女の落書帖

 長く使っていない鏡台の引き出しを開けてみたら、古いものが続々と出てきた。木彫りのペンダント、ブローチ、カフスボタン、写真。
 外国土産の香水、オーデコロン。使わないなら人にあげてしまえばよいものを、少しだけ使ってそのままにある。練り香水の「琴」。もう何十年も前に自分で買った。好きな香りで、半分ほども使ってある。練り香水は揮発しないのだろう。今付けてみても昔と同じ懐かしい香りがする。
 香りとともに、独身時代の記憶がよみがえってきた。おしゃれをした日は、耳の後ろに少しだけ練り香水を付けた。頭を動かす度に香りが立って楽しくなったものだ。もう同じ製品はないだろうと調べてみたら、同シリーズのオーデコロンが今でも販売されている。 使いかけのアイシャドウがいくつか。緑系、青系、グレー系。その時代の流行の色を買ったものの、使い切ることができず、捨てることもせず。 マスカラも数本。いったいマスカラの使い終わりはいつだろう。まつ毛が濃くならないと思って新しいものの封を開けるが、まだしばらく使えるような気もする。パウダーを使い切るのも難しい。底が見えても周囲に残っている。きっぱりと捨てられない。
 私が貧乏性なのか、だらしないのか。誰でもそうなのか。鏡台の引き出しにはあまり見たくないものが雑多に入っている。        (舞)

 ナビが「まもなく右方向です」と言ったので、右折レーンに入った。前もって右や左と教えてくれるからナビは素晴らしい。そう言えば、苦手だったと思いだした。
 実は車の免許をとるまで、右と左の区別が苦手だった。間違えはしなかったけれど、とっさの判断に迷った。右はお箸を持つ方と、ひそかに指を動かしていた私である。
 それが自動車学校でキープレフトを習ったら、しっかり会得。右と左は漢字も似ている。ライトレフトと言ったのが良かったかもしれない。ようやっと子どもの頃の苦手意識から解放されたというわけだ。
 子供にとって、右と左の区別は難しい。東西南北のように固定しているわけではない。向きを変えたり、鏡に映った自分を見たりすると分からなくなってしまう。その上先生は、「右手を挙げて」と言いながら、自身の左手を挙げたりするので、先生と向き合っているから反対と考えていると混乱する。
 この間、友人がひとりじゃんけんを誇示してきた。左右の手で勝負し、いつも右手が勝つ。両手同じに動こうとするのを、私も練習してグーチョキパーと同じ順序で繰り返してならできるようになった。今は右でランダムな手を出し、左でそれに負ける手を出すことに挑戦中である。頭は一つ手は右と左の二つ。区別はできても使い分けは至難の業である。 (舞)

  朝、一度目が覚めたのに、それからまた寝入ってしまった。まどろむうちに、夢を見た。 私は脚本家だった。パソコンに向かってドラマの脚本を書いている。気に入らなくて、書いては消し、書いては消しを繰り返し。
 ドラマのヒロインは二十代の独身女性。友人の夫と危うい関係にある。ドラマは二人が恋に落ちるあれやこれやで始まる。ドロドロになりそうな予感。
 ヒロインとなる女優も出てきた。どこかで見たような美人だが、誰かは分からない。友人役は気立ての良さそうな美人。友人の夫役は後ろ姿しか見えないがかっこいい。まるで、韓流ドラマのような美形揃いだ。
 いったいこの夢は私の頭のどこから来たものか。夢診断やら夢占いやらを探してみたが、ドラマや女優が何を表わすのか分からない。ただ、自分を見る、書くのに苦しむ自分を見るというのは、何か厳しい状況であるらしい。
 私には悩みごとがあって、それが夢として現れたのだろうか。自分自身で分からない悩みなど、無視するよりほかはないけれど。
 それよりも、未だに目覚まし時計が必要なことと、もう一度寝入ってしまうことが問題だ。もうずいぶん前から、寝付きが悪く、寝起きが悪い。脚本を書くのに苦しむ夢は、起きるのが嫌で見たのかもしれない。 (舞)

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