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あっという間に八月も過ぎて、少し体を動かすだけで汗ばむ季節になりました。今は世界中が新型コロナウイルスに悩まされ、外出も人の集まりも控えるという状況の中、時間の感覚が大きく影響を受け、季節が早く過ぎていくように感じます。
夏の始まりに、楽しみにしている庭のさるすべりの木に、美しいピンク色の花が咲きました。風を受けるたびに花の房が大きくゆれて気持ちが和やかになり、優しい気持ちにさせてくれます。
早くマスクのいらない日常の生活が送れる日を待ち遠しく思うばかりです。
今回は、晩夏の隅田川の夜景を見るような流燈会を唄った江戸小唄「都鳥」と新緑に雨、それに時鳥を配した「梅雨催い」という二曲をご紹介いたします。
都鳥
初代清元菊寿太夫曲
都鳥 流れにつづく燈篭の よるよる風の涼み船 波の綾瀬の水清く 心隅田の楫枕
これは、明治十一年七月に行われた隅田川の流燈会を唄った小唄で、明治期の新作小唄第一号と言われています。これを企画したのは「言間団子」の主人・植佐老人です。隅田堤に茶店を出し、在原業平の故事にちなんで、言間団子と名づけ、明治初年の江戸っ子に賞美され、「長命寺の桜餅」と共に江戸名物となりました。
この茶店を訪ねた当時の文人などに相談し、維新前まで行われていた七月の孟蘭盆に、隅田川の水死人のための川施餓鬼の行事を再興しようと考え、趣向を変えて牛島興福寺の流燈会と名付け、許可を得て明治十一年七月一日から三十日間、水神の森から毎晩、都鳥の形をした燈篭を櫛田川に流しました。
当時は小船から縄を引いて沢山の都鳥形の燈篭をつなぎ、船を漕いで川を上下したもので、高さ一尺、幅一尺五寸に彩色し、蠟を塗り、竹で骨を造り、カンテラを板に取り付けたものです。
百を数える都鳥が波のまにまに流れて淡い影を水に落としました。小唄「都鳥」は、この風景を唄ったもので、作詞者は不明ですが、おそらく後援の文士の作だと思われます。作曲者の初代菊寿太夫は五十九才の円熟した時代のことで、流石に面白く、賑やかな替手もついていて、晩夏の隅田川の夜景を目の当たりに見るような美しく賑やかな曲になっています。
梅雨催い
大槻正二 詞・曲 梅雨催い 傘持つ程もなかりしに 何時降りそめし 五月雨や
軒の玉水音冴えて 雨も乙だよ 葉山の茂り
オヤ時鳥 初音聞かせてなまめかし
これは大正期に作られた江戸小唄です。この小唄に「新緑てりそう山の宿に二人居て」という表題をつけると、はっきりと状景が浮かんできます。「葉山の茂り」は「葉山」という地名のことです。「梅雨催い~五月雨や」までは実にうまい五月雨の描写です。「軒の玉水」は、軒を伝わって落ちる雨だれの音。「初音」は二人がその年に初めて聞いた山ほととぎすの啼声のことです。
作曲も新緑に雨、それに時鳥を配し、時鳥のなまめかしい鳴き声を面白く聞かせる独得の味わいを持った乙な小唄になっています。
新型コロナウイルスという疫病に世界が振り回され、大変な時代を迎えております。自粛生活も長くなり、運動不足になりがちです。お体にはくれぐれも気をつけてお過ごし下さい。
小唄 土筆派家元
参考・木村菊太郎著「江戸小唄」
三味線や小唄に興味のある方、お聴きになりたい方はお気軽にご連絡下さい。また、中日文化センターで講師も務めております。稽古場は「料亭ヤマニ」になっております。電話059・228・3590。
2021年8月12日 AM 10:36