投資のおはなし

 昨年の日経平均株価は、相場格言のうま尻下がりをくつがえし、7・6%の上昇でありました。新春の企業経営者や証券各社の恒例の強気見通しでは、年末日経平均2万円が云われています。
 昨年の主要各国の株価騰落として、上昇した国は中国53%・インド30%・米国7・5%、下落した国はロシア45%・ブラジル2・9%となっています。特徴的には株価が上昇している国は金融緩和・低インフレ、株価が下落している国は金融引き締め・高インフレとなっています。
 他には、国際商品相場の低下が散見されます。原油の46%下落、金の年間高値から14%下落などです。原油安の背景は需要サイドで中国などの世界的な景気低迷による需要の減少。供給サイドでは米国のシエール革命による原油生産の増加があります。金の下落はドル上昇の対比した商品特徴といえます。通貨では世界通貨に対し米国ドルの独歩高、対ドルでロシアルーブル45%、円・ユーロ・ブラジルレアルの各11%の下落となっています。
 今年の相場予測の最大のポイントは、6月に米国の金利が08年のリーマンショック以降、7年ぶりに引き上げられることです。過去2013年5月、2014年1月と金融引き締め発言が出るたびに、世界的な株価急落、新興国通貨の下落が生じています。このために今年の年央に最大の注意が必要となります。
 昨年12月中旬に、原油大幅安とギリシャ政局の混乱により、一度世界の株価は下落を経験していますが、今年に入り原油価格の更なる下落と25日のギリシャ選挙結果ではEUからの離脱懸念で、年初から株価が大きく調整しています。
 但し今年は良い材料も多くあります。原油価格3割下落で先進国の景気を0・8%底上げされると云われています。原油安は新興国など資源国にはデメリットとなりますが、米国や日本など資源消費国にはメリットは大きい訳です。
 金融面では、世界的には主要国で金融緩和は継続しています。今後、日本や欧州・中国では追加緩和も予想されています。企業業績も前年比で米国S&P500で9・5%や、日本輸出企業で15%の増益が見込まれています。
 目先、ギリシャ問題が終息すれば、米国株に次いで日本株も企業業績の向上により上昇が始まると思われます。
 また海外投資家から見たドル建て日経平均にも注意が必要となります。ドル建て日経平均とはその時々の日経平均をドルで割った価格です。日本株の売買代金の6から7割が海外投資家のシェアーといわれています。その為、日経平均の動向は外人投資家の売買に大いに関係してきます。
 海外投資家の投資評価は日経平均と円の上昇がポイントになります。日経平均が上昇しても、ドル高円安になれば評価益が相殺される訳です。昨年末に日経平均が前年比7・6%上昇したのに比べ、ドル建て日経平均は同5%下落となっています。13年末153ドルに対し昨年末は145・6ドルとなっています。
 つまり昨年の海外投資家の日経平均の評価はマイナスになる訳です。これまでもドル建て日経平均は瞬間的には150ドルを超えることはあっても長期間は超えていません。
 今後もドル建て日経平均が150ドルを超えないとなると、日経平均株価とドルとの関係がポイントになります。ドル建て日経平均150ドルと想定すれば、日経平均が1万7500円の場合ドルは116・6円、同1万8000円なら120円、同1万8500円なら123・3円、同1万9000円なら126・6円の水準になります。今後はその都度の日経平均株価の上限の予測としてドルの水準を目安においてください。
 今年もNYダウの継続的な上昇が昨年同様続くと思われますが、日経平均も同様高値更新後、数回の上下を繰り返し、更なる高値に挑戦していくと思われます。その為、日経平均の高値時の売却タイミングが昨年以上に重要になります。売却シグナルとして、上記のドル建て日経平均における日経平均とドルの関係以外にも、移動平均線(過去の一定期間の株価の平均値をチャート化)とのかい離、騰落レシオ(値上がり銘柄数を値下がり銘柄数で割った比率を計算120以上で買われすぎ80以下で売られすぎの目安)、株式先物取引の裁定残高(この水準が高くなるとその後解消売りで下落する)、シカゴ先物市場での円の建玉残(ドル円相場で一方に偏るとその後逆に騰落傾向)などがあります。
 一つの例として移動平均線とのかい離では、25日線移動平均線に対し日経平均が5%かい離の場合を黄信号、10%かい離は赤信号となります。13年以降10%超かい離は13年5月22日と14年年11月14日、共にその後急反落1143円安517円安となっています。逆に下方かい離率10%超14年2月4日、その翌日から上昇となっています。
 今年も米国株とドル高を中心に、商品的には株式をメインとして、昨年以上にリスク変動の大きな相場が続くと思われますので、逆に売買の巧拙により、投資収益リターンの極大化が大いに期待できます。最後に再度相場格言を付け加えさせて頂きます。
 アメリカの著名投資家ジョン・テンプルトンの言葉です。 
《相場は悲観の中に生まれ、懐疑の中で育ち、楽観の中で成熟し、幸福感の中で消えていく》
 上昇相場の賞味期限も残り1年から2年弱との見方もあります。

 10月31日、日銀による追加緩和が実施され、日経平均は7年ぶり1万7000円台を回復、2日で1200円の上昇と東証1部売買代金も5兆円を超えました。昨年4月の量的金融緩和実施時は3日で830円の上昇に留まり今回は大幅な上昇となっています。
 追加緩和の内容は日銀による長期国債買い入れをこれまでの年間50兆円から80兆円、株式ETFを年1兆円から3兆円、JREITリートを年300億円から900億円の3倍とそれぞれ大幅に増加しています。 今回市場は追加緩和のタイミングと規模において予想していないポジティブサプライズ(驚き)の反応を示しています。
 米国が10月29日に量的金融緩和終了を宣言した後だけに衝撃的でした。サプライズは世界にも波及し、NYダウ195ドル高と9月の最高値を更新し、欧州市場でも1%から2%の上昇、アジア株も軒並み高くなっています。為替も1ドル115円台を付け、その後、116円台まで上昇しています。
 日銀が追加緩和に踏み切った背景には、家計消費が9月まで6か月連続マイナス、消費の減退から機械受注や鉱工業生産指数の停滞、原油価格の大幅下落によるデフレ脱却に不都合なリスクなどがあります。ただし今回の実施で日銀は金融政策の重要なカードを使い切ったとの感があります。
 最近の金融商品の変化として、9月以前の世界的なリスクオン相場でも商品・新興国債券・ハイイールド債・小型株の4つの資産のパフォーマンスが既に低迷しており、これは世界的な流動性のトレンドの転換を予測していると思われます。特に商品の中で原油価格は2011年以来の安値まで下落、原因は世界的な需要の減退特に中国や欧州の景気低迷によるものです。
 ドル独歩高により割高感が出たドル建て原油価格を売る動きや生産国が自国通貨安で輸出価格を下げやすくなっていることにも要因があるようです。
 通貨ではドル高が進み、世界の他国通貨の下落を招いています。特にロシアやブラジルなど新興国通貨の下落が激しくなっています。これらの国は自国通貨安により輸入インフレが進み物価が上昇、それを抑制するため金利引き上げを繰り返した結果、景気低迷を余儀なくされるという悪循環に陥っています。今後も新興国経済の悪化が問題になってきます。それ以上に経済圏の大きな欧州や中国の景気低迷も更に大きな問題点になります。
 日本も4月の消費増税後に景気低迷しています。12月上旬に判断される予定の消費再増税は今回延期されるため、更なる景気悪化は回避されましたが、今後も消費増税の影響と円安による物価上昇が個人消費を低迷させます。
 今後の世界景気において米国経済だけが好調さを持続できても、それ以外の主要国の景気が低迷する中で一定の状況が保てるのか疑問が残ります。日本と欧州の金融緩和が更に拡大する中、米国は来年半ばにはいよいよ金利引き上げが実施されようとしています。その為、ドル高とユーロ円安が更に進むと思われます。米国は景気回復により、日欧は金融緩和により、今後も株価上昇のシナリオが推測できます。しかも米国大統領選挙の前年である来年2015年は過去の経験では株価上昇が起きやすいと云われています。
 1932年から2013年の各年を4つ(大統領選年・翌年・中間選挙年・大統領選挙前年)に分けると大統領選の前年16%、中間選挙年7%の上昇率が大きくなっています。
 ここで注意点として、来年以降、米国株の上昇が続いたとしても、日経平均は昨年や今年、新高値を更新してもその後の下落も大きく、米国株のように一本調子の上昇にはならないと思われます。6年間続いた世界的な金融緩和時の金融商品は、株式・債券・リート・商品全て時期は違っても上昇してきましたが、今後米国の金融引き締めにより金融商品の騰落が徐々に明確になってきます。
 来年半ばの米国の金利引き上げ前には債券関係の商品は処分しておく事が賢明です。金利コスト増にマイナスのリート関係の商品も2番目の処分の対象になります。残る株式がポイントになります。
 為替はドル高円安になる為にドル建て商品が良いと思われます。ただし1ドル120円台からの買い付けはやめた方が良いと思われます。しかも円安が更に進んでも、円安のメリットとデメリットの差が出て、輸出に強い製造業に対し輸入インフレによる原材料費のコスト増に悩まされる非製造業の株価騰落の明暗がくっきり出るため、銘柄の選択が大事になります。また相場の変動が今年以上に激しくなるため、売買タイミングも重要になります。
 今後もしっかり経済環境の変化を把握し、投資のパフォーマンスを上げてください。今後も十分にチャンスはあります。
資産運用アドバイザー  宮 崎  英 壽

 ◆企業業績などのミクロ指標と日本経済のマクロ指標のギャップ
 
 今回8月8日の日経平均454円安大幅下落は表面的には地政学リスクである米国のイラクへの空爆と欧米からの制裁に対するロシアの報復措置である欧米からの輸入禁止が発端といわれています。
 しかしここまで年初から一度も年末の高値を更新していない日経平均が1万5750円から1000円も下落するものなのか、疑問が生じます。欧米の株式は最近まで年初から高値を更新し続け、その後上昇分を帳消しにする下落が続いていた状況に対し、最高値まで残り3・5%550円までの位置で今回の下落が一気に生じています。
 日本経済の消費増税によるマクロ指標の悪化と企業業績の好調さのミクロ指標のギャップに対し、外資のヘッジファンドが売り仕掛けを行ったと記事に出ています。
 
 ◆世界のヘッジファンドの運用とVIX指数(投資家心理の変動率)の関係

 世界的な金融緩和が先進国中心に今年も継続されている状況により、金融商品である株式・債券・リート・商品すべてが上昇し高値を維持しているために、相場の変動リスクがこれまでで最低の水準になっています。
 つまり対象商品が高値で動かない状況が長期間継続されているために、ヘッジファンドなどの相場の変動をとらえる運用手法が悪化している現状があります。 このまま変動のない相場で年末を迎えるとヘッジファンドは運用悪化により資金引き揚げを余儀なくされます。

 ◆年金基金の株式運用比率引き上げ
 アベノミクスが正念場を迎えています。もっとも重要な政策の一つに株価の上昇を考えている安倍政権にとって今年の前半からの相場は期待倒れといっても過言ではありません。特に今回の下落は見過ごすことはできないために、9月からの株式運用基準の20%までの引き上げ前に株式と債券の上限と下限をあえて撤廃する方針を決定しました(日経8月10日)。その後株式は急反発しています。

 ◆日経平均と企業業績の関係

 日経平均は年初から下落し、高値から14%下落した水準1万4000円台を何回(2月3月4月5月)もつけています。最近の高値1万5750円でも年末の高値から3・5%安い水準ですが、東証1部の小型株や中型株指数、日経ジャスダック指数、JPX日経400は高値を更新しています。これらの指数が高い理由は企業業績の好調さが背景にあります。逆に日経平均が安い水準の背景には円高との関係があります。ドル円も年末105円30銭に対し、現在102円と3・1%の円高水準にあります。

 ◆今後の相場見通し

 今後の株式相場を占うポイントの一つに米国の大統領選挙があります。少し先ですが2016年の大統領選挙後に相場の変化が訪れる可能性が高いと予想されます。
 オバマ大統領一期目2009年は国内企業再生のため輸出倍増政策によりドル安、その後2期目2013年からは米国景気回復とシエール革命によりドル高政策を取り、米国への投資を促すためにもドル高政策に変化し、それが2016年まで続くと予測されます。 今後も米国景気回復に伴って株式やドルが上下を繰り返しながらも上昇、金利も徐々に引き上げられると予想されます。今後もリスクオンの相場は続きますが、2016年のある時期にはこの状況が一変すると思われます。
 投資家の皆さんは、その後は下落が予想されるために、次の商品としてドル安円高により海外から国内へ、景気後退により株式から債券の切り替えが必要となります。

 ◆日本株と欧米株の特徴
 
 今後、欧米株は下落水準が少なく上昇するのに対し、日本株はこの2年間同様大きな下落後に上昇し、それを繰り返す相場が今後も続きます。そのため日本株は上昇時は売却し、その後の下落で安くなった水準で買い付けるボックス売買がポイントになります。

資産管理アドバイザー 宮崎英壽

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