ペンダントを壊してしまった。首の後ろの留め金をきちんと止めてなかったらしく、玄関を出たところで首から滑り落ちた。白と黒のガラスの雫型ペンダントトップはあっけなく割れた。結構気に入っていたものなのに。
それはヨーロッパのどこかで購入したもの。十ユーロもしなかったと思う。旅先で買った小物は旅の思い出を引き出す鍵となる。壊れてしまったことは残念だ。
そういえば、ギリシャ旅行中にも同じようにペンダントを落として割った。買ったばかりのガラスのペンダントをメテオラの修道院で。十年も前の暑い夏の旅で、どこもよく晴れていた。その時一緒にいた友達はもういない。壊れたものから次々と記憶がよみがえってくる。
コロナ禍で海外旅行に行けなくなって久しい。三年前にパスポートを新しくしたのに、一度も使わないまま古びていく。コロナも戦争も終わり、再び気軽に海外旅行に行ける日はいつくるだろう。その頃には十二時間も飛行機に乗ってヨーロッパに行く体力気力がなくなっているかもしれない。海外に興味がなくなっているかもしれない。
ガラスのカケラを拾いながら、自分に言い聞かせる。ため息とともに。形あるものはいつか壊れる。壊れるのも良いことだ。断捨離の手間が省けるというもの。思い出は頭の中だけで十分だ。  (舞)