特別寄稿

総務省の集計によると、外国人を含む14歳以下の子供の数は前年より19万人少ない1493万人で、40年連続の減少となった。日本の総人口に占める割合は11・9%で47年連続の低下である。内訳は男子765万人、女子728万人で、3歳ごとの年齢層別では低年齢ほど少なく、12~14歳が324万人に対して、0~2歳は265万人だった。国連人口統計年鑑によると、日本の子供の割合は人口4千万人以上の33カ国のうち、韓国の12・2%、イタリアの13・3%などを下回り、最少である。
この、そう遠くない未来の内需の減少は、既存企業の生き残り競争を激化せしめ、間伐のように中小企業の淘汰・再編を促す。そして、吸収によって膨れた企業が海外マーケットを求めるのも不思議ではない。外貨獲得にも欠かせないからだ。それ故、日本は自動車輸出に専念し、産業界は中国市場が特に有望であるとする。
ところが、中国税関総署によると、中国が2019年に輸入した自動車は105万台で、輸入元別に見ると日本からの輸入が33万台(シェア31・8%)、ドイツ(シェア26・5%)、米国(シェア18・3%)、スロバキア(シェア6・8%)となっており、2019年に中国で販売された自動車全体に占める比率は約4%にすぎない。中国における多くの外車の殆どは現地生産だからである。
世界の主要自動車メーカーは、中国のメーカーと現地に合弁会社を設立し、現地で生産と販売をしている。乗用車のブランド別販売状況を見ると、ドイツ系が520万台、日系が458万台、米国系が191万台、韓国系が101万台などとなっており、その合計は、中国系840万台をはるかに上回っている。ということは、日本の貿易収支への貢献も極めて限定的だと言える。依存度の高い生活雑貨の輸入との相殺が精々だ。何故ならば、中国は外貨の流出を殊のほか警戒しているからである。
中国の外貨準備高は2014年6月の3兆9932億ドルをピークに減少に転じ、2015年には通年で過去最大の5127億ドルも減った。そこで中国は海外旅行による人民元持ち出しに制限を設け、2016年の元旦からは海外での「銀聯カード」による現金引き出しも一日1万元・年10万元までに制限した。海外での「爆買い」が資本流出の抜け道になったと判断したためだ。ちなみに中国人民銀行によると、2021年2月末の外貨準備高は3兆2050億ドル(約346兆円)へと回復基調にある。コロナ禍によって海外渡航が禁じられているからである。
さて、こうみると、外貨獲得政策としてのインバウンド再開についても、高度な戦略を要することになる。少なくとも中国マーケットへの過度の依存はすこぶる危ういといえる。また、地方経済の自助活性化とSDGsのためには、20世紀の対米貿易にみられたような、モノ輸出の代わりにサービス輸入を差し出すものとは真逆であるべきともいえる。SDGsとは、2015年に国連総会によって設立され、2030年までに達成予定とされる持続可能な開発目標またはグローバル目標であり、「すべての人にとってより良く、より持続可能な未来を達成するための青写真」として設計された17の相互リンクされたグローバル目標コレクションだが、これを実現する為には製造業からサービス業へと優先政策を転換する必要がある。21世紀の世界大戦はコロナウイルスとの戦いになったが、戦後復興には多くの国々にとって、国際ツーリズムの復活が絶対に必要だからだ。そのエビデンスは、既にコロナの戦前から見えていたのである。
(O・H・M・S・S「大宇陀・東紀州・松阪圏サイト・シーイング・サポート」代表)

 

昨年秋に復元上映された映画「何が彼女をさうさせたか」

昨年秋に復元上映された映画「何が彼女をさうさせたか」

コロナ禍で延期していた『GIジョー…漆黒のスネークアイズ』の全米公開が、2021年の10月22日に決まった。この映画は、内閣府の「地域経済の振興等に関する外国映画ロケーション誘致に関する実証調査の対象作品」として、初めて選ばれた米国のメジャー映画であり、姫路・大阪・茨城など日本各地で長期ロケが敢行されたものである。
内閣府の目的は、インセンティブが海外からの大型映像作品の撮影ロケーション誘致にどのような効果があるかの検証だ。海外制作者との現場交流のみならず、日本の文化資源・観光資源等の映像への取り込みを通じた雇用創出、産業育成、人材育成、インバウンド誘客といった効果を期待している。これは、その目的の点において、ビジネスライクにない従来のフィルムコミッションとは別ものだ。
しかしながら、的を射るかどうかについては、フィルムコミッション同様、作品次第だと思う。要は知名度が高い映画で、地名が明確かどうかである。
この点において、コロナ禍で4回延期されて、同じ月に全米公開となる「007ノー・タイム・トゥ・ダイ」は申し分ない。007の知名度は抜群だ。とはいえ、それでも地名不明のシーンもあるので要注意である。現に「スカイフォール」に登場した長崎の軍艦島は、別の国の別の場所になっていたし、「私を愛したスパイ」の美しいサルデーニャの海底も、実は沖縄の海だった。インセンティブを出すならば、それに見合うかどうかが重要だ。
ところで、先日、生まれ故郷の布施を訪問した。ここは玉造稲荷神社を起点とする伊勢参宮本街道ルートの発地であり、東洋のハリウッド・長瀬撮影所を擁した映画の街でもある。だが、時の流れには抗えず、昭栄座(1933年)の時代を経て1997年にはシネコン化した布施ラインシネマも、とうとう昨年の2月いっぱいをもって閉館・解体され、映画の街の面影は失われていた。
しかし映画愛はまだ残っているようだ。長瀬撮影所で撮られ、キネマ旬報の優秀映画投票第1位を獲得した「何が彼女をさうさせたか」が復元され、昨年秋には東大阪市の公民館で活弁士つき上映会が催されている。この映画は1930年公開のパブリックドメインだ。
パブリックドメインとは、著作物や発明などの知的創作物について、知的財産権が発生していない状態または消滅した状態のことである。これは、保護期間の満了のみならず、承継人の不存在、権利放棄、権利取得に必要な手続・方式の不履行も含まれる。
文化庁によると保護期間とは、著作権や著作隣接権など著作権法上の権利を保護するもので、期間は環太平洋パートナーシップ(TPP)協定締結による著作権法の改正により、TPP発効日である平成30(2018)年の12月30日からは、原則、著作者の死後70年までである(旧法では50年だった※)。外国人著作物の我が国における保護期間も同様だ。
ただし、TPP整備法附則第7条によると、一度保護が切れた著作物については,その保護を後になって復活させる措置は原則として採らない。したがって、旧法で既に保護期間が切れているものについては、遡って保護期間が延長されるわけではない。また、我が国より保護期間が短い国の著作物は、その相手国の保護期間だけ保護される。
とはいえ、外国人の著作物の保護期間については戦時加算というものがある。サンフランシスコ平和条約に基づいて、昭和16年(1941)12月8日の開戦時からサンフランシスコ平和条約発効前日までの期間を通常の保護期間に加算することになっているのだ。例えば、米国や豪州については3794日、また、戦中に取得した著作権については取得時から起算される。
しかし、我が国はTPP交渉において、戦時加算義務のあるカナダ、ニュージーランド、豪州の各政府との間で「戦時加算問題への対処のため、権利管理団体と権利者との対話を奨励すること」「必要に応じて、これらの対話の状況及び他の適切な措置を検討するため、政府間で協議を行うこと」を個別に文書で確認。TPPを離脱した米国との間では、平成30(2018)年4月に、改めて文書で確認している。また、日EU・EPA交渉においても、関係国(英、仏、蘭,ベルギー、ギリシャ)との間で同様の文書による確認を行っている。
※1953年は「東京物語」や「風と共に去りぬ」「シェーン」などの古典的名作映画が公開された年であり、旧法と新法の判断が分かれた年だった。文化庁は、これらの映画の著作権は2023年まで続くものとしていたが、最高裁は2007年12月18日、1953年に公開された団体名義の独創性を有する映画は、2003年12月31日をもって終了したと裁定した。例えば、主な小津映画では「東京の合唱」(1931年)、「大人の見る繪本 生れてはみたけれど」(1932年)、「晩春」(1949年)、「麦秋」(1951年)、そして「東京物語」(1953年)までがパブリックドメインで、「小早川家の秋」(1961年)、「秋刀魚の味」(1962年)は権利保護期間にある。ちなみに、「ローマの休日」(1953年)は、米国では公開から95年間が著作権保護期間内だが、日本ではローカル・パブリックドメインとして裁定されている。
ローカル・パブリックドメインに対し、グローバル・パブリックドメインもある。製作国において著作権保護期間が満了し、全世界的にパブリックドメインとなった映画だ。米国では1922年以前に公開、日本では1953年以前に公開、それ以外の多くの国では公開後70年の映画である。
また、1977年までに米国で制作・公開された作品で、著作権表示(オープニングタイトル、エンドロールなど)がない映画や、1989年3月1日までに米国で制作・公開された映画で、作品に著作権表示がない、著作権として登録されていない、または手続きに不備がある映画、1963年までに米国で制作・公開されて、著作権表示はあるものの公開から28年以内に更新されなかった、或いは手続き不十分の映画、また、制作会社が倒産して著作権が継承されていない映画も、権利放棄とみなされパブリックドメインになる。オードリー・ヘップバーンの「シャレード」(1963年)が有名だ。
(O・H・M・S・S「大宇陀・東紀州・松阪圏サイト・シーイング・サポート」代表)

HACCPは1960年代のアメリカで、宇宙食の安全確保のために設けられたのが始まりだ。地球外における宇宙飛行士の体調不調の原因が宇宙食にある場合、その責任の所在を徹底的に追及する為である。
日本では、2015年のミラノ万博で経産省がEUのHACCPで恥をかいたが、厚労省は2018年の6月13日に改正食品衛生法を改定し、2020年の五輪開催予定を見込んだ2年以内の施行と、施行後1年間の経過措置とで、トータル3年程の準備期間を設けていた。
これが、いよいよ今年の6月より完全義務化される。HACCPついては、本欄でも法案成立当時に集中的に書いてきたが、おさらいの時が来たようである。
HACCPとは「Hazard Analysis and Critical Control Point(危害分析重要管理点)」のことであり、世界で(全てではない)用いられている食品製造のための衛生管理手法を指す。原料の受け入れから製造出荷までの全段階で、「何が健康上の危害要因になるか」を明確にし、その危害要因をどの工程で管理するかを定め、製品の安全を確保するのが目的だ。原則として、リアルタイムでそれぞれの工程が確実に管理されているかを監視記録し、必要に応じて改善措置を行わなければならない。経験と勘に頼った火加減はご法度となり、昔ながらの食堂も例外ではない。
HACCPの導入には、あらかじめ衛生管理のための「HACCPプラン」のマニュアル作成が必要である。このマニュアルには「衛生管理のために重要な7つの原則を含む12の手順を必ず盛り込むこと」が定められている。原則12手順の具体的な内容は以下の通りである。
手順1 HACCPチームの編成
手順2 製品についての記述
手順3 意図する用途の特定
手順4 製造工程一覧図の作成
手順5 製造工程一覧図の現場での確認
原則1(手順6)危害要因の分析
原則2(手順7)重要管理点(CCP)の設定
原則3(手順8)管理基準の設定
原則4(手順9)モニタリング方法の設定
原則5(手順10)改善措置の設定
原則6(手順11)検証方法の設定
原則7(手順12)記録の保持
この手順に沿って事業所ごとにHACCPプランを決める必要がある。つまり、企業形態や製造しているもの、従業員の人数や工場・店舗の規模などによって全く違うオリジナルなプランになる。
厚労省は、これだけ面倒な手順を踏めば、不具合が起こった場合の原因究明や、影響を受けた商品ロットの特定が、従来よりも迅速にできると見込んでいるわけだ。
農水省が行った食品製造業への実態調査によると、2019年の時点でHACCP「導入済み」としている事業者の割合は22・5%で、「導入途中」を加えると40・5%ほど。また、「導入検討」の割合は21%で「導入未定」は18・9%であり、「HACCPを良く知らない」も19・7%あったが、今まで除外されてきた小規模事業も、今年の6月からはHACCPに沿った衛生管理の制度化対象になる。これは、大なり小なりコストアップとなり、消費者価格への転化は不可避となる。
HACCPを導入するための施設あるいは設備整備を行う際には、「HACCP支援法」による支援措置を受けることができる。また、HACCPに対応するための施設や設備にかかる資金に関しては、特別に低金利融資が受けられる。が、この支援措置を受けるためには、指定認定機関に「高度化基盤整備計画」または「高度計画書」の提出が必要だ。
この指定認定機関は、食品の種類によって違い、指定認定機関から認定を受けると日本政策金融公庫の長期低利融資が受けられる。支援措置の対象となる企業は、食品の製造または加工の事業を行う中小企業者で、資本金3億円以下または従業員300人以下等の条件もある。支援限度額は、事業費の80%以内または20億円のいずれか低い額となっており、物の整備、衛生管理設備の設置、監視制御システムのための機械・設備の設置に充てることができる。導入の有無については、書類の提出および定期的な視察によって確認する予定となっている。
とはいえ、このコストアップは消費者価格への転化が不可避であり、年嵩な店主がこれを機に店をたたむ可能性もある。この、宇宙食なみの管理を求める理由、それは我が国の食品・食材の輸出政策にある。域内保護貿易色の強いEUが、HACCPを導入していない国からの輸入は認めないからだ。
一例をあげると、EUとの経済連携協定は2019年2月に、英国とは昨年1月に発効したが、未だ放射性物質による規制措置は全廃には至ってないのである。
なお、HACCPは業界ごとに異なるので注意を要する。小規模な一般飲食店事業者向けは、ホテルや旅館よりも面倒だ。また、「HACCPプラン」とは別に「HACCP認証」というものもある。
これは、自社の衛生管理システムがしっかり機能しているということを、認証資格を有する第三者から評価してもらう制度であり、HACCPを徹底して衛生管理に努めているとのアピールになるものだ。
現在、大きく3つの団体認証と審査機関が存在し、経営の規模や流通の範囲、食品の種類などにより、どのHACCP認証が適しているかを選ぶ必要がある。

(O・H・M・S・S「大宇陀・東紀州・松阪圏サイト・シーイング・サポート」代表)

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