女の落書帖

 このところ公共交通機関を使わないようにしていたのに、たまに乗った電車で珍しい経験をした。駅でもないのに電車が止まり放送が入った。「踏切内に車が立ち往生しているので停車しました。現在確認をしています」
 どんな状況かと私は窓ガラスに頬を押し付けたが、踏切の様子は見えない。赤いランプがぐるぐる回転している。あれは緊急信号だろうか。
 留まること五分ほどで新たな放送が入り、電車が動き出した。トラブルは解消したらしい。赤いランプの回転も消えた。こんな理由で列車が止まる経験は初めてだ。事故にならなくてよかった。
 昔々、私が高校生となって電車で通学し始めた時に父が言った。「絶対に先頭車両に乗ってはいけない。後ろより事故の可能性が高い」思春期の娘は素直ではなくて、その指示を守ったこともあったが、無視したことも多かった。でも、列車に乗るといつもその言葉が頭に浮かんだ。今でも思い出す。
 そういえば、福知山線の脱線事故でも前の方の車両の被害が大きかった。踏切で立ち往生した車に一両目が突っ込むことがあるかもしれない。父の言葉は娘を守るものだった。
 通勤通学で毎日乗るなら、先頭車両は避けた方が賢明だ。それが運を分けるかもしれない。事故などめったに起こらないだろうが、家族に伝えておかなくては。    (舞)

 サウナ室に座るときは、上段が好きだ。せっかくの熱い空気を楽しみたい。おしゃべりは禁止だから、みんなで並んで汗が出るまでじっと耐える。
 そうしてうつむいていたら、並んでいる足に目が留まった。足の形がそれぞれ違う。親ゆびが一番長くて斜めにゆびが並ぶ人、二番目が長くて山形になっている人。足の幅、甲の高さもそれぞれ違う。当たり前だが足にも個性がある。白くて細くて華奢な足に憧れる。
 もしかしたら外反母趾かもという形の足も並んでいた。私のまわりの女性にも外反母趾は多い。若い頃からハイヒールをよく履いていた人は足に無理をさせてきた。それが外反母趾の原因の一つだろう。
 だいたいハイヒールなんてものは不自然極まりない履物だ。体重が爪先にかかる上に、靴の先端が細いデザインが多い。細いヒールは不安定でちょっとした凸凹でぐらついてしまう。デートで履けば男ウケするかもしれないが、仕事はスニーカーが良い。今ならスニーカーパンプスもある。
 高齢になると足はますます大事になる。痛くて歩けない足になると、外出する気力がなくなり、筋肉も減る。その先はフレイルで、またその先は……。
 サウナ室に並ぶ足を見ながら、どの足が丈夫で長持ちだろうとこっそり見比べた。細いよりどっしりが良さそうだ。足こそ見栄えより機能だ。  (舞)

三重大学の近くの赤信号で車を止めていたら、バタバタとヘリコプターの大きな音が聞こえた。白地に赤のヘリコプターが頭上を過ぎ、大学病院の方へ飛んでいった。ドクターヘリだ。
ドクターヘリという言葉を知ったのはアメリカのテレビドラマだったろうか。救急の医師や看護師がヘリコプターで患者のもとへ駆けつける緊急救命の最前線である。
病院の方に目をやると、白い建物に緑色の文字が鮮やかだ。あそこで亡くなった友人がいる。人がいつか去っていくのは当たり前のことだけれど、救える命なら救ってほしい。それが見知らぬ人であっても。
さっき飛んでいったヘリコプターにも命の危機にある患者さんが乗っていただろうか。救命できるうちに病院に着いたかと気になった。
ヘリコプターは速い。道路状況の影響を受けないし、救急車よりずっと速い。三重県の端までも何十分かで到着し、患者さんを治療しつつ病院に搬送できるという。素早く手当を受けられるところが心強い。
機器でいっぱいの機内には、きっと志高くてカッコいい医師や看護師が乗っているだろう。どんなことが行われているだろうかと想像する。それは私の中でドラマになってしまうが、現実に命に係わる責任感と重圧は生半可なものではないと思う。乗務の方々を尊敬するばかりだ(舞)

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