社会

伊勢湾海洋スポーツセンター

 毎年ゴールデンウィークに津ヨットハーバーで行われてきた『津ヨットハーバー祭』は多くのボランティアに支えられてきたが今年の初め、ハーバーを管理する⑲伊勢湾海洋スポーツセンターが同祭の実行委員会メンバーや協力団体と何の事前協議もないまま、今年のイベントの内容と運営方法を大幅に変えたため、関係者からは怒りの声も出ている。今後は将来に遺恨を残さないような建設的な取り組みが求められている。

 津ヨットハーバーは国内最大級の公設マリーナとして昭和46年の開設以来、マリーンスポーツを楽しむ人たちの拠点として重要な役割を果たしてきた。
 その一方、ハーバーを利用しているボートやクルーザーのオーナーは市外の人も多く、深夜には若者が集まって騒ぐなど、利用する機会のない近隣住民にとって必ずしも歓迎できる施設とはいえなかった。
 そこで津市が誇る財産であるハーバーの魅力を近隣住民にも知ってもらい相互理解を深めると共に、津の海の素晴らしさを広く発信することなどを目的に、海洋スポーツセンター職員やオーナー有志らが実行委員会を結成。04年に1回目の津ヨットハーバー祭を開催した。運営に関わる協力団体には、近隣住民たちによる「ホットな阿漕浦ネットワーク」や地元の自治会、自治会連合会を始め、津市・三重大学や地元企業などが名を連ね、多くのボランティアスタッフが参加。その交友関係などを頼りにイベントは回を重ねる毎にグレードアップしていった。
 7回目だった昨年はクルーザー・ボート・ヨット・津エアポートラインの高速船の乗船体験や三重大学練習船「勢水丸」の船内見学に加え、陸上では木工教室や、よさこい・バンドライブ、農産物即売会なども開催。更に「南伊勢町をより元気にする会」からは高校生らのほか、小山巧同町長も丸一日参加し、特産品販売を行うなど町を挙げて自治体間交流という面からも力を注いでいた。
 実行委員会は毎年、解散という形式をとっていたが昨年には今年の開催日を5月3日というところまで決めていた。各団体はそれに向けて準備を進めていたが今年初めに実行委員会関係者などに一切の事前説明がなされることもなく同センター側から陸上イベントを完全に排除した形での開催を告げる連絡があった。
 その結果、今まで関わってきた協力団体は結果的に運営から外されることとなるため、関係者は当惑。これまで実行委員長を務めてきた莊司幸夫さんは「予算は減らされるとは聞いていたが、それでも運営できる形で準備してきた。多くの方にお手伝い頂いていたにも関わらず、協力団体の方などに未だ十分な説明や謝罪もない」と怒る。また継続的な参加を視野に会場で販売する商品の開発なども行っていた南伊勢をより元気にする会会長の川口加奈恵さんも「色々な人との関係を断ち切るのがどれだけ大変なことと分かっているのかと問いかけ再考を求めたが中止を告げる電話があっただけ」と怒り心頭だ。
 これを受け、同センターの宇仁田裕史事務局長は大幅変更にした理由を「ハーバー祭を7年続けてきたが保管艇が増えていないという実情がある。予算削減が続く中で心苦しいが致し方ない」と説明。その他、駐車場が溢れ近隣に交通面で悪影響を与えていること、少ない職員で不測の事態に備える不安があること、保管艇の隙間を使った陸上イベントの会場が手狭であることなども理由に挙げ、今年は乗船体験や勢水丸の船内見学など海上イベントに絞った海フェスタを5月3日に開催した。来年以降も同じ形で行う予定という。
 同センターの事業であるという形式上、最終決定権は同センターにあるのは事実だが、今まで沢山の人たちの力によってイベントが支えられてきた以上、それを全く無視して大幅変更をすれば、今のような事態が生じるのは当然と言える。
 将来に遺恨を残さないようもう一度協議の場を持つなど、建設的な取り組みが求められているといえる。

長い時を経て遷座した仏画

国府阿弥陀

 津市大門の恵日山観音寺(津観音)内にある大宝院の本尊「国府阿弥陀」は伊勢神宮の天照大神の本地仏(同一存在)として江戸時代には国民的な信仰を集めていたが、その姿を描いた江戸期の仏画が兵庫県で見つかり、長い時を経て同院に還座した。この画を江戸での出開帳(本尊の出張)の際に祀っていたことを示す資料も一緒に見つかっており、伊勢神宮の式年遷宮の年に津観音を盛り上げる力にもなりそうだ。
 現在は観音堂内の正面左側に祀られている「国府阿弥陀」は、永禄11年(1568年)に戦火で焼失していた大宝院を織田信包が観音寺境内に再興した際、現在の鈴鹿市国府町にあった寺院から移し本尊としたと言われている。神仏習合の中で光を司る神性が伊勢神宮の祭神・天照大神と共通することから本地仏とされ、伊勢神宮参拝が一生に一度のビッグイベントだった江戸時代には「阿弥陀に参らねば片参宮」と言わしめるほど信仰を集めた。そして、伊勢まで足を運べない人のために江戸や大阪で出開張も行っていた。
 このたび還座したのは、その如来像の姿を写した仏画で、津観音住職で大宝院院家の岩鶴密雄師の下に昨年末頃、仏教芸術に造詣の深い知人から「この仏画は元はそちらの寺にあった物なのでは」という連絡があった。知らせと共に送られてきた画像を確認すると神々しくも穏やかな表情で描かれている仏の上には「勢州安濃津国府阿弥陀佛」の文字が添えられており、画と共に残っていた文書にも大宝院の塔頭(子院)の一つである千王院が四条流を開いた呉春の最古参の門人で仏画師として活躍した紀廣成=1777年~1839年=に描かせたことなどが記されていた。更に寺に記録として伝わる嘉永6年(1853年)の江戸での出開帳の際、この画を将軍や諸大名の前で披露したということまで分かった。
 岩鶴師もこのような画が存在することは全く知らなかったため、兵庫県尼崎市まで赴き、実物を確認。その後、持ち主と交渉の末、晴れてこの画が津に戻ってくることとなった。岩鶴師も「仏様が津に帰りたがっていたのだと思う。寺のイベントに合わせ環座法要をしたい」と喜ぶ。
 この画が津を離れた時期は不明だが明治初めの廃仏毀釈の頃だとすれば、約140年ぶりの還座で、20年に一度の伊勢神宮の式年遷宮のこの年というのもドラマチック。10月に向け、全国から観光客が伊勢神宮を訪れる中、津観音を盛り上げる力にもなりそうだ。

 

セアカゴケグモの巣…有毒なメス(左)と無毒のオス(右上)

 毒を持つことでも知られる特定外来生物の「セアカゴケグモ」だが、津市内でも姿を見せている。まだ目撃例も少なく、現状ではそれほど目立った数が生息していないと思われるが、暖かくなるこれからの季節にクモの動きが活発化するだけに注意が必要。全国の事例を踏まえると今後、生息域の拡大も十分考えられ、クモに出会った時に備え、市民一人ひとりがある程度の知識を身につけておくことが重要といえる。

 
 「セアカゴケグモ」は1995年に国内で初めて大阪府の港湾地帯で発見されたのに次いで、四日市港でも発見。現在、本州・四国・九州・沖縄と広範囲に生息域を広げており、県内では四日市市のほか、桑名市・松阪市・多気町などで確認されている。津市でも平成23年11月に続いて、今年に入ってからも、生きた個体が見つかっている。
 このクモの身体的な特徴は腹部の背面に赤い模様を持つメスの大きさが7~10㎜、白っぽいオスは4~5㎜。毒を持つのはメスのみで噛まれた場合、激しい傷みと共に発汗・発熱などの症状が現れる。オーストラリアでは過去に死亡例もあるため、国内で発見された当初は『殺人グモ』と呼ばれ恐れられていたが、健康な大人なら噛まれても、大事に至るケースは希。ハチ毒のように2回以上噛まれてもアナフィラキシーショックを起こすこともなく抗血清が開発されてから50年以上死者は出ていない。今まで日本では重症者も出ていないが、体力のない乳幼児や高齢者が噛まれると命に関わる危険性もあるため注意が必要だ。
 主に側溝のふた・プランター・庭石の裏側など、直射日光の当たらない場所に巣をつくり、虫などの獲物を捕らえる。そのため、ベランダに置いてあったサンダルの内側に潜んでいた個体に噛まれるというケースも発生している。ただし、クモ自体の性質は大人しく自分から人に襲い掛かることはない。
 このクモは生態系や人の生命・身体などに被害を及ぼす可能性がある「特定外来生物」に指定されており津市や三重県もHP上で注意を呼びかけている。しかし、ハチの巣などと同じく県市共に駆除は行っておらず、もし駆除をする場合は発見者の手に委ねられることとなる。その際は、絶対に素手で触れないように気をつけ市販の殺虫剤を散布するか靴を履き踏み潰す。もし噛まれた場合は医療機関ですぐに受診(可能ならばクモの死骸も持参すると医師の判断材料となる)。
 津市で最近、駆除された固体は1匹のみで同じ場所からはそれ以来、見つかっていないという。それ以前での市内の目撃報告も少ないので、大きく繁殖はしていないと思われるが自動車やその積荷に紛れ込んで運ばれることも多く、大阪府では初めて見つかった南部の港湾部から北部の都市部へと生息域を広げている。これら事例もあり、県の農林水産部みどり推進課では「今や県内のどこに居てもおかしくない」と分析する。
 在来種でもスズメバチやマムシなど強い毒を持つ生物は身近に存在しており、このクモばかりを過剰に恐れる必要はないが、クモが活発となるこれからの季節には、生息に向きそうな場所をこまめに掃除して巣を作りにくくする、居そうな場所を触る際には軍手など手袋をつけるといった対策を行うだけでもリスクは軽減できる。もしも出会った際には慌てず対処できるよう必要な知識を持っておくことも必要とされている。

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