社会

自然豊かな美杉地域

 今年で5年目を迎えた『津市空き家情報バンク』は田舎暮らしブームの追い風もあり、着実な成果を上げる一方で新規登録物件の不足に悩まされている。少子高齢化が顕著な美杉町内には現状で約300もの空き家があり、今後の増加も確実な中、バンクは有効な地域振興策としても期待されているが、移住希望者への制度の周知と共に、地域住民や空き家の地権者に対する制度への協力も大きな課題となっている。 

 空き家情報バンクは、若者人口の流出が続き、限界集落(65歳以上の高齢者が人口の半数以上を占める)が地域の半数にも及ぶ美杉地域の振興策として、公益社団法人・三重県宅地建物取引業協会の協力を受け、平成21年度より実施している。空き家の所有者が売却や、貸したい物件をバンクに登録し、ホームページ上などで情報を公開。バンクの利用登録者が自らのニーズにあった物件をそこから探していく。
 現在、愛知・大阪など大都市圏在住者を中心に若者から高齢者まで150名ほどがバンクの利用登録をしている。この4年間で23件の物件取引と、着実な成果を上げているが、最近では登録物件数が12と物件不足が浮き彫りになっている。
 それでも、移住希望者からの問い合わせ自体はそれなりにあるため、担当する美杉総合支所地域振興課でも物件の掘り起こしに力を入れているが、思うように進まないのが実情だ。
 現在美杉町内に約300ある空き家のほとんどは持ち主が近くに暮らしておらず、簡単に連絡が取れないというものが多い。津市では課税の関係で持ち主の連絡先は分かっているものの個人情報保護の観点から直接アプローチすることはできない。そこで、固定資産税の納付書を送る際に制度を紹介した紙を添えている。これも一定の効果があるが、根本的な打開策にまでは至っていない。
 地権者側の心理としてはやはり、先祖代々の土地を手放すことへのうしろめたさや、集落に移住者を受け入れることに抵抗を感じる声も根強いという。
 しかし、このままいけば20年後には姿を消す集落が出ても、なんら不思議ではない。津市では地元と移住者との橋渡し役となる「田舎暮らしアドバイザー」による農業・林業などの職業研修会など、移住希望者に対する支援策やPR活動を充実させているが、同時に必要とされているのが地域に新たな息吹をもたらす空き家情報バンクの原点の周知と浸透だろう。地域の再生に向けた地域からの協力と歩み寄りも今後の大きな課題といえそうだ。
 問い合わせは美杉総合支所地域振興課℡059・272・8082へ。

出展作品を手に…稲葉特別支援学校中等部の生徒たち

 24日~31日、アスト津を主会場に「稲葉特別支援学校」=津市稲葉町=と「女子美術大学」=東京都杉並区=の共同展覧会「アール・ブリュット(生の芸術)のエスプリと街なかワークショップ」がある。主催=県教委・同校。共催=三重大・津駅前都市開発㈱・津市等。同校生徒や同大所蔵の作品展示などを通じ、既成概念に捉われない芸術スタイルで障害者ケアにも有効なアール・ブリュットの魅力を広める。 
  フランス語で、〝生の芸術〟を意味するアール・ブリュットはフランスの画家・ジャン・デュビュッフェ=1901~85=が考案した芸術スタイル。英語でアウトサイダー・アートとも呼ばれる正規の美術教育を受けていない人々が伝統や一般的な技法に捉われない自由な創作のもとに生み出す絵画や造形物のことを指す。鮮やかな色彩や大胆な構図など、作り手の感性をダイレクトに投影した作品が多いことも特徴といえる。障害者のケアにも非常に有効で国内では女子美術大学が、障害者による作品の研究・制作支援や、展覧会での作品展示を通じ、アール・ブリュットの普及と人材育成を両立する専門教育を実践するなど、先導者的な役割を果たしている。
 今回の展覧会が開催されるきっかけとなったのは昨年に桑名市博物館で行われていた同大の所蔵作品の展覧会。そこで、作品の美しさなど、アール・ブリュットの素晴らしさに感動した稲葉特別支援学校の浅生篤校長が後日、東京の同大を訪ね、協力を打診したところ快諾を得た。以後、同校では小中高の各部で授業に取り入れており、同大からも制作支援だけでなく出来上がった作品の批評を受けている。子供たちものびのびと作品づくりに取り組んでおり、みずみずしい感性を真っ直ぐに表現した作品の中にはい評価を受けた作品もある。浅生校長は「子供たちがこんなに素晴らしい能力を持っていたことを改めて自覚した」と笑う。
 そして、両校がアールブリュットの魅力をより沢山の人たちに知ってもらうと共に障害者への理解を広めてもらおうと開催するのが「アールブリュット(生の芸術)のエスプリと街なかワークショップの試み」。
共催には、障害者の社会参画をめざし11月にシンポジウムも開催予定の三重大の地域戦略センターを始め、アスト津を運営する津駅前都市開発㈱や「平成25年度津市にぎわいづくり事業」として支援する津市も名を連ねている。
 アスト津5階アストプラザのギャラリー1と2で行う作品展には稲葉特別支援学校の小中高各部の子供たちによる絵画や陶芸など40点と女子美術大学の収蔵作品50点を展示。そのほか、ダウン症の人たちによる優れた芸術作品を生み出しているアトリエ・エレマン・プレザンや、松阪市のNPО法人・希望の園、七滝進治コレクションからも特別出展作品がある。
 今回の展覧会を通じて、県内の特別支援学校で現在同校のみが取り組んでいるアール・ブリュットの更なる普及と世界的に注目されれるこの芸術分野が障害者の社会参画のきっかけとなることも期待されている
 イベントの詳細は以下… ▼女子美術大学&稲葉特別支援学校作品展 24日~31日9時~17時、アスト津5階アストプラザのギャラリー1&2にて。ギャラリートークは24日16時半~、25日14時~、26日11時~、31日14時~。
 ▼キックオフイベント 24日13時~16時、津市センターパレスホールにて。女子美術大学の小林信恵教授らによるトークセッション「表現の自在性とアール・ブリュットのこれから」。
 ▼ワークショップ 25日10時半~、11時半~、13時~、14時~、15時~。アスト津1階にぎわい交流サロンにて。版画作品でグリーティングカード作成。各自定員約10名。更に13時より作ったグリーティングカードでカレンダー作成し、ギャラリー1に展示する。
 ▼物産・学校販売実習 23日・24日10時~16時。にぎわい交流サロンにて。高校や福祉施設で作ったお菓子などを販売。
 全て入場無料。問い合わせは稲葉特別支援学校℡津252・1221へ。

市内のコロニーで繁殖するカワウ アユ釣りシーズン真っ只中だが、津市内でも雲出川を中心にカワウによる川魚の食害が深刻化しており、内水面漁業関係者たちの頭を悩ませている。イノシシ・サル・シカなどの獣害対策が進んでいるのに比べると、行政からの支援もほとんどなく、猟友会による追い払いなど地道な対策を行っているものの、苦しい状況が続いている。 
 カワウは一時期、絶滅寸前にまで追い込まれていたが環境の改善や餌となるアユなどの魚の放流などにより、ここ20年余りで生息数が激増。更に本来の生息域は中下流域だが、上流にまで生息範囲を広げている。
 成鳥は体重約2~3㎏に対して1日当り約500gの魚を食べると言われており、内水面漁業に深刻な被害を与えている。県内では櫛田川・宮川の他、津市内を流れる雲出川でも大きな被害が発生している。
 最も有効な対策は駆除などによる個体数調整ということもあり、カワウは平成19年より狩猟鳥獣となったが、肉や羽毛に価値がなく好んで撃つハンターはいない。また、カワウはシカ・イノシシ・サルなどと共に国の鳥獣害対策特措法の対象とはなっているものの、直接的な被害を受けているのが内水面漁業関係者に限られるため、三重県では本腰を入れた支援を行っていないのが現状だ。
 県内のアユなどの水産資源への昨年の被害総額を見ると、1万4700㎏で4410万円。金額だけで見ると、他の獣害より被害は小さいが釣り人が川で釣りをするために必要な遊魚券の販売で収益を得ている内水面漁業関係者にとっては釣果に影響が出れば売上げが下がり、死活問題となる。県内24の内水面漁協が組織する「三重県内水面漁連」では猟友会に依頼し、県内全域で年間約800羽ペースで駆除をしてきたが、被害が減る気配がない。
 津市の雲出川漁協でも昨年に、2625㎏で787万円5000円の被害が発生。今年もアユ釣り解禁前に同漁協の10支部で合計2140㎏のアユを放流したが相当の被害が出ている。更に今年は水不足で上手く遡上できずにいる天然アユを狙い打ちされるなど、例年にも増して深刻だ。同業漁協ではシーズン前に川の水面にテグスを張ったり、シーズン中も猟友会に見回りや追い払いを依頼するなど、出来る限りの対策を講じているが、苦境が続く。
 津市内には垂水の二重池や雲出川支流の河口付近、君ケ野ダム付近などにカワウのコロニーがあるが、下手な追い払いや駆除をすると生息域が広がる可能性もある。先進県では木の上にある巣の卵を石膏製の擬卵にすり替えたり、卵を冷却して孵化しなくするなどの対策を行い成果を出しているが、これらの対策を行うには莫大な費用と労力が必要。行政の支援がほとんどない県内では、現状より踏み込んだ対策ができないのが実情だ。
 内水面漁業は過疎地域の貴重な観光資源になっているケースも多く単純に被害額だけで図れない要素を含んでいるのも事実。また、県内でも海で養殖されている魚への被害報告もあるだけに、今後は行政もより広い視点を持って、カワウ対策に取り組んでいく必要が出てくるだろう。

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