名松線の「伊勢奥津」

 平成21年の台風18号で被災し、バスによる代替運転が続く『JR名松線』の家城駅(白山町)~伊勢奥津駅(美杉町)間で、今日30日からJR東海が復旧工事に着手。27年度内に住民悲願の運行再開が実現する。しかし近年、沿線地域の少子高齢化などの影響で利用者は少なく、市内外からの誘客が差し迫った課題だ。復旧に向け、地域の関係団体や行政がしっかりと連携した観光活性化策が求められている。 

 松阪駅から、津市の一志町・白山町を通り、美杉町に至る15駅、全長43・5㎞の『JR名松線』は、昭和35年に開通した。
 かつては地域の足として親しまれていたが、車の普及や、沿線地域の少子高齢・過疎化などの影響で利用客が年々減少。昭和57年に台風の被害で運行が困難となった際、廃線も検討されたが、住民の熱心な反対活動で存続が決定した。だが伊勢竹原駅~伊勢奥津駅の5駅がある美杉町は現在人口5279人、高齢化率52・4%という状況もあり、近年では通学や通院目的にわずかな地元住民が同線を利用するだけで、大幅な赤字状態が続いてた。
 その後、平成21年の台風18号で山間部の家城駅~伊勢奥津駅間が再び被災。今度こそ、廃線と思われたが地元住民が署名活動で存続を要望。23年5月、JR東海と三重県、津市が28年度までに復旧を目指す協定を締結した。
 以来、県・市ではこの協定に基づき治山・治水整備事業を進めており、JR東海も今日30日より復旧工事に着手。27年度の運行再開を目指す。主な工事内容は土砂撤去、盛土復旧、線路・電気整備の復旧で、費用は約4・6億円。
 地元からも感謝と喜びの声が上がる一方、全線復旧後に向け、住民による利用促進と、津市を挙げての観光資源を活かした誘客活動が、衰退する地域の将来にも関わる喫緊の課題となっている。そんな中、少子高齢化の逆境にも負けず積極的にこの課題に取り組む団体が多い。
 例えば、伊勢奥津駅近くで、商工会女性会員有志が運営するミニ道の駅「かわせみ庵」は、イベントなどを通じ町内外に同線の魅力を発信している。
 また町内の住民約4200名が会員で、同線の存続を求める署名活動を行った「名松線を守る会」=前川知雄会長(69)=は、行政と連携し活動を展開。県内のウォーキング関係団体向けに同線を利用する催しを提案したり、乗車記念バッジを配布するなど様々なアイデアを実践している。
 しかし、各団体や白山町・美杉町をはじめ沿線地域の住民、行政が同線の活性化を目指し交流する機会は少なく、広域の観光活性化に不可欠な情報交換や、地域・組織の枠を越えた協力体制を築くことも難しい。そこで各団体の意思疎通の場となる協議会の設立なども必要となるが、今年度、津市が、伊勢奥津駅前に建設する観光案内・交流施設はこの問題の解消にも活用されるべきだろう。
 また、同線の運行は一日5本程と少ないが、片道約1時間の乗車自体を楽しめるような工夫を凝らした企画をしたり、長時間滞在可能な森林セラピー基地など往復で利用するのにマッチする地域資源の利用促進など、独自の魅力の発掘・PRが誘客の鍵となる。前川さんは、「他の団体も最終段階での『名松線を残したい』という意気込みは同じなので、お互い結び合っていきたい」と話している。
 復旧後の同線を地域の交通・観光インフラとして活かし、次代へ受け継いでていけるかは市民一人ひとりと、行政という立場から復旧という道を選んだ津市の行動次第。復旧はあくまでスタートであってゴールではない。このまま、赤字の増大が続くようなことがあれば、再び廃線の二文字がおどり出る可能性も否めないはずだ。まずは存続に向けての要望書に署名した11万人がその重さを改めて自覚し、〝当事者〟として、なんらかの行動を起こすことが必要といえる。