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1月22日8時半、前回のゴール地点である大阪府大東市のJR四条畷駅前に私は立っていた。ここまでは、JR亀山駅から関西本線の始発に乗り、電車で揺られること約2時間半で到着。伊賀市を越えた辺りから、木津駅まで線路と163号はほぼ並走しており、見覚えのある景色が旅情をかきたてる。
いよいよ6回目にして最後の旅が幕を開ける。ゴールは、国道163号の始点である大阪市北区の梅田新道交差点。距離にして20㎞弱。
四条畷駅を出発した私は、1㎞ほど北側を走る163号の四條畷市の東中野交差点より歩道に沿って西へ西へと進んでいく。この辺りの国道は片側2車線で、幹線道路と呼ぶにふさわしい佇まい。津市の終点付近とは交通量も比べ物にならないほど多い。
四條畷市は面積18・69㎢で人口は5万5千人。大阪市のベッドタウンで市域の3分の2を北生駒山地が占めている。国道周辺の市街地は、狭い敷地に建ぺい率の限界に挑むように建てられた住宅や店舗で構成された街並みが広がる。改めて我々の住んでいる地域と比べて、人口密度など、まちの性質の違いを垣間見ることができる。
空は晴れ渡り、気温もそれほど低くなく、絶好の旅日和。この日に合わせて体調も整えてきたので足取りも軽い。四條畷市役所やサンアリーナ25(四條畷市民総合体育館)を超え、順調に歩みを進めていく。
ふと、国道の道路標識に目をやると、「蔀屋」という地名が書かれている。漢字は読めなかったが、添えられている英語表記から「しとみや」と読むことが分かった。すぐに懐からスマートフォンを取り出し、国語辞典アプリを開く。
蔀とは平安時代から中世にかけての寝殿造りの住宅や社寺建築に広く使われた建具のことで、木を格子状に組み、間に板を挟んだ戸で日光や風雨を遮ることを目的に設置されていたようだ。古い寺院で、格子状の戸が天上に向かって水平に跳ね上げられ、L字形の金物で固定されている様子を見たことがある。「アレのことか」と画面を眺めながら得心する。
蔀屋は、蔀で囲った仮の小屋という意味で、地名がつけられた当時には、この地域のアイデンティティ足り得る存在として、そのような建物があったのかもしれない。 私はしばし立ち止まり、多くの自動車が行きかう国道沿いの景色を眺めながら、頭の中でタイムスリップを試みる。原野や森に囲まれた集落に、粗末な小屋が並ぶ景色。そこで貧しくも、明るく日々の暮らしを全うする人々。そんな営みの中で無数の努力が積み重ねられてきた結果、今の風景が形成されている。どの街にも当てはまるごく当たり前のことだが、つい忘れがちな話である。この難読漢字は、我々に大切なものを思い出すきっかけを提供してくれているのかもしれない。(本紙報道部長・麻生純矢)
2019年1月31日 AM 4:55
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