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発達障害のリアルを当事者・専門家らが語る対談連載。発達障害は、生まれつき脳の発達が通常と違うために幼いうちから現れる様々な症状。出生率は数十人に一人と言われる。前回に続き、発達障害者の言葉・コミュニケーション能力の支援を当事者の母・亀田佳子さん、特別支援学校教諭の石井幸仁さんが語る(敬称略)。
亀田 息子の知的レベルから考えて、小学校時代は当初、学校や家での一日の流れすら意味理解していなかったと思います。コミュニケーションを学ぶ前に、学校に行く意義を分からなきゃいけないから、朝の会などの絵や、全ての教科書の写真を用意し、先生にお願いして毎日、時間割に合わせ教室内に提示してもらいました。家でも、登校前や下校後の予定を毎日、視覚的に伝え続けました。各活動の「終わり」が分かることで、一日の流れも分かっていくのではと考えたからです。
その結果、息子は一日の流れがあるということを、徐々に、なんとなく理解したようです。
石井 適切なコミュニケーションの積み重ねによる効果ですね。
亀田 そうですね。そうやって幼い息子は、身の周りの、訳の分からないことだらけだった世界のことを徐々に理解し、絵カード・写真・筆談で意思を伝えようとするようになりました。
当時はそれで癇癪の回数が減り落ち着いてきたのですが、成長するにつれ語彙が増え、感情も複雑化して、言いたいことが増えています。表現するための写真などを増やしているのですが、数が多すぎて追いつかない。そのため私と息子の間で意思疎通ができないということが日々起きて、葛藤があります。
石井 子供がこれをしたいという願いを伝えてきたときに、いつ叶えられるか見通しを伝えず、「今はだめ」などと否定するだけだと、子供は不安になり確認行動に走る。例えばジュースが飲みたいのにいつ飲めるのか分からないと、「ジュース!」と連呼したりします。
私が以前小学部で担任したある児童は、言葉を話せるんですが当初は全く自分の意思を伝えず、授業にも参加せず走り回っていました。しかし「PECS」を活用し見通しを示して指導したところ、1時間の授業の中で目的を持ち、終了時間まで参加できるようになりました。そして集中し参加できる授業が増えて、最終的には、3週間後の卒業式で好きなDVDを観るのを目標にして3週間も頑張ることができたんです。このとき「子供は、良き見通しがあり、学習を積み重ねることができて、安心感があれば頑張れるんだ」と実感しました。
亀田 私も、肯定的に話すことを心がけています。子供の問題行動には、きっと理由がある。例えば延々と手を洗っていて、理由は石鹸を使い切ってしまいたいからとか。だったら石鹸を小さくしてあげたら済みますよね。子供の言動の理由を色々な視点で考えて安心させてあげることは全部、親と子供のコミュニケーションになります。
発達障害などの障害がある子や、障害の程度が重い子も、上手く表出できないだけで色んなことを考えたり思っていることを皆さんに知ってほしい。障害がある子も、自分に合うツールを使えばコミュニケーションできる能力はきっと持っていると、私は考えています。
(第3回終わり)
2020年1月9日 AM 4:55
発達障害のリアルを当事者・専門家らが語る対談連載。発達障害は、生まれつき脳の発達が通常と違うために幼いうちから現れる様々な症状。出生率は数十人に一人と言われる。今回は、発達障害者の言葉・コミュニケーション能力の支援について、当事者の母・亀田佳子さん、特別支援学校教諭の石井幸仁さんが語る(敬称略)。
亀田 私の息子は現在26歳、手帳では最重度判定の重度の知的障害をもつ自閉症(発達障害の一種)です。2歳のとき発語がないため相談に行って、療育を受け始めましたが本人の状態は変わらず、悩みました。
なんとか息子とコミュニケーションをしたいと思い、自閉症の子などを対象とする「TEACCH(ティーチ)プログラム」の勉強会に参加し、重度の自閉症の子がタオルを振り回しながらも、お母さんに「お茶下さい」と絵カードで伝えているビデオを見て、希望の光だと思って、コミュニケーションの方法は言語以外にもあると気づいたんです。
子供のころは「超多動」で、裸足で家から脱走することが多く、脱走中に交通事故に遭ったこともあり、自宅を建てたときには塀を高くしたんですが、簡単に上って外に出てしまいました。
そこで、息子が行きたい場所や今まで行った場所を全て写真に撮り、出掛けるときは事前に息子に「今日はここに行きます」と写真を見せて行き先を伝えるようにしたら、黙って家を出て行くことがなくなりました。
そのうち、息子のほうからここに行きたいとアクションするようになり、息子とのコミュニケーションでは、本人が目で見て理解することが大事だと分かりました。
また息子は茄子が好きなので、私は息子が小さい頃から茄子の絵カードを作って「これは茄子」と伝えていたら、本人はあまり絵を描けないんですが、ある日、茄子を描いて自分から「茄子」と伝えてきたんです!さらに、写真と文字を一緒にしたカードをコミュニケーションに使うことで、息子が伝えてくる言葉が増えました。
小学校1年生で特別支援学級に入った際には、担任の先生にも「息子はあいうえお表に興味がなく、今までの経験上、いくら一生懸命教えても覚えないから、息子が興味のある食べ物を学習に活用して下さい」とお願いしました。そしたら運動会では、先生がゴールで茄子の模型を掲げて「茄子だよ~!」と言ってくれて、息子はそれに向かって走っていきました。
石井 自閉症の子供にとって「走る」って中々目的を持って取り組みにくいですし、行事という普段と違う状況だったり、ギャラリーがいたりすると一層難しい。そんな中で、先生は、ゴールで茄子を持つことで走ったら嬉しいことが待っているというセッティングをして、モチベーション(動機)を作ってくれたんですね。その考えはすごく大事だと思います。
私は、動機付けを重視しています。授業で知識を得たり、将来役立てたりすることも大切ですが、何のためにこの学習をやっているのかという目的を明確にして、その授業時間内に達成し、子供自身が頑張って良かったと思えることが必要だと思います。
亀田 そうですね。当時、周りのお母さんの中には課題をやったから欲しいものをもらえるという風には教えたくないと考える人もいましたが、子供が将来仕事をしてお金をもらうということを考えると、頑張ったから何かもらえるのは良い経験になると思います。
石井 私は今、中学部2年生を担任していますが、学年が上がり卒業が近づくにつれ、「将来のために」「働くために」と先生目線の目標が増えてくるんですよ。それで意欲が持てる子なら良いのですが、意味がわからないまま過ごしている子もいるので、一人一人に分かる支援は必要だと思います。文科省が掲げる「主体的・対話的で深い学び」には、子供の夢・願いを踏まえて必要なスキルを指導することが大切だと考えています。
例えば作業学習という授業で、何のために、何を、どのくらいすれば良いのか、見通しを提示しないまま手先が不器用な子供たちに作業をさせているケースがあります。 私は、作業自体にモチベーションを持ちにくい子たちのために「PECS」の「視覚的強化システム」を導入しました。
このシステムは「何かの課題を頑張ったら、ごほうびが手に入る」ということを視覚的に示すもので、子供が課題を達成する毎にトークンと呼ばれる黒い丸をボードに貼り、トークンが貯まればごほうびと交換します。
毎回の授業の最初に、課題を頑張ったらその授業の終わりに得られるごほうびを本人が選ぶんですが、中学部の子でも「選択する」ということを学習していないため、初めは選べないんです。
そこで、年度初めに子供の好みのリサーチもしてごほうびを沢山用意し、選択することも指導。すると、子供が自ら選び、何を選んだか先生に伝えるようになります。初期は子供が選んだものを採用しますが、その後、今日はこっちのごほうびでお願いねと言うことで、交渉することの学習にもなります。このやりとりを学ぶことで社会性が飛躍的に高まります。
亀田 そういう風にして、先生が頑張ったねと褒めてくれたり、課題ができたなど良いことがあったときに先生が傍にいてくれることにより子供に安心感が生まれると、コミュニケーションもスムーズになっていくと思います。 (次回に続く)
2019年12月31日 AM 4:55
発達障害のリアルを当事者・専門家らが語る対談連載。発達障害は、生まれつき脳の発達が通常と違うために幼いうちから現れる様々な症状。出生率は数十人に一人と言われる。前回に続き、発達障害者の就労について当事者の母・山根一枝さん、飯田あゆみさんが語る(敬称略)。
山根 息子の政人は、障害者雇用において重度知的障害者に該当します。事業主は障害者の法定雇用率を下回った場合、不足した人数一人あたり月額5万円を納付する義務がありますが、重度障害者は1人で2人とカウントされるため雇用すると10万円分節約できて、事業主にはメリットがあります。でも社員にはありません。
社員は、障害者が同じチームで働いているとノルマ達成が遅れるなど困ることもあると思う。だから、重度障害者を雇用した場合、節約できた分の10万円を事業主がチームの皆に「彼に配慮することへの手当」として支給すれば、合理的だし、社内の受け入れ態勢が整いやすくなって雇用が進むと思います。
職場は働いてお金をもらうところ。周りの社員だって大変な思いをして仕事をしているんだから、自分の家族に対するような多大な優しさを求めても無理ですよ。
飯田 そういう風にすると、今のように当たらず障らずではなくて、「私達のチームで一緒に仕事しようよ」と思ってもらえるかもしれませんね。
飯田 私の息子は就労継続支援A型事業所に就職を決める前、その事業所で実習をしました。そこでは周りの方にこの子に仕事を覚えてもらいたいという意識があり、仕事のマナーとその根拠も詳しく教えてくれたので、すごく納得できたようです。失敗しても改善策を一から教えてもらえて、それが志望理由の一つだと思います。
山根 一方、大手企業の障害者雇用では、下請けに出向となり、出向先自体は小さい会社で社員が少なく障害者雇用の義務はないため、ウェルカムじゃないというケースが多いんです。息子もそういう状況で、居づらいながらも生活費のためにも我慢して働いていたんですが、3年目に職場の人とのコミュニケーションをとりたくなったみたい。でも話し方が不器用で、例えば同僚の名前を出して「誰々さんはインフルエンザにかかってしまいました」と冗談のつもりで言うんです。そこでそんなことないよとツッコんでくれる人がいれば本人も満足なんだけど、皆がひいてしまう。
飯田 それが政人さんの良いところなのに。
山根 そうやって本人を理解し、周りとの橋渡しをしてくれる人が職場に一人いれば良いんですけどね。障害者の雇用や職場定着には、本人を徹底的に研究して適性を見極めることや、昼休みなど勤務時間以外の職場環境も重要だと思います。
飯田 好きなことじゃないと続かないというのは誰でも同じだけど、障害者雇用では、本人の長所を仕事に生かそうという姿勢があまり見られません。発達障害のある人を雇用し、適性を考えずにこの会社に入ったんだからこれとあれをやってと指示しても無理で、適性に合う一種類の仕事をこなせたら良いと思うんです。例えば、集中して黙々と作業するのが得意で、清掃の仕事に向いている子もいます。
だから、多くの企業が求める人材像を明確にしたうえで、特別支援学校と直接交流して生徒を対象に採用活動をしてくれるようになれば。それが本当の障害者雇用率アップに繋がると思います。
(第2回終わり)
2019年12月12日 AM 4:55