女の落書帖

三日前から、歯に異常を感じている。ものを噛むと右下の奥歯が痛い。数年前に歯科医からインプラントに取り替えることを勧められた歯だ。何とかするべきだろうが、仕事が忙しくて休めない。
いや、本当は歯科医院へ行きたくないのが一番の理由だ。あの椅子に寝て大口を開けるのも、歯をガリガリギーンと削られるのも大嫌いだ。
とりあえず、しばらくこのままでやり過ごすことにした。硬いものは慎重に口に入れる。なるべく右側で噛まないようにする。味より何より、噛むことに意識が行く。気を付けることが多くて、食事に時間がかかってしまう。
こういう状況になると、この間までいかにのん気に暮らしていたのかと思う。とにかくこの歯の異常が治まってくれればどんなに楽だろう。
自分らしい生活を問題なく送れるだけで、人は十分幸せである。昨日と同じ日が続くなら、それは大きな幸せである。
食べるとか、寝るとか、歩くとか、跳ぶとか、当然のようにできたことに、不具合が起こる日が突然来る。歯に不具合が起こって、私ははじめて今までの幸せを知ることになった。
歯の痛みが消えたら、代わり映えしない日常に文句を言わず、他人をねたまず、日々感謝して過ごしたいと思っている。今までの生き方を反省しつつ。  (舞)

健康情報が気になる年頃となった。血液サラサラ、アンチエンジング、免疫力アップなど心引かれる文言があると、手当たり次第に情報を取り入れてしまう。
健康に役立つならば、実行しようと思うけれども、面倒なものは続かない。インターバル速歩も、スクワットも、踏み台昇降も三日と続かなかった。
その点、食事の改善は幾分容易い。動物性脂肪を減らすこと、ビタミン、ミネラルに気を配ること、食物繊維も蛋白質も大事だ。サプリメントで簡単にという手もあるが、なるべく普段の食事の中で、体に良いものを摂っていこうと思っている。
このところ、私が毎日食べているのは、納豆とヨーグルトとアーモンド。ビタミンK、カルシウム、ビタミンE。動脈硬化や骨粗鬆症や老化の予防に役立ちそうなものを、効果的に摂取したい。
食べ方も重要なファクターとなる。近年、栄養学は「何をどれだけ食べるか」から、「いつ何をどのような順番どのような速さで食べるか」と、体内時計を意識した時間栄養学に進化している。
朝食をしっかり食べること。夕食から朝食までの時間を長くすること。野菜を先に食べ、糖質は控えめに、ゆっくりと。
腹八分目に医者いらず。時間栄養学の観点でも、基本は同じである。体は食べたものでできている。健康は食べるもので維持される。  (舞)

車で通った道路脇に、「みかん詰め放題」の文字があった。ちょうどみかんも切れているし、スーパーじゃない場所で買うのも面白いかと立ち寄った。
「詰め放題五百円」と書かれた平台には、小ぶりのみかんが山と積まれていた。用意された袋はいかにも小さいが、上手に詰めればそこそこ入るだろう。ぎゅうぎゅう詰めてもそうでなくとも、違いは数個と思われた。
それでも自ずと張り切ってしまう。袋を伸ばすという卑怯な手段は取らない。いかに効率よく詰めるかと考える。やみくもに詰めてはいけない。同じ向きに並べるか、それとも隙間を狙って満たしていくか、いろいろ考える。
みかんを手に取ると硬さの違いにも気付いた。美味しさや新鮮さは、みかんの硬度や形状に表れているだろうか。表面の艶や傷は味に関係があるだろうか。いろいろ考えてみることが楽しい。
こういうふうに観察したり、仮説を立てたり、検証したりするのは、まさしく科学的探求の手法である。重ねて言うが、一個二個にこだわっているのではない。探求が面白いのだ。
傍では夫が、「いい加減にしろよ」という目で眺めている。きっと「ケチくさい」などと思っているのだろう。長く連れ添ってもお互いへの理解が足りないのが、夫婦である。     (舞)

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