社会
全国の市町村が運営する「国民健康保険(国保)」は、全国的にも赤字運営が続いているため、財政基盤の強化を目的に都道府県単位の運営が国で検討されている。しかし、その議論の中で地域間格差が問題とされており、県内でも29市町が一人当たりの保険料(税)平均金額で最大2倍の格差が発生している。それに加え、広域を的確にカバーする体制づくりなど、課題も大きく一本化には大きな壁が立ちはだかっている。
国保は自営業者だけでなく、年金で生活する74歳以下の高齢者や、最近では非正規労働者も多く加入している。そのことからもわかるように、低所得の加入者が多く保険料収入が低迷。一方で高齢化や医療の高度化に伴う医療費支出の増大や、徴収率低迷が続いており、全国で約3000億円の赤字が発生している。
当然、津市でも同様の苦しい運営で、平成18年の合併時に約11億円あった基金は完全に枯渇。平成22年度に一般会計から法定外繰り入れ、23年度には保険料の値上げ、24年度も法定外繰り入れという状況が続く。
人口が右肩上がりの時代を想定した国保は実質的に破綻状態にあることは明確なため、制度改革への議論は常になされてきた。先日あった政府の社会保障制度改革国民会議で国保の運営を現状の市町村から都道府県に移行するという提案がなされているが、この案は大きなメリットがある反面深刻な課題も抱えている。
運営を都道府県に移す最大のメリットは、財政基盤が強化でき、運営が安定化すること。三重県でも平成22年度より、広域化に取り組んでおり、県内29市町が財政力や医療費支出に伴った拠出金を出し合い、そこに県の交付金を加えたものから医療費を支出していくシステムを形成。現在一人1カ月30万円を超える高額医療費に関しては、そこから支出している。支出する医療費は段階的に増やしており、平成25年度には20万円超、平成26年度には2万円超、平成27年度以降は全医療費の支出をめざしている。
しかし、完全に県の運営に移行するとなると大きな課題が立ちはだかる。それは、地域間格差から生まれる保険料(税)の急激な変化だ。国保の保険料(税)は運営している市町村によって算定方式が違い、人口構成など地域の状況や自治体の施策(緩和策)などに大きく左右されるため、全国的には最も安い自治体と高い自治体の一人当たりの年間保険料(税)で約4倍もの格差が発生している。
県内で比較しても格差は顕著で、最も保険料(税)の平均額が安いのは平成23年度準拠で大紀町の6万3450円。それに対して、最も高いのは朝日町の12万7082円と、その差は2倍以上にも及ぶ。全ての自治体の平均保険料を計算すると9万5820円となり、朝日町では3万円ほど下がることとなるが逆に大紀町では3万円の値上がりとなってしまう。ちなみに11位の津市は県内平均とほぼ同額の9万5931円となっている。
その他、収納率にも自治体間に大きな差があり、最も高いのは東員町の97・42%と、最も低い松阪市の86・82%。10%以上の開きがある。まずは、これら格差を是正しない限り、都道府県単位での運営に移すことは難しいだろう。
また、運営を都道府県に移した場合、各地域での徴収業務などは当該地域の自治体に委託することが現実的な選択肢となるが、三重県健康福祉部医務国保課では「行き届いた運営が出来るかどうかも大きな課題」と話している。
更に経営基盤が安定したとしても、少子高齢化や非正規雇用の増大など、社会構造の変化によるうねりは大きく、それで問題が解決するわけではない。同課でも「県内で広域化して財政を安定化させるのは大切だが将来的に医療費の支出が増えるのは確実なので公費負担を増やすなど、根本的な制度改革も必要となる」と指摘する。
社会的な立場が弱い人たちの命を守る『最後のセーフティーネット』とも呼ばれる国保。その責任ある運営と共に、国が進める税と社会保障の一体改革の中で更に先を見据えた案が出されることが求められよう。
2013年6月6日 AM 5:00
平成21年の台風18号で被災し、バスによる代替運転が続く『JR名松線』の家城駅(白山町)~伊勢奥津駅(美杉町)間で、今日30日からJR東海が復旧工事に着手。27年度内に住民悲願の運行再開が実現する。しかし近年、沿線地域の少子高齢化などの影響で利用者は少なく、市内外からの誘客が差し迫った課題だ。復旧に向け、地域の関係団体や行政がしっかりと連携した観光活性化策が求められている。
松阪駅から、津市の一志町・白山町を通り、美杉町に至る15駅、全長43・5㎞の『JR名松線』は、昭和35年に開通した。
かつては地域の足として親しまれていたが、車の普及や、沿線地域の少子高齢・過疎化などの影響で利用客が年々減少。昭和57年に台風の被害で運行が困難となった際、廃線も検討されたが、住民の熱心な反対活動で存続が決定した。だが伊勢竹原駅~伊勢奥津駅の5駅がある美杉町は現在人口5279人、高齢化率52・4%という状況もあり、近年では通学や通院目的にわずかな地元住民が同線を利用するだけで、大幅な赤字状態が続いてた。
その後、平成21年の台風18号で山間部の家城駅~伊勢奥津駅間が再び被災。今度こそ、廃線と思われたが地元住民が署名活動で存続を要望。23年5月、JR東海と三重県、津市が28年度までに復旧を目指す協定を締結した。
以来、県・市ではこの協定に基づき治山・治水整備事業を進めており、JR東海も今日30日より復旧工事に着手。27年度の運行再開を目指す。主な工事内容は土砂撤去、盛土復旧、線路・電気整備の復旧で、費用は約4・6億円。
地元からも感謝と喜びの声が上がる一方、全線復旧後に向け、住民による利用促進と、津市を挙げての観光資源を活かした誘客活動が、衰退する地域の将来にも関わる喫緊の課題となっている。そんな中、少子高齢化の逆境にも負けず積極的にこの課題に取り組む団体が多い。
例えば、伊勢奥津駅近くで、商工会女性会員有志が運営するミニ道の駅「かわせみ庵」は、イベントなどを通じ町内外に同線の魅力を発信している。
また町内の住民約4200名が会員で、同線の存続を求める署名活動を行った「名松線を守る会」=前川知雄会長(69)=は、行政と連携し活動を展開。県内のウォーキング関係団体向けに同線を利用する催しを提案したり、乗車記念バッジを配布するなど様々なアイデアを実践している。
しかし、各団体や白山町・美杉町をはじめ沿線地域の住民、行政が同線の活性化を目指し交流する機会は少なく、広域の観光活性化に不可欠な情報交換や、地域・組織の枠を越えた協力体制を築くことも難しい。そこで各団体の意思疎通の場となる協議会の設立なども必要となるが、今年度、津市が、伊勢奥津駅前に建設する観光案内・交流施設はこの問題の解消にも活用されるべきだろう。
また、同線の運行は一日5本程と少ないが、片道約1時間の乗車自体を楽しめるような工夫を凝らした企画をしたり、長時間滞在可能な森林セラピー基地など往復で利用するのにマッチする地域資源の利用促進など、独自の魅力の発掘・PRが誘客の鍵となる。前川さんは、「他の団体も最終段階での『名松線を残したい』という意気込みは同じなので、お互い結び合っていきたい」と話している。
復旧後の同線を地域の交通・観光インフラとして活かし、次代へ受け継いでていけるかは市民一人ひとりと、行政という立場から復旧という道を選んだ津市の行動次第。復旧はあくまでスタートであってゴールではない。このまま、赤字の増大が続くようなことがあれば、再び廃線の二文字がおどり出る可能性も否めないはずだ。まずは存続に向けての要望書に署名した11万人がその重さを改めて自覚し、〝当事者〟として、なんらかの行動を起こすことが必要といえる。
2013年5月30日 AM 5:00
厚労省が介護保険制度の7段階評価で介護の必要度が低いとされている「要支援1」と「要支援2」について介護保険から切り離すことを検討している。高齢化の加速と共に膨らみ続ける給付金を抑制するため、ボランティア等を活用した市町村の事業へ移行させることを目指しているが、津市の状況を見れば、受け皿となるような団体もなく、「余りに現実とかけ離れているのでは」と、各所から批判が飛び出している。
平成12年4月に施行された介護保険制度は、加速する高齢化の影響を受け、介護サービス利用者への給付が増大。津市も例外ではなく、給付は増す一方。現在は新規の介護施設の建設を抑制するなど、保険料の上昇を抑制している。
今回、政府の社会保障制度改革国民会議が軽度の認定者を介護保険制度から切り離すことを論点にした背景には、現在7・8兆円の介護保険の給付総額が、団塊の世代が75歳以上となる平成37年度には約21兆円にまで膨らむという予想がある。切り離しを検討している要支援1・2認定者への給付は全体の約5%で、現状に換算すると約4000億円だが、平成37年度には1兆円以上にまで膨らむと推測。さらに65歳以上が納めている保険料も全国月額平均4972円から約8200円にまで上昇する見通しだ。
津市内で3月末現在、介護認定を受けている1万4783名のうち、要支援1と2の認定を受けている人は3781名。給付総額16億7610万円のうち、7046万円を占めている。これらの人達は主に介護事業者によるデイサービスや自宅での家事代行といった生活援助などのサービスを利用している。
津市の3月末現在の人口区分で見ると65歳は5111人、64歳は5035人と全世代でも最も人口が多いことがわかる。このまま高齢化が進めば、国の想定する状況が現実となることはほぼ確実。
国は給付を抑えるためにボランティアやNPО法人などを活用した市町村の事業への移行を検討しているが、現状、市町村間での取り組みに大きな差があり、地域間格差が生じることが危惧されている。津市でも国が想定する事業を行えるような〝都合の良い〟受け皿は存在していない。広い市域を持ち、多くの面積を占める中山間地域は特に高齢化が顕著なことを考慮すると、市内でも大きな格差が生じる可能性は高い。介護保険制度が改定される平成27年度に自前の事業を始めることは到底、現実的ではない。
もちろん、要支援者が介護サービスから切り離される事態になれば、介護事業者の経営にも大打撃。津市内のある介護施設関係者は「要支援者をボランティアに任せれば、問題が解決すると思っているのはふざけた話。もっと制度全体でバランスをとるべきだ」と憤りを露わにする。
受け皿が無いとなれば、切り離された要支援認定者達は現状の事業者が行っているサービスを自己負担で利用するしかない。しかし一例を挙げると、生活援助は30分以上、1時間未満で2290円。現状は1割負担だが全額自己負担となれば高齢者にとって相当厳しい出費となるのは確実。
国は前回の改定の際、給付を絞るため、要介護1の認定者でも、認知症でなければ要支援2に押し戻す方針を打ち出している。
制度の破綻回避は重要な課題であるが、無責任な地方への丸投げは許されるものではない。より現実環境に即した施策が求められよう。
2013年5月23日 AM 5:00