女の落書帖

 カキのおいしい季節である。カキフライもカキ鍋もおいしいけれど、レモンをキュッと絞った生ガキが一番だと思う。
 生ガキにレモンという食べ方を知ったのは、パリを舞台にした小説の中。レマルクだったかモーパッサンだったかの小説に、島のレストランへカキを食べに行くという場面があった。
 今のようにパリの地図を簡単に見られる時代でもなく、どうしてパリに島があるのか、その島のレストランがにぎわうのかが、不思議だった。島とはセーヌ川の中州のことで、パリの中心であるとは、ずっと後になって知ったことである。
 小説の中身はすっかり忘れたのに、レモンと生ガキが鮮明に記憶にある。そして、フランス人のようにカキを食べてみれば、美味しかったというわけだ。
 新鮮生食用カキが手に入れば、左手に軍手、右手にカキナイフで、カキ剥きをする。ただ、上手になる頃にはカキがなくなるので、次の機会にはまたカキ剥きが下手になっているのが残念だ。
 カキを生で食べるなら、体調の良い時に。カキは食当たりしやすい食品だから、注意が必要である。産地は的矢、浦村など。三重県には厳しい衛生基準のみえのカキ安心システムがある。三月初旬には「浦村牡蠣の国まつり」が開催される。カキ詰め放題をして焼きガキを存分に食べてこようかと思っている。(舞)

 長く使っていない鏡台の引き出しを開けてみたら、古いものが続々と出てきた。木彫りのペンダント、ブローチ、カフスボタン、写真。
 外国土産の香水、オーデコロン。使わないなら人にあげてしまえばよいものを、少しだけ使ってそのままにある。練り香水の「琴」。もう何十年も前に自分で買った。好きな香りで、半分ほども使ってある。練り香水は揮発しないのだろう。今付けてみても昔と同じ懐かしい香りがする。
 香りとともに、独身時代の記憶がよみがえってきた。おしゃれをした日は、耳の後ろに少しだけ練り香水を付けた。頭を動かす度に香りが立って楽しくなったものだ。もう同じ製品はないだろうと調べてみたら、同シリーズのオーデコロンが今でも販売されている。 使いかけのアイシャドウがいくつか。緑系、青系、グレー系。その時代の流行の色を買ったものの、使い切ることができず、捨てることもせず。 マスカラも数本。いったいマスカラの使い終わりはいつだろう。まつ毛が濃くならないと思って新しいものの封を開けるが、まだしばらく使えるような気もする。パウダーを使い切るのも難しい。底が見えても周囲に残っている。きっぱりと捨てられない。
 私が貧乏性なのか、だらしないのか。誰でもそうなのか。鏡台の引き出しにはあまり見たくないものが雑多に入っている。        (舞)

 ナビが「まもなく右方向です」と言ったので、右折レーンに入った。前もって右や左と教えてくれるからナビは素晴らしい。そう言えば、苦手だったと思いだした。
 実は車の免許をとるまで、右と左の区別が苦手だった。間違えはしなかったけれど、とっさの判断に迷った。右はお箸を持つ方と、ひそかに指を動かしていた私である。
 それが自動車学校でキープレフトを習ったら、しっかり会得。右と左は漢字も似ている。ライトレフトと言ったのが良かったかもしれない。ようやっと子どもの頃の苦手意識から解放されたというわけだ。
 子供にとって、右と左の区別は難しい。東西南北のように固定しているわけではない。向きを変えたり、鏡に映った自分を見たりすると分からなくなってしまう。その上先生は、「右手を挙げて」と言いながら、自身の左手を挙げたりするので、先生と向き合っているから反対と考えていると混乱する。
 この間、友人がひとりじゃんけんを誇示してきた。左右の手で勝負し、いつも右手が勝つ。両手同じに動こうとするのを、私も練習してグーチョキパーと同じ順序で繰り返してならできるようになった。今は右でランダムな手を出し、左でそれに負ける手を出すことに挑戦中である。頭は一つ手は右と左の二つ。区別はできても使い分けは至難の業である。 (舞)

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