特別寄稿

7月13日の英国サン紙によると、トランプ大統領は、EUとは離脱後も緊密に連携したいとするメイ政権の方針について、米国との自由貿易協定(FTA)に悪影響を及ぼすとの見解を示し、ロンドン近郊での共同記者会見ではメイ首相に、(貿易に)制約を設けないようにと呼び掛けた。
メイ政権は、農業製品の安全基準などに関してEUが決めたルールを離脱後も順守する方針であり、EUが輸入規制を緩和しない限り、英国が譲歩できるわけないからである。
農業製品は、米国とのFTAにおいて中心を占める公算が大きい。7月6日に決まったこの方針について、EUからの独立を重視する与党・保守党のEU懐疑派からは、これで米国とのFTAがほぼ不可能になったと首相を批判してもいた。
私は日本の状況を踏まえ、JETOROの『EUにおける食品流通関連規制について』を確認した。7月17日に、EUの経済連携協定(EPA)に調印したからだ。
確かに、EUへの輸出には、原材料、食品添加物、残留農薬/重金属、ラベル表示、容量/容器、放射性物質の検査項目に加え、HACCPに関する記述も含まれており、米国のそれよりも遥かに厳しいものである。
米国は、1997年より順次、州を越えて取引される水産食品、食肉・食鳥肉及びその加工品、果実・野菜飲料については、HACCPによる衛生管理を義務付けてはいるが、米国内で消費される食品を製造、加工、包装、保管する全ての施設には、2011年1月に成立した『食品安全強化法』によって、アメリカ食品医薬品局 (FDA)への登録とその更新を義務付け、対象となる施設にはHACCPの概念を取り入れた措置の計画・実行を義務付けている。限定的なのだ。
一方、EU諸国では2004年より、食品製造、加工、流通事業のすべてにおいて、HACCPの概念を組み込んだ衛生管理を一次生産者以外に義務付けている。全てにだ。
つまり、米国は世界一インバウンドが多い国だが、全ての飲食店にまでHACCPを強要しているわけではない。もし、国が『基準B』をゴリ押ししようものならば、移民系の飲食店は政治力を駆使して抗うだろう。早くからHACCPを取り入れたマクドナルドは、グローバル展開上必須だったに過ぎないのだ。
ひるがえって、日本では伝統的な日本の食文化にもHACCPを強制しようとしており、東京五輪が開催される2020年を目標に、EUと同じ『HACCPバリアー』を築くつもりでいる。調理中に職人が記録を付けることなどできっこないにもかかわらずだ。何しろ、食材が29品目ある彩り豊かな松花堂弁当だったら、29冊の記録用ノートが必要なのである。
この懸念は、日本では一切ニュース報道されてはいない。そして、HACCPのみならず、EU発であるGDPRについてもである。
(O・H・M・S・S「大宇陀・東紀州・松阪圏サイトシーイング・サポート」代表)

ゴールデンウィークは日本の映画興行界が産んだ和製英語だったが、今にちでは4月末から5月初旬にかけての大型連休の事を指す。三重県は5月9日、今年のゴールデンウィーク(4月28日~5月9日の9日間)の、21の県内主要観光施設や場所の観光入込客数を公表した。
調査協力施設は、ナガシマリゾート、御在所ロープウェイ、鈴鹿サーキット、御殿場海岸、ベルファーム、五桂池ふるさと村、フォレストピア、伊勢神宮、おかげ横丁、安土桃山城下街、鳥羽水族館、ミキモト真珠島、志摩スペイン村、伊賀上野城、モクモク手づくりファーム、伊賀流忍者博物館、赤目四十八滝、熊野古道センター、道の駅「紀伊長島マンボウ」、道の駅「熊野・花の窟」、鬼ヶ城センターで、入り込み総数は延べで21万08418人、1日あたりでは23万4269人、対前年比は98・8%との事である。5月11日の毎日新聞によると、県観光政策課は「昨年は大型連休中に伊勢市で全国菓子大博覧会があり、相乗効果があった。今年は大イベントがない中で、各施設が工夫して体験型イベントなどに取り組んだことで家族連れが増え、前年と比べ微減にとどまった」と話している。
とはいえ、これは延べ数であって実数ではない。観光客とレジャー客との線引も曖昧だ。たとえば、前年よりも10・2%減ったとされる「伊勢神宮」38万7725人の数字は、「内宮」25万3317人と「外宮」13万4408人との重複カウントであり、先の総延べ人数には、更に「おかげ横丁」の人数も加えてあるのだ。
もし貴方が外宮と内宮を参拝し、おかげ横丁にも立ち寄れば、貴方は1人ではなく3人なのである(ちなみに、GPSデータを活用して重複を排した2014年の年間両宮来訪率は48・8%だった)。
そもそも、このようなレジャー客と観光客とを一緒くたにした前世紀のデータベースでは、観光客の入り込み実態に基づいた観光経済を知るには程遠い。観光客数がよく分かる宿泊施設での調査もない。5月15日の中日新聞によると、鳥羽市の宿泊施設はおよそ5万6000人にとどまり、前年よりも4・9%減少した。全国菓子博があった2017年には5万9200人が、沢山のお巡りさんが滞在した2016年には7万5487人の宿泊があった。実態が把握できなければ対策も立たないのだ。
到着と収入を重視する国連世界観光機関の定義によると、観光客=ツーリストは24時間以上滞在するが、レジャー客=ビジターは24時間以内しか滞在しない。三重県の場合は、圧倒的に後者の方が多いようだが、観光客とレジャー客では経済波及効果に10倍以上の開きがある。ディスティネーション・キャンペーンが必要だ。
ちなみに、観光庁の宿泊旅行統計調査(速報)では、2017年の三重県の宿泊稼働率は51・1%。伸び率は(岩手県に次いで)下から2番目のマイナス2・9%。延べ人数は819万0290人で47都道府県中20位だ。そのうちインバウンドは27万7800人で31位だった。
(O・H・M・S・S「大宇陀・東紀州・松阪圏サイトシーイング・サポート」代表)

観光庁の『観光ビジョン実現プログラム』の中には、あたかもシェアリング理論をねじ込んだかの如き怪しい施策がある。『泊食分離』がそれだ。
確かに『一泊二食』は我が国特有のビジネスモデルであり、販売単価はルームチャージに比べると必然的に高くなる。選択肢も限られる。
しかし、地元食材をフル活用した一泊二食の価格は、大浴場と寝泊まりも含まれているため、多くの場合、積上げ式よりもお値打ちである。夕食はレストランに移動する必要のない部屋食なので小さい子供と一緒でも気兼ねなく、ドレスアップやメイク直しの必要もない。そればかりか、テレビを見ながらの食事でもいっこうに構わず、主婦(主夫)にとって、上げ膳下げ膳こそは何よりも魅力だ。
しかも料理はフルコースで、冷たいものは冷たいうちに、温かいものは温かいうちに供出される。『仲居さん』に、土地の見所や汐見を訊くのもいいだろう。
顧客の利益だけではない。一泊二食で部屋食のシステムは、産業の少ない土地では地域雇用を下支えするし、要不要が定かではない生鮮食材の在庫を抱える必要がないので、食材廃棄率の面でも優れている。予め献立が決まっているので無駄な仕入れがないのだ。おそらくそれは、『かんばん方式』に匹敵するぐらい合理性を有するシステムだろう。
にもかかわらず、『観光産業革新検討会』では『泊食分離』を進めたいようである。長期滞在したら高額出費になるというのであれば、旅館よりもホテルや民泊を選択すればいいだけの事であり、一泊二食システムについては、豪華料理による日本式の短期滞在型モデルとして紹介してもいい筈だ。
一泊二食について、もう少し掘り下げてみよう。
『ホテル』は部屋を売るのが主であって、レストランで供出される料理はあくまでもオプションである。
一方、『旅館』の売り物は料理が主であり、部屋は宿泊者数と料理ランクによって割り振られる。したがって、旅館の料金設定は一泊二食が基本となり、それに定員ベースの割り増しやトップシーズン料金、休前日料金などを加算することになる。
定員ベースの割り増しとは、定員4人の部屋ならば一人1万5000円で6万円を得ることができるので、同じ料理で同一タイプの部屋を3人で利用するならば1人2万円で6万円、2人ならば3万円との考え方だ。
また、トップシーズン料金や休前日料金があるのは、需要の増加によってエネルギーコストや食材の卸値、そして季節雇用者の人件費相場などが上がるので、それに応じたコスト回収が必要だからである。
これらは、主に直接予約やネットエージェントの場合に適用されているが、大手旅行代理店に提供されるプランに定員ベースの割り増しはあまり聞かない。
しかし、合理的説明のつくトップシーズン価格や休前日料金については容認しているようである。高額な送客手数料の上に更に上乗せしてもらえるから、ビジネスとしては当然だ。
このように、『一泊二食』とその料金は、戦後日本の高度経済成長期からバブル崩壊迄の間に爆発的に増えた団体客向けの大型旅館と旅行業界との間の取引で形成された、極めて昭和な商習慣である。それ故に、増加傾向にあるインバウンドには分かりづらく、それで儲けたい外資系マッチングサイトも売りづらいようである。単純に価格を比較するのも不可能だ。
とはいえ、『一泊二食』は我が国固有の無形の文化でもある。これをなくそうというのは度が過ぎた日本文化の軽視だ。また、伝統的旅館そのものがディスティネーション(目的地)であるとの声もある。店探しや料理のチョイスに失敗しない『和食』のフルコースが提供されるからだ。
一泊二食の旅館を選択する顧客の『食』に対する関心は高い。それは既に一つのガストロノミー・ツーリズム(その土地ならではの食や自然・文化をたのしむ旅)なのである。

(O・H・M・S・S「大宇陀・東紀州・松阪圏サイトシーイング・サポート」代表)

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