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国道165号を雲出本郷町交差点から出発した私は歩道に沿って西へと進む。平日のお昼過ぎで交通量こそ少ないが、津市の幹線道路だけに車は途切れず流れていく。
実は、国道163号を踏破してからも、来るべき日に備え、早朝にランニングを続けてきたので身体は軽い。
500mほど進むと高架で、歩行不可となる。そこで歩道に導かれるままに、側道を進んでいく。普段であれば、まず通ることのない道。通ったことはあるが車で通り過ぎたことがあるだけで、ここまでゆっくり進むのは初めて。幾度となく通った国道の文字通り裏側を下から、じっくり見上げるのは乙なものである。
側道をしばらく進むと小さな鉄橋があり、その下をJR紀勢本線の線路が走っている。この近くには同線の高茶屋駅もある。ちなみにこの路線のルーツは、明治23年(1890年)に開業した私鉄・参宮鉄道。伊勢神宮への参拝客を運ぶことが主眼に置かれ、現在の津市と伊勢市の間に11駅が置かれたが高茶屋駅もその一つである。明治40年(1907年)に鉄道国有法によって国営化、更に国鉄民営化を経て、JR東海の管轄となり、現在に至る。
この路線が開通するにあたり、伊勢参宮街道を徒歩で通る人々を相手に商いする人たちから反対にもあっている。徒歩の場合は当然、電車より移動時間がかかり、費やされるエネルギーも比べ物にならない。必然的に飲食店や宿屋の需要も増えるのは必然だろう。裏を返せば、参拝客にとっては移動時間の短縮が大きな節約にもなった。電車の競合相手が徒歩であったのは、現代の感覚で考えると非常に面白い。
自動車の普及と共に同線の利用者は減り、電車としての存在感も利便性の高い近鉄に譲ってしまった。一昔前までは、高茶駅が三重県運転免許センターの最寄りだったので、この路線を利用したことがある人も多いはずだが、同センターの移転以降は、主に近隣住民が通学や通勤に使う無人駅となっていた。
しかし、昨年、この駅近くに大型ショッピングセンターがオープンしたことで状況は変化。まだ車に乗れない学生などが、運賃が安いこの路線を利用し始めた。ショッピングセンターまで徒歩5分ほどの高茶屋駅の利用者が増えたのだ。
今日、車は一人一台が当たり前だが、かつて競合した電車と徒歩が手を取り合う存在となっているのは感慨深い。
自分の足でゆっくり歩いていると、流転する街の小さな変化も敏感に感じられる。私は、早くも徒歩の楽しさをかみしめている。(三重ふるさと新聞報道部長・麻生純矢)
2020年1月9日 AM 4:55