女の落書帖

 外気温が低くて人々はまだ厚いコート姿だが、ショッピングセンターはもう春色。パステルカラーや生成りが溢れていた。でも春もの衣料を買うには早すぎる。
 そんな時に館内アナウンスが入った。「下着売り場で二時からタイムバーゲンを行ないます」それじゃ行ってみなくてはと思うのが消費者心理である。
 売り場通路にはパジャマのラックや下着のワゴンが出されていた。「今から三十分間、ついているお値段の半額となります」呼び込みの店員さんが大声を出した。
 商品はすべて冬もの。在庫整理のためのバーゲンセールであるらしい。すでに値下げされた価格の半額だから、ウソみたいな安さだが、買ったところで冬はじきに終わる。家に帰れば、タンスの中に十分すぎる量の衣服がある。でも、下着なら来年用に置いておいてもよいのではないか。
 実はセール会場に足を運んだ時点で、買うつもりなのである。周囲の人の熱気に引きずられる。同じように買わねば負けだという気持ちになる。私はバーゲン心理に容易く流され、パジャマ二着を抱えてレジに行くことになった。
 高揚感とささやかな達成感、自己肯定感。「よくやったね。賢い買い物ができた」まるでスポーツでもした後のように、気持ちが軽くなる。ストレスが消えていく。バーゲンの効用である。 (舞)

 カキのおいしい季節である。カキフライもカキ鍋もおいしいけれど、レモンをキュッと絞った生ガキが一番だと思う。
 生ガキにレモンという食べ方を知ったのは、パリを舞台にした小説の中。レマルクだったかモーパッサンだったかの小説に、島のレストランへカキを食べに行くという場面があった。
 今のようにパリの地図を簡単に見られる時代でもなく、どうしてパリに島があるのか、その島のレストランがにぎわうのかが、不思議だった。島とはセーヌ川の中州のことで、パリの中心であるとは、ずっと後になって知ったことである。
 小説の中身はすっかり忘れたのに、レモンと生ガキが鮮明に記憶にある。そして、フランス人のようにカキを食べてみれば、美味しかったというわけだ。
 新鮮生食用カキが手に入れば、左手に軍手、右手にカキナイフで、カキ剥きをする。ただ、上手になる頃にはカキがなくなるので、次の機会にはまたカキ剥きが下手になっているのが残念だ。
 カキを生で食べるなら、体調の良い時に。カキは食当たりしやすい食品だから、注意が必要である。産地は的矢、浦村など。三重県には厳しい衛生基準のみえのカキ安心システムがある。三月初旬には「浦村牡蠣の国まつり」が開催される。カキ詰め放題をして焼きガキを存分に食べてこようかと思っている。(舞)

 長く使っていない鏡台の引き出しを開けてみたら、古いものが続々と出てきた。木彫りのペンダント、ブローチ、カフスボタン、写真。
 外国土産の香水、オーデコロン。使わないなら人にあげてしまえばよいものを、少しだけ使ってそのままにある。練り香水の「琴」。もう何十年も前に自分で買った。好きな香りで、半分ほども使ってある。練り香水は揮発しないのだろう。今付けてみても昔と同じ懐かしい香りがする。
 香りとともに、独身時代の記憶がよみがえってきた。おしゃれをした日は、耳の後ろに少しだけ練り香水を付けた。頭を動かす度に香りが立って楽しくなったものだ。もう同じ製品はないだろうと調べてみたら、同シリーズのオーデコロンが今でも販売されている。 使いかけのアイシャドウがいくつか。緑系、青系、グレー系。その時代の流行の色を買ったものの、使い切ることができず、捨てることもせず。 マスカラも数本。いったいマスカラの使い終わりはいつだろう。まつ毛が濃くならないと思って新しいものの封を開けるが、まだしばらく使えるような気もする。パウダーを使い切るのも難しい。底が見えても周囲に残っている。きっぱりと捨てられない。
 私が貧乏性なのか、だらしないのか。誰でもそうなのか。鏡台の引き出しにはあまり見たくないものが雑多に入っている。        (舞)

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