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閉園となった『旧津市立安西雲林院幼稚園』=津市芸濃町北神山=の利活用をめぐり、津市が外国人技能実習生を教育支援する組合との賃貸契約を結んだことに対し、地域住民が地域への説明を欠いた「事後報告」と強く反発。地元の北神山自治会は契約の白紙撤回を求め、津市議会へ陳情書を提出したり、署名運動にまで発展している。
「旧安西雲林院幼稚園」は、昨年4月、外国人技能実習生に日本語教育を施し、日本全国の企業にマッチングしている協同組合「亜細亜の橋」=津市芸濃町椋本、小倉武俊代表理事=から日本語研修の場として使用したいとの申し出が施設を所管する津市芸濃総合支所にあった。その後、支所は昨年8月、当時の北神山自治会役員に対し、利活用案が出ていることを伝えたが、地元では正式に契約を結ぶ前に、市が事業者の紹介や利活用案について詳細な説明会を開くものと考えていた。
しかし、両者の認識の違いで正確な情報共有が行われないまま、市は今年2月1日から3月10日までインターネット上と総合支所への掲示による公告を実施。他の候補者を募ったが申請は無く、研修事業に加えて地域の外国人子弟に対する日本語教育などのボランティア活動を盛り込んだ高い公共性などが評価され、同組合と市は正式な賃貸契約を結んだ。
しかし、今年4月に賃貸契約が結ばれた事実を知った北神山自治会は、地域の意見を置きざりにした〝事後報告〟だと強く反発。契約の白紙撤回を求める署名運動を今月から始め、津市議会にも陳情書を提出している。
この流れを受け、6月17日の津市議会で一般質問を行った滝勝弘市議に対し、盆野明弘副市長は「丁寧さに欠けたことを心よりお詫びしたい」と陳謝。事前に地域住民に対して説明会を開くべきであったとした。一方、市としては契約自体に問題は無いとしている。
支所の担当職員は「地域を一軒ずつ説明に回る覚悟はある」としているが、駒田操自治会長は、「あくまで契約の白紙撤回を求める。署名を集めて市長と話がしたい」と語気を強める。津市と地域住民の主張が真っ向から対立し、落としどころが見えない状態に同組合の小倉代表は「地元の理解を得られなくて残念」と話す。同組合は、契約と同時に1年分の施設の賃料と、電気代などの維持費を負担しているが、実質的に使用できない状態。同組合に対する市の姿勢も不誠実といえる。
そもそも盆野副市長は契約前に住民が望む形の説明会を開くべきだったとしたが、今回は公平・公正を期するために公告で広く事業者を募り、選定したため、事前に事業者の紹介や事業案の詳細を住民に伝えることは不可能。場当たり的な答弁だったという他ない。今回の手法で、市が開ける説明会は公告の期間、応募資格のある事業者の業種、利活用案例の紹介程度に留まる。結局、事業者や事業の詳細を地域住民に報告できるのは、正式に契約を結んだ後になってしまう。一昔前は、地域の顔役を通じ、事前に反応を確かめることもできたが、社会情勢的にそれも難しい。〝出たとこ勝負〟にならざるを得ず、地域と事業者双方のリスクが露呈した形だ。
このケースに限らず、役割を終えた公有財産の適切な管理は行政の責務だが、統廃合が進む幼稚園や学校は、地域住民の思い入れも強く、類似のトラブルを招き易い。また、外国人労働者も増える中、適切な教育で多文化共生を促す同組合のような存在は必要だが、この問題の根底には外国人に対する根強い不信感があることも否めない。
このような情勢を踏まえ、行政が判断する場合、地域のニーズと共に、公共性・維持管理コストなど市全体の利益も求められる。市として今回の問題解決に全力を注ぐだけでなく、二の轍を踏まない対策が必要になろう。
2021年6月24日 AM 5:00
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