鈴木英敬知事インタビュー。昨年は世界から注目された伊勢志摩サミットが開催されたが、その波及効果を生かす施策、国立公園満喫プロジェクトで激戦を勝ち抜きモデルに選ばれた伊勢志摩国立公園を活用した観光施策、今後伸びが期待されている航空宇宙分野を新しい軸とした産業施策、絶好調の三重テラスなど、『鈴木県政』に対する様々な質問をぶつけた。

─あけましておめでとうございます。2016年は伊勢志摩サミット誘致推進協議会を中心とする官民一体での誘致活動などが実を結び、5月に主要国首脳会議(サミット)が三重県・伊勢志摩で開催されました。世界最高峰の国際会議の開催は三重県の国際観光地としての魅力を内外に発信する千載一遇の好機だったと思います。そこで、サミットを地域の活性化に繋げるためにも今後、官民一体でどのような取り組みをされるのでしょうか。 知事 サミットの成果は何においてもあると思います。県全体で言えば、観光の宿泊者数も昨年9月で対前年伸び率全国2位。ホテルの稼働率も同月は隣県が宿泊数マイナスになる中、プラスとなり全国7位。県全体として観光・宿泊が伸びていますが、地域で濃淡があるので、三重県の知名度が上がったことをきっかけに県全体に来てもらうのが課題。今後の取組みとして、まずは国際会議のМICEの誘致。特に交通の便が良く、会議室の数も多い津市と連携して誘致していく。そういった形で濃淡をならしていきたい。ゴルフツーリズムに力を入れており、県内にある70のゴルフ場のうち、津市には20ある。МICEもゴルフツーリズムも一人当たりの消費額が大きいので、津市はそういった意味でのポテンシャルは高いと思います。 ただサミットはあくまでチャンスでしかないので、県としては各事業者さんがそれを掴んでもらうために背中を押したり、場づくりをしていきます。台湾で食の商談会をやったら、昨年9月も70件ほど商談件数があった。サミットで知名度が上がっているので増えている。こういった場づくりを積極的に取り組んでいきたいです。 ─サミットに伴いハード面では高速道路が整ったり、インフラ整備も進んでいるので、それを生かすのも大事ですね。 知事 無料Wi─Fiも県全体で1300カ所ほど整備をしたが、伊勢志摩地域だけではないので県全体のインフラ整備にもなったと思います。   航空宇宙分野を軸に   産業雇用創造プロジェクト ─裾野が拡大する基幹産業(自動車関連産業)と、新たな産業の柱として期待されている成長産業(航空宇宙産業)を対象に、産業政策と一体となった安定的で良質な雇用の創出を図るため、平成28年~30年まで取り組んでいる三重県戦略産業雇用創造プロジェクトの成果をお聞かせ下さい。 知事 このプロジェクトの前段として、平成25年から3年間取り組んできたプロジェクトがあって、その時は自動車産業に特化していました。3年間で600人の雇用を目標としていたが、それを上回る1740人の雇用を生み出すことができました。 その勝因としては、産学官のネットワークをうまく作ったことや、人材育成と企業の育成に対して専門的な知識を持ったインストラクターが、『ハンズオン』と言う、マンツーマンの支援をしたことがあげられます。航空宇宙分野に広げた次のプロジェクトでは718人の新たな雇用を目指しますが、これも前述のネットワークとハンズオンの支援で、やっていこうと考えています。 ─松阪市で三菱重工が国産ジェット機「MRJ」の部品の生産を行うなど、航空産業にフォーカスが当たっています。次なる雇用という意味では非常に大事な施策ですね。 知事 航空機というと難しいというイメージがあるが、機体には装着する椅子とか冷蔵庫とか、色々な産業が関わっている。それを航空機仕様の認証を受ける必要はあるが、三重県の強みである技術を生かして十分戦える分野。 自動車産業一本槍できている中小企業にとっても、リスク分散という意味でも、航空宇宙分野に挑戦してもらうことで安定的な売り上げや県内の雇用安定化に繋がっていくと思います。この20年間で需要が2倍になっていくと思うので、間違いない。 ─細かい部品まで波及効果は大きいですね。 知事 まずはMRJが成功することで、日本の技術がやれるという自信がつくと良いですね。 ─日本の自動車産業のレベルは非常に高いので、航空宇宙産業にも必ず生かせると思います。 先導的モデルに選定  注目の伊勢志摩国立公園 ─国立公園満喫プロジェクトの先導的モデルとなる実施箇所に伊勢志摩国立公園が選定されました。国立公園指定70周年を迎えた同公園は、人々の暮らしと営みが融合した自然の素晴らしさが、サミットという千載一遇のチャンスにより世界に向けて発信されました。同プロジェクトが国とともに展開できれば、国内外からの誘客の拡大を通じて観光産業や農林水産業などの振興に繋がりますね。具体的な今後の取組みについてお聞かせください。 知事 全国33の国立公園があって、16も応募があった激戦でした。選ばれて非常に良かった。一つのターゲットは2020年。同公園に来ている外国人観光客を10万人にしようとしています。そのためのステップアッププログラム2020というのを作らなくてはいけない。これを2016年内に作ったので、それに基づく具体的な取り組みをやっていく。 一つは地域の協議会をつくったので、そのメンバーを中心にやっていく。ビューポイントといって景観の美しい場所を指定して、そこがずっと綺麗であるように整備や案内看板の設置をしっかりとやっていく。他には、景観を阻害する施設を除去したり、アクセス道路を整備したり、ストーリー性のあるツアーをつくって呼び込むとかしなければならない。結果として、伊勢志摩国立公園だけでなく、セントレアから高速船で来てもらうので、津市を始め、色んな所への周遊にも繋げられたらと思います。 ─三重県全体に繋がるような導線を繋げていくことが活性化のポイントになりますね。 知事 後は人材育成。自然公園を外国人に紹介できるガイドを育てたり、案内板や無料Wi─Fiの整備もやっていかなければならない。実際、見てもらうと評価が高いので、メディアの方を招くファムトリップ(下見招待旅行)をやって記事を書いてもらって誘引するとか、そういうのをやっていきたい。 ─同公園には古いイメージを持つ人もいるので、洗練されたイメージにしていくことも大切ですね。 知事 おっしゃる通りです。伊勢志摩国立公園は民有地の比率が96%もある。他の国立公園が大体30%と考えると、人々の生活と共にある公園といえます。その一方で、先ほども申し上げたビューポイントで上手くメリハリをつけていくことが重要。サミットでも文化の違いを感じる料理は、手をつけてもらえなかったことも多かったので、相手の文化に合わせたおもてなしも重要です。 全国でも屈指の人気  絶好調の三重テラスの展望 ─昨年9月末で3周年を迎えた三重県のアンテナショップ「三重テラス」。昨年11月には来店者200万人を達成しました。北海道や沖縄のアンテナショップのように銀座・有楽町ではなく、日本橋からの勝ち組の登場は、全国の自治体関係者を驚かせています。「三重の文化を発信する、三重のファンを作る、三重県民、県出身者が『自分ごと』として利用できる。そんな場所をコンセプトとしてオープンさせた複合施設」としてスタートし、勝ち組と言われるようになった戦略と今後の取り組みについてお聞かせ下さい。 知事 三重県の色々な事業者の方々の協力があってここまで来られた。全国トップ10に入る来館者数なんですが、リピート率が平成26年度の43%に対して、27年度は60%と高くなり、もう一度行きたい場所と思われている。再度訪れると企画が変わっていて飽きない場所と認識されており、満足度の高さの表れと思っている。それともう一つの特徴としてイベントスペースがあって津市も「つデイ」をやってもらっています。稼働率も85%くらいあり、ここに来てもらった人が三重県の店や飲食店のことなどを知ってもらえる。飽きない旬の情報を発信することを続けてきたのは良かったと思う。さらにレストランの単価が上がっていくと良いかなと思っています。昼に朝日屋の肉を使った松阪牛のローストビーフ丼を2800円くらいで限定20食で提供しているが毎日売れていく。特色ある食べ物を出して客単価をあげていきたい。売上ばかり気にせず若者の商品を紹介するなど、東京進出のチャレンジの場所にもしたい。議会では採算のこともご指摘頂きますが、それだけでは計れないものがあります。 ─昨年を一つの言葉で表すとなんですか。 知事 オール三重。県民の皆さんに楽しんで頂いた伊勢志摩サミットで得られたチャンスを今後の発展につなげていけたらと思いました。また、県政でバックアップできることがあれば積極的に取り組んでいければと思います。 ─ありがとうございました。