたいと思い、自閉症の子などを対象とする「TEACCH(ティーチ)プログラム」の勉強会に参加し、重度の自閉症の子がタオルを振り回しながらも、お母さんに「お茶下さい」と絵カードで伝えているビデオを見て、希望の光だと思って、コミュニケーションの方法は言語以外にもあると気づいたんです。
子供のころは「超多動」で、裸足で家から脱走することが多く、脱走中に交通事故に遭ったこともあり、自宅を建てたときには塀を高くしたんですが、簡単に上って外に出てしまいました。
そこで、息子が行きたい場所や今まで行った場所を全て写真に撮り、出掛けるときは事前に息子に「今日はここに行きます」と写真を見せて行き先を伝えるようにしたら、黙って家を出て行くことがなくなりました。
そのうち、息子のほうからここに行きたいとアクションするようになり、息子とのコミュニケーションでは、本人が目で見て理解することが大事だと分かりました。
また息子は茄子が好きなので、私は息子が小さい頃から茄子の絵カードを作って「これは茄子」と伝えていたら、本人はあまり絵を描けないんですが、ある日、茄子を描いて自分から「茄子」と伝えてきたんです!さらに、写真と文字を一緒にしたカードをコミュニケーションに使うことで、息子が伝えてくる言葉が増えました。
小学校1年生で特別支援学級に入った際には、担任の先生にも「息子はあいうえお表に興味がなく、今までの経験上、いくら一生懸命教えても覚えないから、息子が興味のある食べ物を学習に活用して下さい」とお願いしました。そしたら運動会では、先生がゴールで茄子の模型を掲げて「茄子だよ~!」と言ってくれて、息子はそれに向かって走っていきました。
石井 自閉症の子供にとって「走る」って中々目的を持って取り組みにくいですし、行事という普段と違う状況だったり、ギャラリーがいたりすると一層難しい。そんな中で、先生は、ゴールで茄子を持つことで走ったら嬉しいことが待っているというセッティングをして、モチベーション(動機)を作ってくれたんですね。その考えはすごく大事だと思います。
私は、動機付けを重視しています。授業で知識を得たり、将来役立てたりすることも大切ですが、何のためにこの学習をやっているのかという目的を明確にして、その授業時間内に達成し、子供自身が頑張って良かったと思えることが必要だと思います。
亀田 そうですね。当時、周りのお母さんの中には課題をやったから欲しいものをもらえるという風には教えたくないと考える人もいましたが、子供が将来仕事をしてお金をもらうということを考えると、頑張ったから何かもらえるのは良い経験になると思います。

 

目的達成の見通し明示  「選択する力」も育む

 

石井 私は今、中学部2年生を担任していますが、学年が上がり卒業が近づくにつれ、「将来のために」「働くために」と先生目線の目標が増えてくるんですよ。それで意欲が持てる子なら良いのですが、意味がわからないまま過ごしている子もいるので、一人一人に分かる支援は必要だと思います。文科省が掲げる「主体的・対話的で深い学び」には、子供の夢・願いを踏まえて必要なスキルを指導することが大切だと考えています。
例えば作業学習という授業で、何のために、何を、どのくらいすれば良いのか、見通しを提示しないまま手先が不器用な子供たちに作業をさせているケースがあります。 私は、作業自体にモチベーションを持ちにくい子たちのために「PECS」の「視覚的強化システム」を導入しました。
このシステムは「何かの課題を頑張ったら、ごほうびが手に入る」ということを視覚的に示すもので、子供が課題を達成する毎にトークンと呼ばれる黒い丸をボードに貼り、トークンが貯まればごほうびと交換します。
毎回の授業の最初に、課題を頑張ったらその授業の終わりに得られるごほうびを本人が選ぶんですが、中学部の子でも「選択する」ということを学習していないため、初めは選べないんです。
そこで、年度初めに子供の好みのリサーチもしてごほうびを沢山用意し、選択することも指導。すると、子供が自ら選び、何を選んだか先生に伝えるようになります。初期は子供が選んだものを採用しますが、その後、今日はこっちのごほうびでお願いねと言うことで、交渉することの学習にもなります。このやりとりを学ぶことで社会性が飛躍的に高まります。
亀田 そういう風にして、先生が頑張ったねと褒めてくれたり、課題ができたなど良いことがあったときに先生が傍にいてくれることにより子供に安心感が生まれると、コミュニケーションもスムーズになっていくと思います。 (次回に続く)

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