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暑かった夏もようやく秋にバトンタッチ。早くなった日暮れの時間を感じます。
秋の夜、耳をすますと虫たちの音色が、夏の虫から秋の虫へと、変わっていることに気づきます。
「秋きぬと めにはさやかに 見えねとも 風のをとにそ おとろかれぬる」 と古今和歌集でも詠まれているように、目には見えずとも、さやさやと音を立てる草木や風の音に、秋の気配を感じます。今回は夏と秋の間、夏の面影と秋の気配を同時に感じる季節の移ろいを楽しませてくれる初秋の二曲をご紹介いたします。
秋の七草
秋の七草虫の音に
鳴かぬ螢が身を焦す 君を松虫鳴く音も細る
恋という字は大切な
初秋、螢の命は夏で尽きてしまうのが普通ですが、時には秋まで残っていて、稲田の露と見まごうことがあります。
この小唄は秋の螢をとりあげて、夏の涼みにいとしいと思い始めた女心を、唄った江戸小唄です。
「秋の七草」は、萩、尾花(すすき)、葛、撫子、女郎花、藤袴、桔梗、の七種の花が、古来から七草として選ばれています。
軒端には虫の音が聞こえる頃になり、庭の秋草も色めいてまいりました。
秋草の中から聞こえるのは、澄んだ松虫の音でしょうか、その鳴く音は、恋しい人を「待つ」ように聞こえます。
松虫はその名から「人をまつ虫」「誰かをまつ虫」など「待つ」という言葉にかけて、よく詠まれております。
秋風誘う
秋風誘う葛の葉に
野辺の松虫恨みつつ
招ぐ尾花の袖見れば 露の玉菊月の影
安政4年7月市村座で「網模様燈籠菊桐」の上演の時に出来た芝居小唄です。
この芝居は玉菊の150回忌にちなんで、河竹黙阿弥が書いた新作を上演したものです。
詞は福島隣春、曲は平岡吟舟です。実説によると玉菊は才色兼備の太夫で、江戸遊女の誇りとされ、一説には遊女の身にはまれな節操を保って、自刃したといわれています。
その7月の盂蘭盆には、吉原の茶屋では、軒毎に菊桐に玉の字の定紋入りの切子燈籠をかかげて、玉菊の精霊を祀りました。これが「玉菊燈籠」の由来で、のち吉原の年中行事となっております。
小唄は初秋の野に、月に照らされて浮かび出た、玉菊の幽艷な立姿を唄っていて、「葛の葉」は、風に吹かれると白い裏葉を見せるので、「裏見草」とも呼ばれ、この「裏見」は「恨み」に通ずる所から「野辺の松虫うらみつつ」と唄い、葛の葉が秋風にそよぎ、松虫がすだく風景を唄っております。
「招ぐ尾花」以下は画家である福島燐春が月に照れされて芒の原に立つ野辺の露と消えた玉菊の絵姿を唄ったものです。
初秋の夜、どこかで松虫の音が聞こえてきそうです。
(小唄 土筆派家元)
「小唄の楽しみ ちんとんしゃん」も今回で8回目を迎え16曲をご紹介いたしました。
実際にお聴きになりたい方は稽古場が「料亭ヤマニ」になっておりますので、三味線や小唄に興味のある方、お気軽にご連絡下さい。
又、津中日文化センターで講師も務めております。
稽古場「料亭ヤマニ」☎059・228・3590。
2017年8月24日 AM 4:55