そびえたつ二上山(香芝市良福寺)

そびえたつ二上山(香芝市良福寺)

灰白色の巨岩がそびえる「屯鶴峰」(香芝市穴虫)

灰白色の巨岩がそびえる「屯鶴峰」(香芝市穴虫)

雨に濡れることを恐れず、香芝市の市街地を突き進む。国道の標識には大阪まで30㎞、柏原まで10㎞の表記。いよいよこの旅が終わりに近づいていることを実感する。今日の目的地も大阪府柏原市で確定だ。
歩みを進めるにつれ、雨足が強くなり、香芝市役所を越えたあたりで雨具なしでは進むのが困難な状態に。慌てて近くのコンビニの軒先へ緊急避難し、しばらく雨をやり過ごすことにする。
この辺りは、フタコブラクダの背中のように連なる雄岳と雌岳で構成され、万葉の歌人たちにも愛された「二上山」のふもとにあたる。奈良県と大阪府の境にあり、金剛山系の北部にそびえる双耳峰が描く稜線は、雄大さよりもむしろ柔らかな美をたたえている。旧石器時代から弥生時代にかけて、ナイフや石槍など石器の材料として近畿各地で広く利用されたサヌカイトの産地で、この石は叩くと澄んだ美しい音色が響くのも特徴。市役所前の二上山博物館にもサヌカイトでつくった石琴が展示されている。  また、二上山雄岳の頂上には、天武天皇の皇子で悲劇的な最期を迎えた大津皇子の墓がある。彼の母は、父・天武天皇の皇后である持統天皇の実姉。優れた人物と伝えられるが、後に謀反の疑いで処刑された。真相は諸説あるが、乙巳の変から続く皇族同士の血で血を洗う権力闘争の一幕である。歴史には正義と悪は存在せず、ただ勝者と敗者の別があるのみ。そして歴史は勝者によって綴られていくものである。 二上山の方へと視線を移し、大津皇子にしばし思いを馳せていると、雨足が和らぐ。もはや、少しばかり濡れることなど全く気にならない私は、再び国道を歩き始める。
市街地を抜けると、国道は今まで散々見慣れた歩道のない姿に戻る。これまで通り車の往来に最大限注意を払いつつ、狭い路側帯にすがるように進む。この緊張感こそ、この旅の常である。
大阪府との県境に差し掛かる辺りには面白いスポットがあるので紹介しよう。その名は屯鶴峯。二上山の噴火物が冷えて固まった凝灰岩が辺り一面に広がる奇勝。奈良県の天然記念物に指定されている。灰白色の巨岩を遠くから眺めると鶴がたむろ(屯)しているように見えることから、この名がつけられたとも言われている。せせり立つ奇岩の数々は迫力満点で、唯一無二の景色が楽しめる。(本紙報道部長・麻生純矢)