163号をゆく

高山大橋交差点付近(奈良県生駒市高山町)

高山大橋交差点付近(奈良県生駒市高山町)

謎のクーラーボックス(奈良県生駒市北田原町)

謎のクーラーボックス(奈良県生駒市北田原町)

国道163号の生駒市高山町の高山大橋交差点は上下線が分離されており、歩道も地下を横断する形。いわゆる最新型の道路である。163号の中でも四條畷市と生駒市を結ぶ全長約11㎞は「清滝生駒道路」と呼ばれており、その整備計画に伴いこの交差点付近の道路も改良されている。
この道路は、慢性的な交通渋滞や急勾配や急カーブの解消を目的としており、ちょうどこの辺りを入口に四條畷市に向けて、今の国道の北側に新たな道路が建設される計画。土木工事技術の進歩に伴い、山中にまっすぐ広い道を構築することが可能となり、谷筋の曲がりくねった狭い道にこだわる必要がなくなる。  道路は人々の想いが募り、それが具現化されたものである。道路の付け替えによって人の流れは変化し、周囲の街に変化をもたらす。それがどのような形で顕現するのか分かるのは先の話であるが、必ずこの目で確かめようと思っている。
流転する世界で、一人の人間が知覚できる範囲など、ほんの些細なものである。だからこそ、できる限り自分の心に刻みたい。そんなことを考えながら歩いている時に、同市北田原町付近の歩道で〝それ〟と出会った。
歩道の柵に立てかけられた古びた看板に「差し上げます。御自由に持って帰って下さい」とかすれた文字で書かれており、その脇にクーラーボックスが置かれている。
字面だけを見ると、どうということはないかもしれないが写真をご覧頂くと分かるように実物は、静かな威圧感を放っている。足を止めて開けるべきか、開けないべきか、しばし逡巡する。
ここで頭に浮かぶのはギリシア神話のエピメテウス。主神ゼウスから火を盗み、人類に授けた神プロメテウスの弟神。名前を日本語訳すると兄がプロメテウス(先に考える者)なのに対し、弟はエピメテウス(後に考える者)と、これだけでどのような神なのか分かるはず。
エピメテウスは、兄の忠告を聞かずにゼウスからの贈り物である人類最初の女性といわれるパンドラを妻として迎える。ここから先は、かの有名な「パンドラの箱」の物語である。ある日、パンドラは、神々より「絶対に開けてはいけない」と言われ渡された箱を興味本位で開けてしまう。するとそこから、争いや病気など、様々な災厄が世界中に飛散し、人々は苦しむこととなった。
前振りが、やや壮大になってしまったが、衝動に任せて行動するのはよくないという教訓だろう。何が入っているかは非常に気になるが、真実を知らない方があれこれ想像する余地が残る。最終的には「近所の人が善意で余った野菜を入れているのではないか」と結論付け、先へと進む。
後日談であるが、周辺の追取材を行った際、この場所を再び通ると、看板とクーラーボックスは消えていた。あれは一体なんだったのだろうか。結局のところ、私は『後に考える者』にすぎなかったのである。(本紙報道部長・麻生純矢)

「奈良先端科学技術大学院大学」付近(奈良県生駒市高山町

「奈良先端科学技術大学院大学」付近(奈良県生駒市高山町

歩道無き道をゆく(奈良県生駒市鹿畑町付近)

歩道無き道をゆく(奈良県生駒市鹿畑町付近)

生駒市史では国道163号は主要道路であった一条街道と清滝街道を一つに結んだものと説明されている。市史が綴られた1985年でも重要な道と位置付けられており、無論それは今日でも変わらない。ただこの市史で面白いのは、国道163号が四日市市に達する道路と記載されていることだ。
これまでにも何度か説明したが、国道163号は元々、大阪市と四日市市を結ぶ国道だった。それが、名阪国道の開通した1963年に旧上野市から四日市市までの区間が切り離され、国道25号へと編入。その後、1993年に旧上野市から津市の岩田橋北交差点間が国道に編入されて今の形となった。つまり、この市史が書かれる20年以上も前に四日市市に達する道では無くなっているのだ。関西方面には国道163号のことを、この市史が書かれて30年以上経った今も四日市線と呼ぶ人がたまにいるそうだが、それを証明するような記載である。後に国道へと編入された区間が走っている津市の方々にとっては特に面白く思えるのではないだろうか。
さて、話を旅路に戻そう。生駒市に入って、のんびりと山間の地域を歩いていると案の定、再び歩道が消えた。路側帯もほとんどないので、身を縮めながら白線をなぞるように歩いていく。
道路の両端が木々や草に覆われ、見通しの悪いカーブ箇所には、ご丁寧に「事故多発地帯」と書かれた立て看板。ここまでの行程で何度も同じような経験をしてきたが、一つ間違えば大事故に繋がりかねないことには変わりない。慎重に進んでいく。
生駒市も関西文化学術研究都市を形成する一都市であり、その中核である国立大学の「奈良先端科学技術大学院大学」は国道163号に沿う場所に立っている。この大学には、ノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥さんが現在の京都大学の前に在籍。今や誰もが知っているiPS細胞の研究を開始した地でもある。
そんな場所とも津市が一本の道で繋がっていると知れば、驚く人も多いのではないだろうか。何気なく普段通っている道の先には、世紀の大発見に関わる地が待っているのだ。
同大学を越え、更に国道を進んでいくが何度か車道の端を歩く羽目になり、肉体的にも精神的にも疲れを感じ始めている。先述した左足裏の痛みも気になり始めているので少し広めの歩道の端で休憩。腰を下ろしポケットからスマートフォンを取り出し、地図を確認する。どうやら間もなく大阪府の県境で、それを越えれば四條畷市に入るようだ。
やはり、ここからの距離と日没までの時間を考えると、JR四条畷駅が今日のゴールだと確信する。(本紙報道部長・麻生純矢)

国道163号と並走する道路を歩く(精華町柘榴付近)

国道163号と並走する道路を歩く(精華町柘榴付近)

京都府と奈良県の県境

京都府と奈良県の県境

精華町を国道に沿って進むと、とうとう歩道が消えた。もう慣れたとはいえ、車道の端のわずかな路側帯を頼りに進むことは避けたい。少し背伸びをして、先を見渡すとどうやら地元の集落の生活道路が国道と並走しているようだ。
国道の北側を走る道は集落に入る部分が斜面になっている。そこにある道路標識に立てかけられた一枚の看板を見ると、「柘榴」というこの集落の名前が書かれている。
名前を目にした瞬間にぱっくりと割れた実から無数の赤い粒が顔をのぞかせるザクロの姿が脳裏に浮かんだ。子供の頃、近所に生えていたザクロの木になった果実が収穫されないまま、放置されていたので恐る恐る実をもいで、粒を口に入れたところ、とても美味しかったのを覚えている。日本では、庭木などの観賞用にされることが多く国産物は余り流通していないが、イランなど中東諸国など海外ではよく食べられているようだ。
ザクロの木がたくさん生えていたのか、はたまたザクロと縁がある鬼子母神をまつる寺院があったのかなどなど、想像を膨らませながら、国道を見下ろす形で並走する道路を進む。どこにでもあるような田舎の風景だが、遠く離れた県外でまず立ち寄ることがないので興味深い。まして、国道と並走する生活道路で今後、車で通ることもまずない。こういう何気ない景色ほど、深く記憶に刻まれるから不思議だ。
柘榴の集落を抜けると京都府と奈良県の県境。津市の終点から、思えば遠くへきたものだ。心を躍らせながら県境をまたぐ。ここからは奈良県生駒市。奈良県の北西部に位置し、隣接する大阪府のベッドタウンとして栄えている。人口は約12万人で国道は約50㎢ある市域の中央よりやや北を横断。市内中心部は国道の南側に位置する形。市内北部にある生駒山は霊山としても名高く、周囲の生駒山地には、役小角が鬼神・前鬼と後鬼を調服し、従えたという伝説も残っている。
県境をまたいだとはいえ、国道沿いの景色は、これまでと大差無く、のどかな景色が広がっている。時刻は13時前で、ここまでの行程は順調そのもの。新しいランニングシューズも軽く身体全体の疲労感はそれほどでもない。だが、左かかと付近の足裏に、痛みを感じている。最近、長距離を歩いたり、固いものの上を素足で歩くとこのような症状が出るようになっている。症状をネット上で照らし合わせると、足裏の筋膜が炎症を起こすことによって起きる足底筋膜炎と似ている。ほんの軽い症状で、日常的な痛みはほとんどないので、気にしていなかったが、後日念のために医師の診察を受けようと思っている。
今日は、どこまでいけるのかわからないし、関西圏の交通事情には明るくないが、道路標識で頻繁に見かける四条畷市が距離的にも丁度良い具合に思える。時間と足と相談しながら国道をぶらり歩いていく。(本紙報道部長・麻生純矢)

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