土地の実態を正確に把握する『地籍調査』は災害復旧の観点からも注目され、津市では近年めざましいペースで調査が進められているが、森林は傾斜地も多く測量に危険が伴ったり、現地立ち合いも困難を極めるため課題となっていた。市域の6割を森林が占める津市は、今秋より国のモデル事業として航空写真などを使い、遥かに早く安全に境界が確定できる新たな手法を全国に先駆けて取り組んでいる。

 

リモートセンシングデータによる境界案(国交省資料より)

リモートセンシングデータによる境界案(国交省資料より)

国土調査法に基づき、主に市町村が主体となって行っている地籍調査。一筆毎に土地の所有者、地番、地目を調べ、境界の位置と面積を正確に測量し、境界を確定する。なぜこの作業が必要かというと、登記所に備えられた地図や図面の多くは明治時代の地租改正時に作られたもので、土地の境界や形状が不正確なため。調査を終えると、登記所の登記簿に記載された情報が現在の状態に沿った正確なものへと更新される。
全国の調査進捗率は平成29年度末で52%にとどまっているが、東日本大震災の津波で甚大な被害を受けた被災地において迅速な復興に繋がったことから、その意義が再評価されている。
津市でも、「津市地籍事業計画」を策定し、用地・地籍調査推進課も設置。南海トラフ巨大地震に伴う津波対策として、河芸から香良洲までの沿岸部約10㎢を重点整備計画として平成27年度より、10年計画で取り組んでいる。地域住民の関心の高さから、土地の境界立ち合いもスムーズで計画を2年繰り上げた令和4年に区域内の調査が終了する見通しとなった。調査の進捗率も平成26年度末の2・81%から平成30年度末の3・85%まで短期間で大きく伸ばしている。
しかし、津市が調査を進める上で、大きな課題がある。それは市域の約60%(約420㎢)を占める森林である。そのほとんどが民有地であるがスギやヒノキの木材価格の低迷に伴い、財産としての価値も下がり、相続によって、正確な境界すらわからない状態の土地も多数含まれている。地籍調査するために測量や現地立ち合いを行うにしても、その土地まで辿り着くこと自体が困難であったり、傾斜地などでは滑落の危険もあり、膨大な時間と費用がかかってしまうことが全国的な課題となっていた。
そこで国は、近年発達がめざましい人工衛星や航空機などから地表を観測するリモートセンシング技術を活用した森林の地籍調査マニュアルを策定。津市は、これに基づく国のモデル事業として一志町波瀬・美杉町八手俣地区の森林を対象にした地籍調査を今秋より実施している。ヘリコプターによる対象地域約10㎢の撮影やデータ収集はわずか一日で終了。地権者の境界の現地立ち合いは行わず、デジタルデータを見ながら、境界線を確定していく。今回の対象地域は、わずか3~4年ほどで、登記簿の登録が完了できる見込み。これは全国初の試みとなる。
また、今年度から始まった森林経営管理制度では市町村が森林所有者の意向を確認し、林業経営に適した森林は意欲のある林業経営者に集約を進める一方、林業経営に適さない森林は、環境保護や災害防止の観点から市町村自らが管理していくことが定められている。そのような時代の流れの中で、今回のモデル事業は大きな意義を持つといえる。
津市は地籍調査の先進地となれるよう重点整備地域を含む市街地の地籍調査も積極的に進めていくだけでなく、新たな手法で森林の調査を進めることも期待される。