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現在日米欧の株式の変動率が歴史的に低い水準にあります。米国VIX指数は1993年公表開始以来、日経VIも過去最低水準に達しています。
この変動率の事を恐怖指数またはVIX指数と言います。近い将来に高い変動が起きる可能性、つまり株式市場にリスクが高いことを示す比率のために恐怖指数と称されます。それが歴史的に低いと言う事は現在の株式市場に波乱が少ないことを示しています。
米国ダウ平均では5%超の下落は2011年8月が最後となり、日経平均も3%超の下落は171日営業日が経過しています。
背景には08年の金融危機以降、世界的に大規模な金融緩和が実施され、その後9年経過しているにも関わらず、未だに未曽有の金融緩和が継続されているからです。FRB・ECB・日銀の総資産は17年7月時点で13・8兆ドルと、07年リーマン危機前の4倍に膨らんでいます。
景気拡大も米国では9年目に突入、戦後最長の10年も視野に入ってきています。
バフェット指数(ある国の株式時価総額増加率と名目GDP成長率は長期的には収斂する)つまりGDPと株式市場の時価総額との比較では、4~6月期の年換算で名目GDP19兆ドル、NYとナスダックの株式時価総額は6月末時点で29兆ドルとGDPの1・5倍と過去最高となっています。それぞれ十分にバブルの様相を呈している訳です。
この緩和マネーは世界的な株式や債券の上昇(金利低下)の他に不動産の高騰にも影響を及ぼしています。
カナダでの都市部の住宅価格は危機前の2倍に上昇、米国の商業不動産は危機前の1・3倍に跳ね上がり、中国上海の住宅価格は平均年収の20倍とバブル期の東京を上回っています。
経済主体とその活動においても、主要国では家計と企業にお金が蓄積され、唯一国の借金が膨張する状態が続いています。
企業の現預金が世界で膨張しています。この10年で現預金に保有債券や貸付金を加えた広義の手元資金は12兆ドル1350兆円と8割増加(有利子負債は7割増の19兆ドル)、日米中の政府債務は36兆ドルと10年前から9割も増加しています。 長期金利がいつ跳ね返ってもおかしくありませんが、実際は歴史的な低水準で推移しています。 このように膨れる政府債務を企業や家計の余剰資金が支え、金利を押し下げている訳です。政府債務が膨らみ続けると、いつかは増税などで国民生活に影響が出ます。
家計部門では所得が増えず将来を悲観し貯蓄は増えるが、消費は節約志向。企業部門では、人件費や設備投資を抑制し、利益を蓄積し、それを自社株買い付けに充当。発行済み株式数が減少した分一株当たりの利益が増加し、株価の上昇要因となります。
政府部門では、中央銀行が市場から国債を買い取り、膨大なマネーを市場に供給、売り手の金融機関は運用先に困りリスクの高い株式や不動産に向かう。
この状況がいつまで続くのか?これまで低成長経済や低水準の物価が続いているため、金融緩和は継続されてきましたが、いつまでも続くことに無理があります。景気の後退懸念の指標として、米国の新車販売が今年1~6月期では8年ぶりに前年同期比減少となってきました。
この秋にも金融の縮小が米欧から始まることが予想されています。これまで利上げは米国など一部の国で何回か実施されてきましたが、量的緩和の縮小は今回初めてです。
金融縮小により、投資マネーが新興国から先進国に、リスク商品から非リスク商品に、これまでとは逆の巻き戻しが発生し、その規模の程度によっては、市場の変動率が高まる可能性が出てきます。
この場合のチェックポイントは主要国の株式変動率と新興国の株式・金利・通貨の推移が重要になります。米国の変動率は例年夏場から10月にかけて高くなっています。
トランプ政権が発足してから今年1月までドルは独歩高していましたが、その後現在まで1割下落し、発足前の水準に戻っています。金融縮小は本来ドル高要因になりますが、今回も米国だけでなく、ECBも縮小政策をとり、他国も利上げが予測されるため、今年前半同様ドルは弱い水準で推移します。
今後は為替の影響より、金融縮小の規模とスピードの影響が市場を大きく左右する要因となるため、これまで以上に十分な注意が必要になります。
いよいよ世界同時引き締めが始まると身構える必要があります。
資産運用アドバイザー 宮 﨑 英 寿
2017年8月10日 AM 4:55