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今、伝統的な日本型旅館では、コロナ禍による団体客の激減に加え、高齢化や時代に即した働き方等によって、中居さん専従者が大きく減っている。結果として、旅一番の楽しみである夕食も、部屋食提供ではなく、ダイニングやレストランでの提供が増えてきている。これを日本文化の衰退とみるか、或いは世界標準化とみるかは意見の分かれるところだが、もともとコロナ禍以前に策定された観光庁の『観光ビジョン実現プログラム』には、民泊も含めた宿泊業と飲食店とのシェアリングを意図した「泊食分離」が盛り込まれており、時流に抗えないのも事実のようである。
とはいえ、いわゆるガストロノミー・ツーリズムは、その土地ならではの食材に、それを育んだ自然、伝統に則った調理法を、土地の文化として嗜む旅である。抹茶を椅子・テーブルでいただくことは殆どないが、供出作法が文化的一面であることは茶道が端的に表しているといえる。
例えば、特産松阪牛におけるスキヤキだが、特に火加減いかんによる霜降り肉の味付けを、手慣れた中居さんなしで堪能できる食通はそう多くはないはすである。
特産松阪牛とは、松阪牛の中でも兵庫県産の子牛を導入し、松阪牛生産区域で900日以上肥育した牛』と定義されたもので、松阪牛全体の数パーセントしか存在しない『松阪牛の中の松阪牛』『松阪牛のスペシャルグレード』である。
古来、松阪地方では、但馬地方(兵庫県)生まれで紀州育ちの若い雌牛を役牛として導入していたが、明治以降はそうした役牛を長期肥育することで、肉質の優れた松阪牛として生産してきた。
この肥育技術を継承し、松阪牛の中でも特に但馬地方をはじめとする兵庫県から生後約8カ月の選び抜いた子牛を導入し、900日以上の長期に渡り農家の手で1頭づつ手塩にかけて肥育されたものが「特産松阪牛」である。
一般的に牛を長く肥育することは、通常よりコストとリスクを負うため、熟練の農家が秘伝の匠の技を駆使し、『生きたまま熟成』させるという意味で、大切に育て上げた『究極のエイジングビーフ』だといえる。日本の農林水産省は2017年3月3日、「長期肥育による肉質の探求にいち早く特化し、その方法を確立した」として、国の特定農産物として地理的表示に登録した。
地域には、伝統的な生産方法や気候・風土・土壌などの生産地等の特性が、品質等の特性に結びついている産品が数多く存在している。これらの産品の地理的表示を知的財産として登録し、保護する制度が「地理的表示保護制度」である。
つまり、それは地域文化のブランディングなのであるが、ならば、その魅力を100パーセント引き出すための供出作法も、ガストロノミー・ツーリズムには欠かせないものであって、これらはSDGs⑧「すべての人々のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を推進する」や、SDGs⑫の「持続可能な消費生産形態を確保する」にも合致する要素である。
ユネスコの無形文化遺産である和食に欠かせない炊飯米同様、生産性や合理性にとどまらなず、価値観を守り、共有する必要がある。ガストロノミー・ツーリズムにとって世界標準化は水と油である。
(OHMSS《大宇陀・東紀州・松阪圏・サイト・シーイング・サポート代表》)
2022年8月25日 AM 4:55
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