寒さの中にもどことなく春の気配を感じるようになりました。梅の香りが春風にのって運ばれて来る季節が今年もきたのだと心待ちするこの頃です。又、今年は後何日かで新しい元号に変わり記念すべき新時代が始まろうとしています。
今回は、春の花、梅にちなみ「梅が香」と「重ね扇」の二曲をご紹介したいと思います。
「梅が香」
梅が香を幸い東風が誘い候
かしくと書いた土筆
主に扇を重ねてそして誰を招ぐか早蕨の
手事というも恥ずかしく顔に初日がさすわいな
明治時代の曲で作詞作曲は不詳です。明治25年3月五代目・尾上菊五郎が大阪へ初乗り込みを行いました。
「梅が香」もその時出来た小唄だと言われております。「梅が香を幸い」は五代目・菊五郎の俳号梅幸で「重ね扇」は尾上家の紋のことをいい、初日は芝居の初日の事をいいます。
この唄の作者は大阪角座で賑々しく開場したということを春の植物「土筆」と「早蕨」で表現しています。土筆は出始めは筆のような形をしています。そこで土筆を女性が持つ筆にたとえ、「東から吹いて来る風が、今年は幸いに東京の梅の香りをのせて大阪に参りましたよ」という女の人が書く文句にしたのが「梅が香~かしくと書いた土筆」のところです。
「早蕨」は蕨の異称でこれも一番若い時は、上部がこぶしを握ったようにくるくると巻き、誰かを招いているような手をしているので、ここでも「早蕨」を土筆と同じく若い女性の手にたとえています。次に出てくる「手事」とは音楽用語で前唄と後唄との間にある長い合の手のことをいいますが、ここでは男の人を想う女性の手管という意味に解してよいでしょう。 「手事というのも恥ずかしく」とは五代目が私の誘いにのって設けの席に来てくれて嬉しく、こうした手練手管を用いてもお逢いしたいと思う心が恥ずかしいという意味のことを言っております。 この唄は五代目・菊五郎が目出たく芝居の初日を迎え、来阪を喜ぶ女性の気持ちを代表して述べた江戸小唄です。
「重ね扇」
重ね扇はよい辻占よ
二人でしっぽり抱き柏
菊の花なら何時までも
活けてながめている心
色も香もある梅の花この唄は江戸後期の作で作者不詳です。
重ね扇に抱き柏の紋は三代目・菊五郎が細川候の邸へ参上した時、折から端午の節句で殿様から扇に柏餅を二つのせて出されたので、それを自分の扇に受けて頂いたので、これを記念して「重ね扇に抱き柏」を尾上家の紋にしたと伝えられれいます。
この唄は「音羽屋の紋づくし」で「抱き柏」と「重ね扇」は尾上家の紋です。「菊」は五代目・菊五郎のことで、「梅の花」は菊五郎の愛人、辻井梅のことを言っていると思われます。
五代目自身も小唄をたくさん作っており、又、五代目尾上菊五郎を唄った小唄は非常に多いといわれております。
ようやく寒さの出口がみえてきましたがまだまだ気候不順の日がつづきそうです。お体にはくれぐれも気をつけて。
小唄 土筆派家元
木村菊太郎著「江戸唄」参考
三味線や小唄に興味のある方、お聴きになりたい方はお気軽にご連絡ください。又中日文化センターで講師も務めております。稽古場は「料亭ヤマニ」になっております。 ☎059・228・3590