特別寄稿

観光庁によると、昨年一年間の宿泊者数は前年比の約半分に落ち込んだという。
新型コロナウイルス感染症の影響を大きく受けた観光地は、今後、失われた観光需要を回復していく必要がある。
そのためには地域に眠る観光資源を充実させ、地域の魅力をさらに高め、感染・蔓延防止対策を徹底し、新たな安心・安全な旅行スタイルを確立する必要がある。重要なのは、地域内の縦割りを打ち破り、観光事業者や観光地域づくり法人(DMO)、交通事業者、漁業、農業、地場産業などのさまざまな事業と協力して観光資源を洗練することだ。
この観点から観光庁では、観光関連事業者や地方公共団体など、地域に根ざした様々なステークホルダー(企業の経営 行動などに対して直接 ・ 間接的に利害が生じる関係者)が協力して観光資源を充実させる実証事業を公募・支援することにした。そして、これらの実証プロジェクトの実施を通じ、観光需要の回復と地域経済の活性化に向けた地域協力推進の方向性を検証するという。これが観光庁の「地域の観光資源の磨き上げを通じた域内連携促進に向けた実証事業」公募の目的である。
事業の流れは、公募締切が令和3年の3月31日→事業の選定・通知が令和3年の5月中旬頃→事業開始→最終報告締切が令和4年の3月4日となっている。第二次公募の予定は、令和3年の6月上旬頃から7月上旬頃にかけてだ。
大まかな事業内容は、事業計画書及び新型コロナウイルス感染対策実施マニュアルの作成、地域の多様な事業者が連携して行う観光資源の磨き上げ、事業効果の検証、報告書等の作成であり、実施主体(提案者)は、当該地域に根ざしたDMOや観光協会、当該地域に拠点を有する民間企業、地方公共団体などとし、そうでない場合は地方公共団体との連携が必須である。
とはいえ、縦割りの壁を打ち破るのはそう簡単な事ではない。すなわち国の所轄省庁の壁である。例えば、歴史文化探訪が国際的にも観光の主流であるにも関わらず、観光は国土交通省の観光庁メニュー、文化は文部科学省の文化庁メニューと縄張りが違う。擦り合わせの方法が無いわけではないが、非常に限られているのが現状だ。経験から言えば方法は二つしかない。一つは、観光に長けた自治体首長によるトップダウン。もう一つは、客観的視点に立った包括的なファクターを見つけ、幅広い合意を得ること。肝心なのは目的の明確化、そして、それはハードウェア面ではなくソフトウェア面だということである。

▼目的の明確化▲

目的は「地域経済の活性化である」。これは、よく耳にするセンテンスである。では、観光による地域経済の活性化とは具体的にはどういうものか?もちろんそれは、宿泊の増加、中食飲食店の繁盛、土産物店の売上増加、観光施設の入場者の増加による収益増と雇用創出といったものである。加えて、それに付随する出入り業者、交通事業、インフラ業者、不動産、地銀などもだ。
そして、これらは商業圏と生活圏の分離が進んだ、主に戦後に保養観光地として開発が進んだ土地ならば合意形成も比較的困難ではない。
だが、そうでなかった土地では「なぜ観光に力を入れなければならないのか?」から入らなければならない。合意形成はその上での事となる。そして、今にち焦点となっている「地域の歴史文化の活用による観光促進」の多くは、21世紀に入ってからの新興勢力であり、「私には関係ない」という地域住民から合意を得るのは容易い事ではない。これは「観光地」という日本語の持つ負のイメージに起因する。生活圏の喧騒を望む者は誰もいないからである。
だったら「観光=サイトシーイング」ではなく、もっと包括的な呼称ならばどうだろう。すなわち「観光=ツーリズム」である。既に某大手旅行会社ではその転換もすすんでいる。私はこれまで何度もこの観光の概念について書いてきたが、要は日本語の「観光」をも包括するグローバルな考え方への転換である。その上で訪問を促す目的を明確化するのである。

▼ハードウェアとソフトウェア▲

ハードウェアとは、いわゆる訪問者に見ていただく、景観、建築物、遺物、お宝などのオブジェクトである。これらは基本になる。一方、ソフトウェアはいわゆるイベントである。が、何もそれは大がかりな催事を指すのではない。必要なのは、訪問者のみならず、多くのステークホルダーの琴線に触れるものである。そして、「一度行ったからもういい」を防ぐために、常に実施できるものである事が重要だ。一過性の催事では継続性が得られないからである。
2月末に、明和町にある斎宮のプロジェクションマッピングの実証実験を見に行ったが、催事としての物珍しさは確かにあるものの、斎宮史跡でナイトショーを実施する目的が、いまいち明確でない点が気になった。宿泊施設や飲食店が近くにないからだ。
また、その翌日には七年ぶりに伊勢の河崎にも足を運んだ。ここには飲食店が少なからずあり、近くには宿泊施設もある。が、ストリートは店じまいが増え、コロナを理由に市も中止で閑散としていた。以前ここの会合に喚ばれて聞いた話によると、このストリートのコンセプトは「いつまでも住み続けられるまち」であり、それを失ってまでの観光開発は行わないという。
しかし、これは「観光」の解釈いかんではないかと私は思う。ここにはたくさんの古民家があるが、廃屋が増えれば外資の侵入を許す事にもなりかねない。優れたハードウェアに相応しいソフトウェアが求められるところである。

▼結論▲

どうやら、「地域の観光資源の磨き上げを通じた域内連携促進に向けた実証事業」には、斎宮と河崎、この相反するニーズの両方を満たす必要がありそうである。では、それは何か?「観光」のみに囚れていればそれは見つからない。だが「ツーリズム」の観点から言えば、目的は「町のプロモーション」とし、コンテンツはパブリックドメイン映画などの活用があげられる。映画は時代の証人であり、その文化的価値は総合芸術でもあるからだ。これにより、先ず住民のファンをつくり、それを訪問者増へと段階的に発展させるのである。これは汎用性が高いので、大宇陀や渡鹿野島、松阪や津市においても、同じ手法が使える可能性がある。(O・H・M・S・S「大宇陀・東紀州・松阪圏サイト・シーイング・サポート」代表)

今にちの映画の原型、映像をスクリーンに投影して一度に多くの人々が鑑賞できるシネマトグラフは1885年にフランスのリュミエール兄弟が発明したが、世界各国で制作されていた当時の映画は、1927年(昭和2年)に世界初のトーキー映画『ジャズ・シンガー』が公開されるまで音声トラックが存在しないサイレントムービーだった。作品は、カットタイトル字幕によるセリフとト書きで進行し、演技はアニメのようなオーバーなパントマイムで表現される文字通りの活動写真であり、モノクロで効果音もなかった。
その時代の傑作の一つである「バグダッドの盗賊」を観る機会を得た。この1924年(大正13年)に公開されたサイレントムービーは、1996年に米国国立図書館によって国立登録簿に登録された芸術作品でもある。とはいえこれは退屈とは縁遠い娯楽超大作だ。巨大なセットや目をみはる群衆シーン、また、「どこかで見たことのある」カットやストーリー展開の原点さえをも確認できる。特撮も満載だ。
あらすじは、バグダッドの盗賊(ダグラス・フェアバンクス)が王宮に忍び込み、美しい王女(ジュランヌ・ジョンストン)を発見し、恋に落ちる。盗賊は王子のふりをして、王女も彼に夢中になる。盗賊は不正行為を聖人に明かし、聖人は彼を苦行として魔法の箱を見つける旅に送り出す。盗賊は箱を獲得するために多くの障害を克服し、そのパワーを使って蒙古の侵略者からバグダッドを守り、最愛の人を救い出す、というものだ。泥棒に扮したフェアバンクスはバレエの如き身のこなし、蒙古の王子に扮した日本人俳優・上山草人(かみやまそうじん・1884─1954)は準主役なみの仇役である。
ところで、この47本ものアメリカ映画に出演していた上山草人という俳優は、三重県とは浅からぬ所縁がある。昭和6年(1931年)に映画『唐人お吉』の撮影で渡鹿野島を訪れた際、島民と意気投合して草人が別荘を建てる事になり、島から寄贈された大日山頂の別荘の門に谷崎潤一郎が書いた「草人漁荘」の竹製の表札を掲げている。草人はこの渡鹿野島を「東洋のモナコ」にすると意気込み、文学、画家、劇団のすべての友人を招いて、静かな絵画のごとき美しい島の風景を楽しむ計画だったそうである。
結局のところ草人は別荘は建てなかったが、戦後は多くのホテルが県外から進出、不夜城と化した。だか、それらはバブル経済終焉と共に相次いで撤退し、残骸だけを遺すに至った。今や、この昭和時代の面影を色濃く残すハート型の小さな島は、夜ともなると島の半分が漆黒の闇へと溶け込んでいく寂しい状況である。それだけに、渡船が行き交う港の側は、波止場に設けられたハートマークの電飾もきらびやかに来訪者を明るく迎え入れている。この島は、家族連れやツアー客の支持を受け、甦ろうとしているのだ。
港に隣接する宿泊施設も、「GoToトラベル」がピークを迎えた昨年の秋から師走の初めにかけ、休日は津市や松阪などの近隣都市からの家族連れ、平日は九州や東京など全国からのツアー客で活況を呈していた。私はちょうどこの頃2カ月間、ほぼ毎日のようにこの島に通ったが、過去の汚名を十数年かけ払拭してきた甲斐を目の当たりにした思いである(この点において、現状を見ずして古傷をほじくり、印税を稼ぐ輩には憤りを覚える)。
だが、悲しいかな観光業界よりも大手旅行業界の救済に焦点をあてた「GoToトラベル」である。主に大都市圏における感染者急増で政策が停止したとたん、状況は一変した。宿泊施設の窓からは明かりは消え、漁協も日帰り釣り客を閉め出し、初めて魚を釣った子供たちの歓声も消えた。まるで無人島の如き状況である。
とはいえ、この元々コロナ禍ならではの賑わいには、持続性の点で問題があった事も確かである。現在ストップしている一般向けの海外旅行が再開されれば、国内市場が海外市場との競争に再び晒されることは疑う余地がないからだ。しかも、旅行に出られる市場は少子高齢化で減少の一途であり、椅子取りゲームの加速が否めない。収支の点においては、アウトバウンド(海外旅行者)を上回るインバウンドが必要なのである。
そんな中で、今年は志摩市で太平洋諸島首脳会議(Pacific Islands Leaders Meeting)が開催される。三重県も新年度予算案に県警のテロ対策費などを計上している。私は島のイメージチェンジを加速する点、また、インバウンドの呼び水にもなる点で開催会場は渡鹿野島としたほうが、県にとっても理にかなった選択になるのではないかと思う。知名度の向上こそが「東洋のモナコ」ではないだろうか。
ちなみに首脳会議の参加国は、日本を含む17カ国、オーストラリア、クック諸島、ミクロネシア連邦、フィジー、キリバス、マーシャル諸島共和国、ナウル、ニュージーランド、ニウエ、パラオ、パプアニューギニア、サモア、ソロモン諸島、トンガ、トゥヴァル、ヴァヌアツの首脳などとされ、主要テーマは、気候変動・環境・防災、海洋・漁業、貿易投資・観光・インフラ、社会開発(保健・教育・人材育成・人的交流)と多岐にわたる。また、年末年始にかけて4回開催された有識者会議の中には4回とも防衛研究所主任研究官が参加している事からみて、領土問題、海上権益、安全保障問題も内包されるに違いない。(O・H・M・S・S「大宇陀・東紀州・松阪圏サイト・シーイング・サポート」代表)

少し前、5月11日のNHKによると、安倍総理は衆議院予算委員会の集中審議で、経済の弱体化に伴って日本の企業や土地が外国資本などに買収されるのを防ぐとし、経済の安全保障の観点から対策を戦略的に講じていくとの考えを示した。
コロナ禍で日本経済が悪化すると、企業や土地に割安感が出て中国などが買収する可能性があり、防御策をとる必要があるからだ。
韓国、シンガポール、オーストラリア等では、外国人の土地購入には既に厳しい制約をかけており、米国では、包括通商法によって大統領が国の安全保障を脅かすと判断した場合、事後であっても土地取引を無効にできる権限を持つ。
総理は「わが国の経済構造を安全保障の観点から俯瞰し、そのぜい弱性に対処するとともに、強じん化に戦略的に取り組んでいかなければならない。対内直接投資を一層促進しつつ、国の安全を損なうおそれがある投資に適切に対応する観点から、昨年改正した外為法を適正に運用するなど、投資に対してはしっかりと目を光らせていきたい」と述べた。
中国が狙っている不動産は水源地、森林、ゴルフ場、観光施設、メガソーラーなどがあり、いま最も顕著なのが北海道である。
2010年にはニセコの山田温泉ホテルが7億円で中国資本が買収、2015年には占冠村の1000ヘクタール(東京ドーム213個分)を超える総合リゾート施設『星野リゾートトマム』が、中国の商業施設運営会社『上海豫園旅游商城』に約183億円で買収された。上海豫園の大株主は上海の中国民営投資会社『復星集団(フォースングループ)』だ。トマム地域は水資源保全地域に指定されておらず、リゾート施設内にある水源地も一緒に買収されている。
この復星集団は、トマム買収以前にも隣のリゾート地『サホロリゾートエリア』(新得町)で、宿泊施設を所有するフランスのリゾート施設運営会社『クラブメッド』を買収。サホロリゾートも実質は中国資本の傘下にある。
ところで、星野リゾートは同年、日本政策投資銀行との折半合弁会社として20億円に上る投資ファンドを設立、トマムなどを運営している。日本政策投資銀行とは、株式会社日本政策投資銀行法に基づいて2008年に設立された、財務省管轄の日本の政策金融機関の特殊会社だ。いわば手綱である。
とはいえ、中国化が進捗し、居るのも来るのも殆どが中国人の状態になると、その場がチャイナタウン化するのも時間の問題だといわれている。
土地絡みだと、メガソーラーも懸念材料である。
上海電力日本株式会社は上海電力股份有限公司が日本で設立した100%子会社で、太陽光・太陽熱、風力、水力等の発電事業への投資、開発、建設、運営、メンテナンス、管理、電気の供給及び販売に関する事業を展開している。
基本スタンスとしては日本企業との共同で事業を進め、その地域の人々との共生を重視するとし、既に大阪南港と兵庫県三田市、そしてつくばでメガソーラー施設を建設・稼働させている。それに伴い取得した土地は、大阪約5ヘクタール、兵庫約11ヘクタールである。大阪市南港咲洲メガソーラー発電所の定格出力は 2・4MW。日本伸和工業との共同投資プロジェクトで、2014年5月16日に稼動。兵庫三田プロジェクトの定格出力は 5・05MW。ロケーションは沢谷字南山にある山林野原で、2016年2月8日に稼動だ。
そして、SJソーラーつくば発電所の定格出力は35MWで、2017年4月1日に稼働した。約3万枚の太陽光パネルが設置されたこの発電所の投資額は130億円超。東電と2015年4月に売買契約を結び、売電価格は2013年度申請時の36円/kWhで、年間販売額約10億円を見込む。  また、全国最大規模のソーラーシェアリング事業として、ソーラーパネルは農地の上に設置、地元の農業生産法人による農作物栽培を同時に行なっている。約50ヘクタールの用地は、200人近くの地権者から20年間借り受ける契約で、賃貸料は1000平方メートル当たり年間約10万円。SJ社が9割超、農業生産法人が1割弱の負担だとされている。
しかし、太陽光発電は発電効率が悪い上に買い取り価格も年々下がっており、事業の旨みが少なくなってきている。日本企業は参入を渋り始めたところだ。日本国内4つ目の事業とされる那須烏山プロジェクトも足踏み状態にある。
それでも中国系企業が怯まない背景には、太陽光発電を名目とした土地取得という目的があると言われている。そして、20年間の借り受け契約満了後に上海電力は、土地の買い取りを地権者に打診するのではないかと懸念されている。日本政府は、メガソーラーを含む土地の転売にも、しっかり目を光らせてもらいたいものである。
とりわけ、中国の潜水艦が潜航したまま通過する太平洋沿岸は、日米同盟の戦略上でも重要だ。伊勢志摩国立公園のメガソーラーも、転売ヤーが手掛けているものは監視が必要である。
(O・H・M・S・S「大宇陀・東紀州・松阪圏サイトシーイングサポート」代表)

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