社会

「発達障害」は、生まれつき脳の発達が通常と違うために、幼いうちから現れる様々な症状。障害に対する社会の知識・理解不足により多くの当事者が生きづらさを抱えている。今回は、前号に続き三重県立子ども心身発達医療センター(津市大里窪田町)の金井剛センター長と、成人後に発達障害と診断された今井貴裕さん(37・鈴鹿市)が対談。発達障害を持つ人は、障害特性への適切な対応・支援を受けられないことなどが原因で心身の疾患や引きこもりなどの二次障害を発症するケースが多く、今井さんも、うつ病や双極性障害を経験した。

 

今井 僕は(発達障害の特性で)「本音と建前」がわからないので、以前は周りの皆にひたすら本音でぶつかり、わかってもらえなかった。けれど33歳頃、うつ病で受診したのを機に発達障害の診断を受けたことにより、自分が定型発達の人と違う特徴を持っているとわかったので、まず皆の話をちゃんと聞いて、各自の欲求や事情があることをきちんと理解してから話をしようと。僕の生き方は変えないけれど、相手の意見が自分の意見と違っていても許容できるようになりました。
また、双極性障害(うつ状態と躁状態を繰り返す病気)になりましたが、1年程前に落ち着いたような感じです。
金井 ただ、双極性障害は気分の山が高ければ谷は深いから、本当に落ち着いたなら(谷が浅くなったなら)山も低くなっているはずなんだけれど……。
うつ状態は防衛的なニュアンスがあり、何もできなくなる。そうなれば自然とエネルギーが戻ってくる。ところが躁状態はある程度自分で意識して抑えないと、そのあと当然落ちてくる。だから実は、自分で努力すべきことは山を少しでも低くすることなんです。
今井 そうですよね。僕が今でもうつになりそうで危ないと思うのは、躁で多弁の状態だけれど、浮足立っている感覚がある時。周りの人は気づきませんが、自分がまずいなと思ったら早めに休むようにしています。
金井 皆、本当はそういう前兆のようなものがある。今井くんのように脳の処理速度が速く、自分で前兆に気づいてコントロールできる人は良いけれど、発達障害の方の中には気づきづらい人も多くて、例えば「不安」や「疲れ」が何かがわからなかったりする。その場合は、周りが気づいてあげなくてはならない。

子供の可塑性は高い   良い出会いは生きる肥しに

今井 一番不幸な境遇が、発達障害を持って生まれた子がDV(配偶者などからの暴力)の家庭に育つことだと思います。「親しい人に危害を加えることは悪くない」という考えのもとで育ってしまうので。
金井 子供達がそういう境遇で育った場合、集団生活などで上手くいかないことが必ず表面化する。その時ある程度早い時期に良い環境に置いてあげると、子供の可塑性(外的刺激に柔軟に対応する性質)は非常に高いから効果が出ます。僕は15年間の児童相談所勤務でそういう子を大勢診て、子供の可塑性はとても高いと実感している。
僕の師匠が、ある子を5歳の時に1回だけ診た。そして僕がその子が17歳の時に診た。僕が何で5歳の時と同じ病院に来たの?と聞くと、その先生と5歳の時に会って、とても良い気持ちがしたからと。そういう出会いって、子供にとって大きい。その子は、5歳の時その先生と折り紙で鶴を折ったことを17歳になっても覚えていた。ある意味でとても重症な子だったけれど、多分その出会いが17歳まで生きて来られた肥しの一つだったんでしょうね。だから、子供達にそういう出会いがあればと思う。
(終)

 発達障害のリアルを当事者・専門家らが語る

発達障害当事者・今井貴裕さん 鈴鹿市出身、37歳。津市などで若い世代の発達障害当事者やその保護者を支援している。東京農業大学在学中によさこいを始め、現在よさこいの衣装を制作するショップを経営。

発達障害当事者・今井貴裕さん
鈴鹿市出身、37歳。津市などで若い世代の発達障害当事者やその保護者を支援している。東京農業大学在学中によさこいを始め、現在よさこいの衣装を制作するショップを経営。

三重県立子ども心身発達医療センターセンター長・金井剛さん 1983年群馬大学医学部卒。児童精神科医。横浜市中央児童相談所長などを経て、2017年現職就任。発達障害などの子供の診療を担当している。

三重県立子ども心身発達医療センターセンター長・金井剛さん
1983年群馬大学医学部卒。児童精神科医。横浜市中央児童相談所長などを経て、2017年現職就任。発達障害などの子供の診療を担当している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「発達障害」は、生まれつき脳の発達が通常と違うために、幼いうちから現れる症状で、自閉症・ADHD・学習障害など。05年に発達障害者支援法が施行されたが、障害に対する社会の知識・理解不足により多くの当事者が生きづらさを抱えている。そこで本連載では当事者や親、専門家が発達障害のリアルを発信する。第1回の対談者は三重県立子ども心身発達医療センター(津市大里窪田町)の金井剛センター長と、成人後に発達障害と診断された今井貴裕さん(鈴鹿市)。
※連載タイトルの「発達さん」は、「発達障害当事者」の呼称で、最近、当事者などによりインターネット上で広く使われている。

 

 

金井 発達障害の診断名は今、乱雑に使われ過ぎていると思う。人は皆、発達障害の特性のような部分を少しは持っている。僕は「発達障害」は診断名じゃないと思っているくらい。例えば内科で「あなた胃の病気です」と言われたのに等しい。胃の病気にも色々あるのに。診断の告知も大流行で、簡単にしすぎていると僕は思う。土居健郎という有名な精神分析家は「診断は本来、その後の治療の方向性までを含めてあるべき」と。例えば内科や外科で「あなたガンですよ、はいさようなら」では告知と言わないだろうと思うけれど、発達障害に関してはそういうことが最近多い気がする。

今井 僕も「あの人変わってるんだけど、発達障害かどうか診てもらったほうがいい?」とよく聞かれますが、基本的に、本人が困ってないならそのままでいいんじゃないのと答えています。
金井 今、社会に医療化、つまり言動に何か問題があると診断名をつけて医療対象にするという流れがあって、それがとても残念。初診でADHD(※)の患者さんを沢山診るけれど、僕が小学校低学年の頃よりは遥かに軽い子が大勢来る。僕は授業中に消しゴムをちぎって投げたり、物を失くすことも多かった。それが廊下に立たされることで許されていたが、今そうだと「病院へ行きなさい」になってしまう。
※ADHDは多動性・衝動性・不注意が特徴。

 

自分なりの工夫で    特性の不注意をカバー

今井 僕は多分ADHD寄りで、不注意がだいぶひどいです。あるお客さんに大阪と名古屋への便をそれぞれ分けて送ってと言われたのに、テレコで逆に送ってしまいました。送る前に、絶対間違えないぞと思って封筒の宛名を書いて中身を入れるところまで全部ちゃんと見ているのに、なぜか逆になったんです。
物を失くすのもしょっ中で、僕は傘を持たないという生き方を選びました。傘を持たないと傘を失くさないし、「傘を失くすかも」という気を使わなくて済むんですよ。
金井 今、初めて気づいたけれど、皆にも僕にも自分なりに身に付けてきた、生きやすくする、生活しやすくするための工夫があるんだろうね。
今井 はい。僕はそういう自分の工夫、ライフハックを人前で話す機会が増えたことにより僕を肯定してくれる人、重宝してくれる環境を見つけられて、すごく自信を持てるようになりました。

 

各特性に合う仕事がある   保護者が様々な職種知って

今井 僕は多動傾向ですが、自閉傾向で大人しくて毎日のルーティンが崩されるのがすごく嫌な人っているじゃないですか。そういう人は毎朝決まった時間に出勤して真面目に働ける。一方、僕は(講演の講師などとして)呼んで頂いたりしますが、ルーティンの作業は全然できないんですね。僕は重宝はされるけれど、本当に世の中に順応しやすいのは自閉でも真面目にやれる人なんじゃないのかなと……。
金井 それは適材適所ですよ。例えば僕が昔診ていた子は、IQはわりと高いけれどバランスが非常に悪くて特別支援学校に行き、清掃の仕事に障害者枠で就きたかった。でも学校側は学校に遅刻しているし推薦できないと。そこで僕は学校に乗り込み、この子はいざそうなったらやるから推薦してくれと言った。 結局その子は就職し、同じ場所を同じパターンで掃除する仕事がとても向いていて、優秀で後輩の指導係にもなった。けれどその子が営業職や店頭に立つ仕事をさせられたら多分つぶれてしまう。
僕は子供たちを診るとき、発達障害などの診断名がつくことがあるけれども「そんなことよりも、とにかくその子の特性を見て下さい。そして、子供がこれからどう生きていくかをいつも考えてほしい」と親御さんにいつも言うんです。
今井 僕も本当にそう思います。以前津市でお母さんの集まりに呼んで頂き子供の進路相談を受けたんですが、「子供は家を建てる仕事をしたいがコミュニケーションが全然とれない。どうしたらいいだろうか?」という話で、僕がそのお母さんに家を建てる仕事をするのは誰だと思いますかと聞くと、お母さんの答えは大工さんでした。でも家を建てるのには大工以外にも三十何個の業種が関わるらしいんですね。だから「お母さんがお子さんのためにその沢山の仕事を知ってあげて下さい、その中でお子さんが向いている仕事をしたらいいんじゃないですか」と話し、喜んでもらいました。(次号に続く)

「高田中学校・高等学校(6年制)」の生徒有志が、名古屋産業大学、㈱フューチャー・ファーム・コミュニティ、㈱赤塚植物園の協力を受けCO濃度を測定してデータを収集するなど環境学習に取り組んでいる。今月31日には、同じく環境学習に取り組む台湾の大同高校とお互いがまとめた調査結果を発表し、インターネットを通じたテレビ会議を開催するなど、文科省の進める探求的な学習を実践している。

 

 

環境学習に参加している生徒たち

環境学習に参加している生徒たち

三重県屈指の進学校としても知られる「高田中学・高等学校」=津市一身田町=。2017年より「高野尾花街道 朝津味」=同高野尾町=を運営する「㈱フューチャー・ファーム・コミュニティ」、多様な植生で環境学習の場となるレッドヒルヒーサーの森=同高野尾町=を持つ赤塚植物園、CО濃度調査に基づく環境教育プログラムの開発と実践に取り組む「名古屋産業大学」=愛知県尾張旭市=の協力を受け、産学連携による環境学習を行っている。目的は、世界的な課題である環境問題に対して、未来を担う若者たちに、自らの課題である認識を持ってもらい、それを周囲に伝えられる人材育成。現在、中学から高校まで35名の有志が参加。
環境学習は、3カ年計画で初年度の一昨年には同大学の伊藤雅一教授から、地球温暖化を防止するための国際的な協定であるパリ協定によって大幅な削減が求められるCOの実測データに基づく、学習の意義を学んだり、岡村聖教授と共に、ヒーサーの森でCO濃度測定器などを使った調査や実験を実施。昨年には、学校内にCO濃度測定器を設置し、定点観測を行いデータを収集。生徒たちが、収集したデータをコンピューターなどを使い分析。伊勢湾から学校に向かって吹く風のCO濃度が高いことに着目し、海中のCOを吸収する植物性プランクトンが減り、COを排出する動物性プランクトンが増えている可能性があるという仮説を岡村教授と共に導き出している。
そして、3カ年目の今月31日には、同じく名古屋産業大学が環境学習の指導を行っている台湾の大同高校と、インターネットを通じたテレビ電話で世界共通の課題である地球温暖化の防止をテーマとした会議を実施。生徒と教員の交流を図る。その翌日には、朝津味で生徒たちは近隣の小学生を対象に、自分たちが学んだことを伝える。
テレビ会議を前に、同校の林翔太さん(16)は「世界の環境問題について改めて考えたい」、成尾和真さん(15)は「日本人との目線の違いを感じたり、同世代との生徒との交流を生かしたい」と語り、谷信孝さん(15)は小学生への環境セミナーに向け「自分たちで学んだことを伝えたい」と意気込む。
同校の環境教育が国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)をベースにしていることから、低炭素社会の実現に向けた教育の実践の場として、ユネスコスクールの認定を申請中。認定されれば、県内で3校目。
また、生徒自らが課題を定め、必要な情報を集め、整理・分析を行い、まとめ・表現する文部科学省の学習指導要領に盛り込まれている探究的な学習をいち早く実践することの意義も大きい。

[ 4 / 82 ページ ]« First...23456...102030...Last »