女の落書帖

落書き帳などというものを書いているので、私は物見高い人となってしまった。どこかに話のタネが落ちていないだろうか。きょうも行き会った人たちをそれとなく観察していた。
すると、「女の私の出る幕じゃない」という声が聞こえてきた。私はすかさず聞き耳を立てたが、その先は聞こえない。七十代ぐらいの女性の二人連れはいったい何の話をしていたのだろう。
私の辞書に、「女の私の出る幕じゃない」という言葉はない。「女だてらに」「身の程も知らず」いつの間にかしゃしゃり出てしまう私である。
私に限らず、たいていの女性は、「女の私の出る幕じゃない」とは言わないだろう。女性たちは、男女平等、機会均等と教えられて育ってきた。
確かにそれは社会の建前で、男女平等、機会均等ではない場面にも再々出くわした。でも、正面から「女はダメだ」と言われたことはなかった。若い人なら、なおさらそうだろう。
もしかしたら、「女の私の出る幕じゃない」発言には、別の狙いがあったかもしれない。たとえば、卑下して見せて相手を安心させるとか、至らないと非難されないように予防線を張るとか。人間関係を円滑にするために、そういったテクニックを使う場合がないこともない。
彼女たちはいったい何の話をしていたのだろう。とても気になる。
(舞)

メンデルの遺伝の法則を学んだのは高校生物の時間だった。緑の豆と黄色の豆、丸い豆とシワの豆を掛け合わせると、優性遺伝子の特徴を持つ豆が、一世代目にはすべて、二世代目には四分の三の割合で出現する。何代もえんどう豆を育ててそれぞれの出現率を調べたメンデルの研究を、私はとても面白いと思った。
人の血液型もその法則に従っている。A型B型が優性、O型が劣性。A型の人にも、AA、AO、B型にもBB、BOの型があり、AOとBOが親なら四分の一の確率でO型の子が生まれる。
他にも、くせ毛と直毛、二重瞼と一重、乾いた耳垢と湿った耳垢、耳たぶの形など、自分の中の遺伝形質を探してみた。私のまつ毛が短いのも遺伝の法則に従っている。
メンデルは百五十年も前の人。研究成果はすぐには認められなかったそうだが、後に続く研究者が出てきて、メンデルも広く知られるようになった。日本に伝えられたのもその頃だろう。
日本遺伝学会は、百年もの間遺伝学で使われてきた「優性」「劣性」「突然変異」「色盲」などの言葉を、それぞれ「顕性」「潜性」「変異」「色覚多様性」に改めたそうだ。その方が正確に意味を表しているからだという。
私たちが学んだ言葉は消える。優性も突然変異も科学の言葉というより一般的に使う言葉となっているのに、困ってしまう。新しく覚えなくては。 (舞)

アサギマダラという蝶がいる。名前の通り、羽の浅葱色(薄青色)が印象的な大型の蝶だ。美杉で見ることができると数年前に知ったのだが、今年初めて見に行くことができた。
アサギマダラはフジバカマなどキク科の花の蜜を好む。美杉町太郎生の人たちが世話をするフジバカマ畑で花が咲くと、アサギマダラがやってくるのだ。
晴天のその日、畑のフジバカマは一面に薄ピンクの花を咲かせていた。畑の中の散策路を行くと桜餅のような香りがした。アサギマダラは花の上を優雅に舞い、花に降りて蜜を吸った。
この蝶は渡りをすることが知られており、各地でマーキング活動が行われている。捕獲した蝶の羽に印をつけて放し、その蝶を発見した地点を記録する。その活動の結果、北海道から山口まで、福島から沖縄までなど、千キロメートルを軽く超えて移動していることが判明した。なんと台湾まで飛んだ蝶もいるそうだ。華奢な羽でどのように海を渡るのだろう。
蝶の成虫である期間は四五ヶ月。フジバカマ畑に滞在する日もあるだろうし、一日一キロメートルも移動する計算になる。海を渡る先の島の位置を知っていることも不思議。小さな体で途方もない冒険をしている。
太郎生のフジバカマは今月末ぐらいまで咲くらしい。冒険の旅の途中の蝶を見てやってほしい。    (舞)

[ 1 / 42 ページ ]12345...102030...Last »