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女房や娘に不思議がられるくらいぼくは毎朝快便なのだが、これが旅行に出るとまず確実に便秘になる。原因は生活のリズムが狂うことにあるのだと思うが、そもそも旅行は非日常なのだから如何ともしがたい。遍路旅もやっぱり便秘に悩まされた。体力保持のため毎日しっかり食べ殆ど毎晩おいしくビールも頂いているのに3日に一度くらいしか出ない。元々便秘癖のある女房より少ないくらいである。それが前日のへんろ転がしと山上の厳しい寒さの後遺症か、8日目の途中で突然一変した。
この日、3月8日はいよいよ22番平等寺(阿南市新野町)と23番薬王寺(美波町)、阿波徳島最後の2カ寺を回り『発心の道場』を打ち終える。また1日の歩行距離も、平等寺から海ルートを選び、初めて30キロを超える記念すべき日で、距離を考え6時46分に坂口屋をたった。
雨は上がったものの、空にはべったりと灰色の雲。そしてまたまた寒い。県道を下り、国道との合流地点付近から遍路道で大根峠を越えて平等寺に向かうつもりが、数十m先を闊歩する50前後の男性について行ったら何の躊躇もなくそのまま国道を進む。しばらく経ってから遍路道の入口をとっくに通り過ぎていることに気づいたが、後の祭り。結局2キロ以上も大回りし事前計画で最長の10日目と同じ32・6キロを歩く破目になってしまった。
平等寺の手前で独り旅の東京の男子学生に追い越された。さすがに若い子は元気である。彼も「大根峠への入口が分からなかった」とロスト組だった。
平等寺から県道284号に入り暫く行くと斜面にすっくと伸びた竹竹竹。筍を本格的に生産しているのだろう、1本1本間隔にゆとりを持たせ整然と林立している。さわさわと渡る風にゆれる葉音も軽やかだ。これぞ竹林、竹藪にあらず。人の手がきちんと入った竹林はこんなにも美しい…女房とふたり、思わず立ち止まり見惚れてしまった。
ところがである。そこから10分も歩くと突然お腹がグルグルと鳴り出した。これはヤバイ。「下痢みたいや」と女房に告げる。「近くにトイレあるの?」。慌ててリュックから地図帳を取り出す。2キロほど先にあった。先を急いだが、歩いてお腹を揺すったせいか敵は一気に攻めたてる。とてもトイレまで持ちそうもない。もはや一刻を争う。遂に40何年かぶりに『キジを撃つ』ことに決めた。
こんな時のためにと、女房の反対を押し切って鈴鹿の山用品専門店モンベルでわざわざ携帯用トイレットペーパーを買い持ってきていた。それがなぜかない。リュックのどこを探してもない。数日前まであったのは記憶しているが、どこかの宿に忘れてきてしまったらしい。女房はあきれ顔だがどうしようもない。ティッシュをかき集めて藪の奧数十mに駆け込み、かろうじて事なきを得た。やれやれである。
かように歩き遍路にとってトイレは重大な問題である。小ならば男はさほど問題ではない(軽犯罪法違反らしいが…)。女性はそうはいかない。近年、世代を問わず女性の方が男より元気。歩き遍路も女性が増えている。その需要に遍路道へのトイレ設置が追いついていない。遍路小屋(休憩所)は至るところにあるが残念ながらまだまだトイレ付きの小屋は少ない。
その点、四国の土建屋さんはありがたい。山中などの工事現場に設けた仮設トイレを、歩き遍路に開放している企業が少なくない。わざわざ女性遍路のイラスト入りで『仮設トイレご自由にご利用下さい』と書いた看板を立てて下さっているところまである。ぼくらも旅の途中、女房が何度かお世話になった。
このほか喫茶、レストランや道の駅、コンビニも重宝である。ただしコンビニでもヤマザキのYショップは客用のトイレを設けていないのでご注意を。
大回りやらキジ撃ちやらで時間を喰い予定外の最長距離32・6キロ、しかも大半はアスファルト道できついアップ・ダウンも結構あってもうヘロヘロ。やっとの思いで薬王寺のあるウェルかめのまち美波町日和佐に辿り着いたのは5時半。納経時間はとっくに過ぎていた。止むなくお参りは明朝に延期、駅前のビジネスに直行した。
(西田久光)
2010年11月19日 PM 4:38
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