3月27日に中国の国家衛生健康委員会は、上海では4500人以上がコロナウイルスに感染したとして、市を東西二地域に分けロックダウンすると発表した。全市民2600万人に対してPCR検査をするためだ。死者数についての言及はなかったが、東エリアは28日から4月1日まで、西エリアは4月1日から5日までとされ、公共交通機関は運行停止、許可なく外出することも禁止である。ところが、ロックダウンは今も継続中だ。
これまで中国共産党は都合の悪いニュースは認めてこなかった。情報統制はお手のものだ。だったらこれは国内外へ向けたプロパガンダである。鉄壁のファイアウォールが破れたわけではない。
一般的報道では、ロックダウンは「動態清零(ダイナミックゼロ・コロナ)政策の為だとしている。だが、私は真の目的は旅行意欲の抑制だと考える。何故ならば、世界の工場たる中国の2018─2019年の国際収支は赤字転落寸前だったからである。
特にビフォーコロナの2019年の中国は、358億3200万ドルのツーリズム収入に対し、支出はその7倍を超える2546億2000万ドルにも達していた。その赤字収支2187億8800万ドルは、中国の国防予算に匹敵する額だったのだ(逆に、2018─2019年の日本のツーリズム収入は、中国を抜いて北東アジアで最高の420億9600万ドル460億5400万ドルだった)。
折しも、全人代(全国人民代表大会)で李克強首相は、2022年の経済成長率の目標を5・5%前後にすると表明していた。この2021年の成長率8・1%よりも低い設定は、減速懸念が強まる中国経済が反映されていることは明らかである。留意すべきは中国からのアウトバウンド支出であり、これは中国へのインバウンド収入をはるかに上回る可能性が高く、モノ輸出による国際収支の黒字を妨げる。金融収支がマイナスである中国にとってモノ貿易による外貨獲得は必須だ。
観光産業は国内市場だけで完結すれば人民元流出の心配はなく、習近平の強軍路線による国防予算、前年比7・1%増の1兆4504億5000万元 (約2290億ドル/約26兆3000億円)を削るわけにもいかない。そして、習国家首席は秋の党大会で3期目の続投が見込まれる。ならば、コロナ禍も秋までは現状維持の方が都合がいいという訳である。世界のツーリズム支出の2割を占めた中国からのインバウンドは、もはや当てにはならないとみるのが妥当だ。
ちなみに、6月13日から開催予定だった国連世界観光機関主催の「第7回UNWTOガストロノミーツーリズム世界フォーラム」も、国内外での新型コロナウイルスの状況や日本の水際対策を踏まえ12月に延期された。このフォーラムは、世界の観光や食文化への理解促進などの情報を提供し、歴史的・文化的背景が培ったユニークな食文化を世界に発信する場である。今年は日本の奈良県で、基調講演、事例発表、パネルディスカッション、ワークショップ、エクスカーション、レセプションなどが実施予定で、参加者は国内外約600人の見込みだ。
しかし、中国や日本の市場が動かないので、欧米と比較してもアジアにおける国際ツーリズムの回復状況はすこぶる良くないのが現状である。  (OHMSS《大宇陀・東紀州・松阪圏・サイト・シーイング・サポート代表》)