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三重大学大学院医学系研究科の土肥薫教授(血管ハートセンター長)らのハートチームは、慢性心不全を起こす僧帽弁閉鎖不全症の患者に対して昨年12月、県下では初となる MitraClip®を用いた経皮的僧帽弁接合不全修復術を実施。2月18日に同大学で報告した。
僧帽弁閉鎖不全症とは、様々な原因で僧帽弁がうまく閉じなくなり、血液が左心室から左心房に逆流してしまう疾患。国内では軽症も含めると 75歳以上の10人に1人が罹患していると言われ、高齢者に多い。悪化すると心不全を引き起こし、命にかかわる危険性もある。
MitraClip®を用いた経皮的僧帽弁接合不全修復術は、年齢や併存症のために外科手術を受けることが難しかった患者に対する新しいカテーテル治療で、僧帽弁の逆流を軽減することを目的としており、胸を切開する外科手術よりも体にかかる負担が少ない。
2018年に医学誌「New England Journal of Medicine」に COPAT試験という臨床試験の結果が掲載され、心機能の低下した患者に対する MitraClip®を用いた治療が、薬物療法のみの場合と比べて生命予後を改善し、また心不全による入院を減少させた。
この結果を受けて、日本循環器学会のガイドラインでも、開胸手術がハイリスクとされる患者に対して同治療法が認められ、平成30年から治療が可能となった。
治療は、全身麻酔下で心臓を拍動させた状態で行われ、人工心肺は用いない。胃カメラのように口から挿入する経食道心エコー図検査で僧帽弁を中心に心臓の様子を観察しながら、レントゲン装置も併用して治療を進める。治療のためのカテー
テルは大腿部の静脈より挿入し、続いて右心房から左心房へカテーテルを通過させて、弁を把持するためのクリップを左心
房内へ到達させる。
エコーで確認しながらクリップを操作し、僧帽弁を適切な位置で把持することで逆流を制御。逆流の制御が良好であればクリップをカテーテルから切り離し、不十分であれば把持をやり直すこともでる。最終的にはクリップをカテーテルから切り離して留置し、カテーテルを体内から抜去して治療終了となる。術前の状態にもよるが、術後は数日で退院が可能。
今後、僧帽弁閉鎖不全症を合併した慢性心不全患者は増加していくと思われ、特に高齢者を含めた開胸術のハイリスク患者に対する新たな治療として、同治療を必要とする患者は益々増えること
が予測され、心臓移植が必要となるような重症心不全患者への治療法としても期待されている。
土肥教授は「三重県唯一の治療施設(2022年1月時点)として、僧帽弁閉鎖不全症を伴う慢性心不全に苦しむ患者さんに MitraClip®を用いた治療を安全に治療できるように努めてまいります」と話した。
2022年2月24日 AM 4:55