街道に遊ぶ

津市から京都まで(今回の連載でめぐる行程)

 「歩きたい。どこか遠くへ」。胸の奥に湧きあがる根源的な欲求に抗えなくなっている。
 思い返せば10年ほど前、津市全域を自転車で巡る旅をしたことで私の中に眠っていた旅への情熱のようなものが目覚めた。それは海外など遥か遠くを目指すのではなく、自分の足で歩いて行ける日常の先にある非日常を知りたいという感情を原点としている。ここ60年ほどで移動の主役は自動車や電車などに奪われてしまうと同時に、歩くことを煩わしく思う人も増えた。100m先のコンビニへ車で移動する人だってそう珍しくない。津市からは5時間あれば鉄道などで名古屋、大阪はもちろん、東京へ出ることも可能。一方、普通の人が徒歩で休憩しながら歩けばせいぜい一日20㎞移動できれば御の字。効率面ではナンセンスという他ない。
 裏を返せば、歩くことはとても贅沢な時間の使い方といえる。歩くことで古の人たちと同じ時の流れに身を置き、心を通わせることもできる。普段見逃していた様々なものをじっくりと観察することができ、その繰り返しがきめ細やかなフィルターを自分の中に形成していく。何気ない風景からも情報を漉しとれるようになるので、世界の解像度が飛躍的に上がるというわけだ。今では、私が旅をする時は目的地以上に、過程にこだわるようになっている。自動車で移動する時ですら、出来るだけ「下道」を通るようになっている。
 これまでに、津市に終点がある国道163号線と国道165号の計250㎞を踏破する旅をしてきた。前連載に当たる「国道165号を遡る」には昨年末に連載を終えたばかりなので、読者の中には「もう次が始まるの?」と思われる方も少なくないはず。しかし、165号を踏破したのが昨年の3月31日。実に10カ月ほど前。長らく徒歩旅をしていない訳で、うずうずしても仕方がない時期に来ている。
 随分前から「次はどうする?」と考えていた。歩くことは、もはや私のライフワークとなっているので確定事項。そうなると自ずとどの道を歩くかが主題となる。真っ先に候補が浮かんだのは、津市に起点がある国道306号。この国道は、津市、鈴鹿市、四日市市、菰野町、いなべ市を経て終点の滋賀県彦根市に至る道。この道は私の出勤ルートで、滋賀県方面に出かける時はいつも通るため、勝手知ったる国道だが不採用になった。前の連載からの読者はお判りだと思うが、私の場合は天下御免の一人旅。一日で20~30㎞歩いてその行程で起った出来事を記事にしたら、次回は中断地点から再び歩き始める。一人で歩き、取材し、撮影するの繰り返しで一本の道を味わい尽くすというスタイル。中断地点から返ったり、再開する際には、公共の交通機関を利用するのだが、306号はアクセスが非常に悪く、効率の良い旅ができない。これが不採用の理由である。
 次の候補は国道23号。三重県の北中部に暮らす人たちが国道と聞かれたら真っ先に思い浮かべるであろう路線。伊勢湾に沿って愛知県豊橋市と三重県伊勢市を結ぶ東海地方の大動脈で、ルーツは伊勢参宮街道。お伊勢参りが国民的な慣習となった江戸時代以前から続く信仰の道。ただこの道も公共の交通機関とのアクセスが芳しくない区間が多く、自動車道として整備されていることからも、歩くことが困難な国道であるため不採用となった。しかし、伊勢神宮に至る道というヒントを得たことによって、歩くべき道が決まった。
 それは伊勢別街道である。江戸橋付近から関東方面へと伸びる伊勢街道と枝分かれし、東海道の関宿まで関西方面へと延びる18㎞ほどの道。これだけだと距離的に物足りないので、そこから東海道の関宿から、終点の京都の三条大橋をめざす計100㎞ほどのルートを巡ることとする。
 これまでの旅は国道を歩いてきたが、今回はそのルーツである旧街道を辿る。昔は主要道であったが、家屋が通りに面しているため、道幅の拡幅が難しく、車社会とは噛み合わなくなり、今では地域住民の生活道路になっている場所も多い。つまり、普段通ることがない区間が多く、私にとっての〝非日常〟がゴロゴロしているということ。当然、峠越えにもチャレンジするので、これまで以上に過酷になる。ただ3回目ともなれば、経験に裏打ちされた自信が自ずとわいてくる。満を持してのチャレンジといえるかもしれない。
 2023年1月24日13時過ぎに私の新たな旅が幕を開けた。(本紙報道

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