鈴木英敬知事新春インタビュー。令和最初の正月に、今年の東京オリンピック・パラリンピックの勢いを来年の三重とこわか国体にどう繋げるか、南海トラフ大地震に備えた防災対策、県民の安心・安全をいかに守るか、中小企業の事業承継などの問題解決を軸とした県内産業の振興策、重要施策に迫る。     (聞き手=本紙・森昌哉社長)

東京五輪・パラリンピック   勢いを三重国体に繋ぐ

鈴木知事(左)と本紙・森社長

鈴木知事(左)と本紙・森社長

─あけましておめでとうございます。ゴールデンスポーツイヤーズの令和2年に東京オリンピックパラリンピックが催されますが、その熱気や盛り上がりを地域の活性化、三重の魅力発信に生かすと共に、翌年に迫る三重とこわか国体・三重とこわか大会へ繋げていく必要があります。県の動向と「とこわか運動」について教えてください。
知事 まずは、オリンピックに出場が内定している男子マラソンの中村匠吾選手、女子レスリングの向田真優選手、パラリンピックでは、女子走り幅跳びの津市の前川楓選手、車椅子陸上の伊藤智也選手と三重ゆかりの選手たちが活躍して頂くことがスポーツの盛り上がりに繋がっていくと思いますね。三重県としても、オリンピックとパラリンピックを盛り上げるため、4月の8日・9日で県内12市町で聖火リレーを行います。サオリーナにもカナダのレスリングチームがキャンプに来ますが、その他の代表チームも県内に来て頂くので、気運の盛り上げにも繋げたいです。
国体については、今年は最終準備の年。リハーサル大会もたくさん開くし、全国中学校体育大会の一部の競技も三重県で行います。来年の総合開閉会式への取り組みや、天皇杯・皇后杯を獲るための競技力向上にも重要な一年となります。
出場しない県民の皆様にも、国体を盛り上げて頂くための取り組みが、「とこわか運動」です。平成30年9月にとこわか運動開始宣言を行い、これまでに300以上の取り組みが登録されています。これからも更に認知度向上や盛り上げに取り組んでいきたい。
国体開催にあたり、4400名ほどのボランティアの方々のご協力も必要なので、「やってみよう」と思っていただけるようにしていきたい。特に視覚障害を持った方々を対象とした移動支援ボランティアは全国初の試みです。日本体育協会からもオリンピックのレガシーを地域で受け継ぐ国体にしてほしいと言われているので、連続性をもってしっかりと取り組んでいきます。

〝異常〟が〝通常〟に   集中豪雨や地震などの災害

─防災について、近年の異常気象の影響で三重県内でも大規模な自然災害が発生しています。更に、発生が確実視されている南海トラフ地震への対策など、防災機能向上への取り組みを進めていかなければなりません。県の取り組みを教えてください。
知事 昨年は記録的短時間大雨が9回発生しました。平成24年から制度運用が始まって平成30年までは一回もなかった。しかも三重県の基準である1時間に120ミリというのは全国でも最高値で、これだけあるということの想定を超えてきています。今までの異常が通常になりつつあることを踏まえた対策が必要で事前の備えも大切です。一人でも多くの方に防災行動をとって頂かなければなりません。
昨年(2019年)は伊勢湾台風から60年、昭和東南海地震から75年の節目だったので、様々な取り組みをしてきました。過去の教訓を学ぼうということで自治体全国対策会議を三重県で開催。もう一つは避難行動として、同年9月に国と県とLINEでAIスピーカーを使った取り組みなどを試みました。人間は正常性バイアスで大丈夫と思ってしまうため、みんなで声をかけあっていける取組みをやっています。
南海トラフ地震が来た際も、三重県で被害がなかった場合でも、他県で基準を超える地震が起きた、いわゆる〝半割れ〟の状態でも皆が事前避難をしなければならないという新制度もできています。これをしっかりと定着させるために、今年は市町、企業、病院などのご協力を頂けるような取り組みをしていきます。
三重県では、全国最多クラスの条文数を設けている防災対策推進条例を最近の傾向や南海トラフ地震への備えへを踏まえて改正し、令和2年4月にスタートさせます。国の3カ年緊急防災対策を使って、河川や海岸堤防の整備をしっかりとやっていきます。
─防災行動や対策は県民一人ひとりが日常的に行うことが非常に大切ですね。 (2面につづく)

安心・安全どう守る   社会問題の犯罪や交通事故

─安心・安全なまちづくりについてです。近年、犯罪や交通事故が社会問題化しています。三重県では「安全で安心な三重のまちづくりアクションプログラム」も作り、市町との連携強化も行っていますね。具体的な取り組みを教えていただけますか。
知事 平成28年のG7伊勢志摩サミットの時に「テロ対策パートナーシップ」を県内各地でやってきました。それを引き継ぐために同29年に「安全で安心な三重のまちづくりアクションプログラム」を作りました。それから意識を変えたり、行動をしてもらうことが大事なので、18警察署単位で座談会をやり、皆さんの声をお聞きしてきました。アンケートを取ると、県内の刑法犯認知件数などは減っているものの、3年前と比べると治安が悪くなったと14・6%の人が思っていて、良くなったの6・2%を大きく上回っています。不安はまだ解消されていないことが分かるので、アクションプログラムを作り直し、令和2年度からスタートしていきたい。
内容としては、地域で防災や交通安全に取り組む方が高齢化したり、担い手不足なので、地域の防犯力を高めるということを重点テーマにしています。
もう一つのポイントは、今まで以上に市町と連携を深めます。市町と連携して取り組んでいくために、市町が地域の防犯ボランティアと座談会や連携するためのマニュアルをつくったり、県内全29市町に「安心安全まちづくり地域リーダー」を配置して防犯や交通安全の基礎知識の普及やアクションの拡大をしていけたらと思う。
先日、津新町の交通安全ボランティアの方々とお話を致しましたが、高齢化していたり、担い手の確保が課題だと感じました。そういった方々が増えることを期待したいです。
─県民の安心・安全を支えるのは、県の大きな仕事だと思いますが、県民の協力も不可欠です。今後の取り組みを通じて、より多くの人が関わる大きな輪が生まれていくことを期待しています。

事業承継は重要課題   県内産業支える中小企業支援

─県内産業の大部分を中小企業が占めていますが、後継者問題が深刻化しています。事業承継が難しい中小企業ならではの課題も多いと思いますが、具体的な支援策などをおきかせください。
知事 三重県の経済全体としては平成29年度の県内総生産が平成18年度以降で最高になったり、有効求人倍率も高いなど、マクロ的には悪くない状況ですが、米国や中国などの経済の影響や、中小企業における後継者不足や事業継続のための防災対策など多くの課題を抱えている。平成11年と比べて、県内の中小企業が2万社減っているので、これを解決しなければなりません。
倒産件数は平成30年で67件ですが、後継者難で休廃業や解散したのが585件で倒産の8・7倍ある。事業承継対策は色々やっていますが、関係者が集う事業承継ネットワークをつくり、事業を引き継ぐ前に行うプレ承継や引き継いだ後に行うポスト承継にも取り組んでいます。
特に事業承継は時間がかかるので事業承継診断を行うことを積極的に取り組んでいます。同29年から令和元年9月末にかけての累計数は5493件。年間720件ほどの目標に設定していたので想定を大きく上回っています。承継を円滑にするためには、個人保証の問題もあるので金融機関の皆さんのご協力も頂いている。そういう部分を助ける新たな制度を県としても国の制度に合わせてしっかり取り組んでいきたい。
あとは中小企業の創業にも力を入れていくために、平成26年に「三重県中小企業・小規模企業振興条例」を策定しました。5年が経過したので、先程申し上げた課題を盛り込んで条例改正し、今年4月からリニューアルした形でやっていきたい。
─県内産業の発展を考える上で中小企業への支援は欠かせません。更なる施策をお願いします。

 

県民の夢や希望叶う年に  新しい時代の幕開け

─最後に県民の皆様へのメッセージをお願い致します。
知事 令和最初のお正月です。新しい時代の幕開けにふさわしくいつもより前向きな気持ちでお正月をお過ごし頂けたらと思う。今年は東京オリンピック・パラリンピックがあるので、県民のみなさんの夢や希望が叶い三重県の中でメダルラッシュがくることを願っています 。
─ありがとうございました。素晴らしい一年になることを期待します。