特別寄稿

2020年までに4000万人のインバンウンドが欲しい。それが日本の数値目標である。一方、首都圏偏重の是正、地方都市への分散も課題だ。その為には地方都市の情報発信力の強化も求められている。だが、実際問題として地方都市には東京なみの情報量はなく、方法論も確立してはいない。
いったいどうしたら人気を得る事ができるのか?
言うまでもなく、人気観光地とは知名度のある所である。この点、最も人気なのは首都圏であり、日本一の観光地が東京である事に今や異論を挟む余地はない。
次が、世界的な名所・旧跡である。その情報は、今にちでは世界遺産の概念によって知られているが、それ以前は、書物・文献、旅行社ガイダンス・映画が広報に貢献し、20世紀後半にはテレビによって爆発的に知れ渡るようになった。つまり、それはメディアの商業投資のおかげであり、そのモチベーションは公共放送を除くと専らスポンサーのお金儲けにあった。
多くの人気観光地は、そのようなプロセスを踏んで有名になってきたと言えるのだ。
この点において、ネットを通じた動画サイト等の発達は、全く新しい情報伝達を可能にしたかに見える。だが、これはまだ『ドラマチックな追体験』を求めるものには至ってはいない。選択肢を無限に広げただけで、不特定多数に対する所謂『ブーム』が起爆していない。映画やTV番組ならば、感情移入できるキャラクターの背景としてロケ地が視聴者に記憶されるが、『ドラマトゥルギー(作劇法)』が未熟なネット動画にはそれがないからである。
人気観光地と呼ぶには少しニュアンスが異なるが、有名所には宗教聖地や貿易拠点として知られた場所もある。メッカや伊勢、或いは港湾都市がいい例だ。しかし、それらへの帰属意識は限られており、その知名度は強い目的意識によって維持されているに過ぎない。私は過去に何度か『観光客』の定義を試みてみたが、こういった場所を観光地と呼ぶのには違和感を持つ。日本語における現代の『カンコウ』にはレジャー的意味合いが強く、お参りまで観光(サイトシーイング)扱いするのは非礼に感じるからである。
ちなみに国連世界観光機関では、観光を『サイトシーイング』ではなく『ツーリズム』としている。これは広義的解釈が可能であり、国際的な人気観光地に到着したのは、観光客のみならず幅広い訪問者も含むということになる。『ビジネス』でもOKだ。とはいえ、統計上の分類では24時間以上の滞在を『ツーリスト(滞在者≒観光客)』とし、それ未満は『ビジター(日帰り≒訪問者)』としている。
閑話休題。国際的な人気観光地には、他所にはない要素がある。それは、映画やテレビなどで不特定多数の人々にインプットされた地名であり、感情移入可能な登場人物が非日常的状況によって形成されたイメージをお客さんが再現できるかどうかにある。『ドラマトゥルギー』のないニュース番組にはそれがない。例えば、2016年にG7サミットが三重県志摩市で開催されたが、その開催地は世界的に有名になったのか?
その答えは、日本人がエルマウ、タオルミナ、ラ・マルベイを知っているのと同程度でしかない。つまり、殆ど誰も知らないのだ。ブランディングに役立ったとは言い切れないのである。ブランディングといえば、日本も1992年に条約に批准して発効した、先に触れた『世界遺産』がある。だが、その知名度の明暗も『ドラマトゥルギー』が有るか無いかによって顕著である。
2016年に国連世界観光機関が開催した『遺産観光に関する国際会議』では、保存と活用、観光資源の磨き上げ、持続可能な活用というテーマで、UNESCOの取り組みについても少し触れた。だが、保存には維持費が不可欠なのに、プロモーションの為のセオリーはなかった。
例えば、長崎の『端島(軍艦島)』の整備活用計画では、護岸、採炭生産施設の一部、幹部社宅三号棟だけでも、約108億円が必要だとされている。2019年に開催される『UNWTO/UNESCO 観光と文化をテーマにした国際会議』では、この要素も加えてほしいものである。
顕著な『ドラマトゥルギー』の影響は、しばしば名作と呼ばれる映画のシーンとオーバーラップする。特に、007映画のような世界的景勝地を求める映画のロケ地は観光地としても成功しており、今ではそれを逆手にと、イギリス国内でさえ主要舞台となっている。周知の如く、このシリーズに世界遺産の遺跡が沢山カメラに収められ、実のところ『軍艦島』も007映画のロケ地にはなった。しかしながら、カメラこそ入りはしたものの、ストーリー展開上それが日本の長崎である事についての言及は一切無く、マカオ沿岸の『デッド・シティ』として扱われていた。
長崎市の観光統計によると、映画公開年2013年の訪問者数は15万1567人で、2014年が18万3996人、2015年が26万6620人、2016年が27万2619人だった。2015年の世界遺産登録を以ってしても、前年よりも8万2624人増えただけ。インバンウンドも含めて、年間平均21万8700人しか来ていないのだ。これでは世界中から訪問者が追体験を求めて殺到しているとは言い難い。年間約420万人で閉店した『サンバレー』の、おおよそ二十分の一である。
(O・H・M・S・S「大宇陀・東紀州・松阪圏サイトシーイング・サポート」代表)

10月24日、『住宅宿泊事業法の施行期日を定める政令』および『住宅宿泊事業法施行令』が閣議決定された。
施行期日は来年の6月15日で、違法操業に対する罰則は、旅館業法改正までは現行法どおりである。担当部署は国土交通省と厚生労働省、観光庁観光産業課と土地・建設産業局不動産業課だ。
住宅宿泊事業法要綱によると、民泊を行う住宅については、家主不在の場合はホテルや旅館と同様、非常用照明器具や火災警報機の設置を原則として義務付けるとし、家主がいる場合でも床面積が50平方メートルを超える宿泊室は、通常の宿泊施設同様の安全性確保が必要として、同様の対応を求める。
また、家主は2カ月ごとに民泊を利用した外国人客の人数や国籍などを報告し、得られたデータは観光統計として観光庁が活用する。更に家主には、民泊住宅と分かる標識の掲示や宿泊者名簿の作成、定期的な清掃などが義務付けられ、違反した家主には業務停止命令などに、無届け営業には旅館業法違反などに問われる。
とはいえ、今年6月に成立した新法に基づく民泊施設は、あくまでも『住宅』なので旅館業法の適用外となり、住居専用地域などでの提供も可能となる。
一方、宿泊施設と区別するため、年間の宿泊日数を180日以下に設定し、地域の実情に応じて、都道府県などが条例で区域と期間を定めて民泊の実施を制限できるようにする。これは土地利用の状況や宿泊に対する需要の状況などを勘案し、騒音の発生など、生活環境の悪化を防止することが特に必要である場合に実施される。近隣住民への配慮が必要だ。
住宅宿泊事業者は都道府県知事などへの届け出が必要で、家主不在の場合などは、国土交通省に登録された住宅宿泊管理業者に管理を委託しなければならない。
新法に基づいて届け出できる物件は、家主の居住物件、入居者再募集中の物件、別荘など。つまり中古物件だ。それぞれ届け出時には証明書類の提出を求め、届け出書には届け出住宅の規模などを記載、住宅宿泊管理業務を委託する場合には、住宅宿泊管理業者の商号、名称などを記載する必要がある。
届け出書に添付する書類は、住宅の図面、登記事項証明書など。
また、住宅が賃借物件である場合は転貸の承諾書、住宅が区分所有建物である場合には規約の写し、規約に住宅宿泊事業に関して定めがない場合は管理組合に禁止する意思がないことを確認したことを証明する書類などが必要となる。
住宅宿泊に必要な設備としては『台所』『浴室』『便所』『洗面設備』の4つを挙げ、居室の床面積は宿泊者1人当たり3・3㎡を必要とし、定期的な清掃や換気も行うことを求める。
更には、安全確保のために非常用照明器具の設置や避難経路の表示などの措置も必要になる。届け出住宅ごとに標識の掲示も必要だ。
なお、家主には宿泊者名簿を作成する義務も生じる。この名簿は、作成日から3年間は保存して、届け出住宅などに備え付ける必要がある。名簿には、宿泊者の名前と住所、職業、宿泊日に加え、外国人の場合は国籍とパスポート番号が記載されていなければならない。
また、外国人宿泊者の快適性と利便性を確保するため、住宅設備の使用法について外国語で案内することも求める。
この規則では、宿泊日数の算定方法も明確にした。毎年4月1日正午から翌年4月1日正午までの期間において、人を宿泊させた日数とし、正午から翌日の正午までの期間を1日とする。帳簿は5年間の保存となる。そして、住宅宿泊事業者は都道府県知事などに対し、2カ月ごとに宿泊実績を報告する必要がある。
さて、合法的な住宅宿泊(民泊)事業は本当に儲かるのか?
初期投資に必要なのは、リフォーム料、リネン、家具、電化製品だけではない。防火設備、許認可支出などは100万円を超える。また、電力、ガス、上下水道などの運転資金、受信契約、保守、清掃なども必須だ。
これらを勘案すると、稼働率の低い地方都市では赤字となって、五輪後にはお手上げになるかも知れない。多くの市町村が現地市場の正確な動向を知らないからである。
みずほ総研が9月22日に発行した最新レポート『2020年のホテル客室不足の試算』では、副題を『民泊、クルーズ船の利用急増で需給ひっ迫懸念は後退』としている。この45ページにわたるレポートは、9パターンの変数シナリオごとに、47都道府県の日本人と外国人の宿泊需要を予測している。たとえば、ホテルの新規開業計画から予測される供給側のシナリオが『標準』の場合、日本人・外国人の宿泊需要が共に『上振れ』するシナリオであっても、2020年の不足客室数は最大で3800室程度にとどまる。また、全シナリオで、地方の宿泊施設のシェアが2016年比で減少するとも予測している。

(O・H・M・S・S「大宇陀・東紀州・松阪圏サイトシーイング・サポート」代表)

観光客で賑わう奈良公園では、鹿たちがしきりにエサをねだっている。暑さも一段落で食欲旺盛のようだ。この『奈良のシカ』は春日大社の『神鹿(しんろく)』とされ、文化財保護法に基づく保護の対象となっており、約4000頭が生息する。今回で88回目の奈良訪問となる。
公園の客層は相変わらずインターナショナルである。わざわざゴールデンルートから離れてここを訪れるのは、貴重なお金と時間を費やすだけの価値を知る者ばかりかも知れない。外国人しか見かけなかった真夏と比べると、日本人客も少し増えたようだ。間もなく修学旅行のシーズンも来るだろう。
『国連世界観光機関駐日事務所』は、この奈良公園から遠くないJR奈良駅近くにある。

国連界観光機関では局長が応対してくれた。今年の国連世界観光機関のテーマは『持続可能な観光国際年2017』。10月5日にはその啓発の一環として、グローバル観光セミナー『ガストロノミーを通じた持続可能な観光・国際交流の可能性』が開催された。
これは『食』を観光コンテンツとした取組みで、ランドマークのない地域でも成功する可能性があるとする。
とはいえ、別段これは日本では珍しいことではない。大抵の旅館では、ずっと前から『一泊二食』で郷土料理が提供されている。三重県でも得意な分野である。
今回の訪問では、『ツーリズム』の国際社会に対する役割の再認識が共有できた。戦争の対極にあるのが平和産業としての『国際観光』だからである。
また、総会が近いことから、タイ人の女性観光客が1800万円の入院手術費用を日本で抱えたニュースを踏まえ、義務的な旅行保険の重要性についても話した。そのような啓発ができるのは国際機関だけだからである。

相互情報共有のために、ボランタリズムで奈良訪問を開始したのは2009年のちょうど今頃で、当時はまだ国道166号線沿線の宇陀市までだった。 それが、2010年に奈良県全域で開催された『平城遷都1300年祭』の、三重県内でのプロモーションを担うにあたり、奈良市にまで行き着いた。
月に一度の訪問はこの頃からである。このプロモーションイベントは、津と紀北町の観光協会、そして宇陀市と松阪市の協力も得て、2010年には『中部国際空港』の催事ホールを2日間借り切って開催、翌年には『津エアポートライン』でも開催できた。
福島第一原発事故が発生したのはその翌月であり、これによりインバウンドは大幅に減少した。国連世界観光機関を訪ねるようになったのはこの頃からで、経済協力開発機構(ОECD)と欧州統計局(EUROSTAT)が2013年に日本で初の『国際観光統計フォーラム』を開催した際に、たまたまO・H・M・S・Sブースの隣が国連世界観光機関のブースだった事もあり、それ以来、セミナーやフォーラムにはできる限り参加させてもらうようになった。 国のはじまりである奈良県や三重県を客観的にみる為だ。

ご存知のように、この奈良県と三重県は隣接しており、紀伊半島を縦断する伊勢本街道で繋がる津市・松阪市と宇陀市は、今は国道で直結している。現在、宇陀市では市民に向けた広報紙で、『古事記』『日本書紀』『万葉集』にまつわる話を連載中で、今月は本居宣長の『菅笠日記』に記録された3月の旅程を紹介している。
その中で宣長さんは投宿した榛原で、萩の咲く秋に来た方が良かったとの句を詠んでいる。
近年の榛原は、大阪のベッドタウンとして、近鉄榛原駅を中心に発展した宇陀市最大の都市だ。インフラも整っている。だが、急速な少子高齢化の波はここも同じようで、他都市との観光交流が必要なのは否めない。近隣諸県との情報共有が必要だ。
たとえば三重県と奈良県は同じ文化圏だった隣同士だが、今の三重では、遠く離れた長野県や静岡県はあるのに奈良県の天気予報さえ無い。それぞれが別々の経済圏に属する為に、メディアの縄張りが分断されているからだ。
したがって、戦国武将ブームも定着した感があるものの、宇陀市の三将を知る者は三重県には殆どいないし、その逆も然りである。このように情報交流が非常に限られている中、広報紙による紹介はとても価値があるといえる。
三重県も、リニア中央新幹線のみならず、隣県にも関心を持つべきだ。でなければ、どちらの県も通過都市と化すに違いない。
(O・H・M・S・S「大宇陀・東紀州・松阪圏サイトシーイング・サポート」代表)

[ 4 / 17 ページ ]« First...23456...10...Last »