2023年9月

 曇天とはいえ、まだまだ蒸し暑い夏の終わりである。古文書や年輪、堆積層から読み解く古気候学によると、平城京があった奈良時代から、都が京に移った平安時代にかけては、現代と同じくらい温暖化が進んだといわれ、海岸線も内陸部深くへと進んでいたそうである。今同様、当時の夏も太平洋上には雲多く、気候も極端だったのだろうか。
 今回の奈良行きは、本居宣長記念館名誉館長と一緒である。一人で運転していたら気が遠くなりかねない。心強い限りである。
 私たちは国道166号線で県境を越え、午前中には奈良に入った。奈良は、大阪や京都泊まりのインバウンドのオーバーツーリズム受け入れ先としても最適のポジションにある。今日もJR奈良駅構内から三条通りを経て、商店街、奈良公園に至るまで、外国人観光客で大賑わいだ。もともと盛夏の奈良は、奈良盆地特有の暑気の為に日本人観光客は少なかったが、今や殆どいないと言っても過言ではない。まるで外国である。
 奈良はインバウンド富裕層や長期滞在者を取り込むべく、高級ホテルの誘致に力を入れている。コロナ禍の中でも奈良公園周辺の高級ホテル開発が進められてきた。2020年6月には「ふふ奈良」が、7月には「JWマリオット・ホテル奈良」が、そして、昨日8月29日は、森トラストとマリオット・インターナショナルのブランドを冠した超高級ホテル「紫翠ラグジュアリーコレクションホテル奈良」がオープンした。
 この大正11年建設の奈良県知事公舎を活用した邸内には、昭和天皇がサンフランシスコ講和条約批准書に署名した「御認証の間」が保存され、新たに新築された43の客室は、1泊2名で通常12万6500円から、オンリーワンの最高級スイートは、1泊朝食付きの2名利用で約82万円からとなっている。奈良はコンバージョン(変換)事業のお手本だ。更に奈良では来年以降、国の重要文化財「旧奈良監獄」の建物を活用した、日本初のプリズンホテルも計画されている。
 国連世界観光機関では渉外部長とプロジェクトコーディネーターが出迎えてくれた。私たちは、国連世界観光機関の複数回にわたるセミナーや欧州統計局のフォーラムを通じ、地域振興と観光産業のかかわりについて、以下の3つの基本的な方向性を認識している。
 まず、ツーリズム産業の安定的な経済活動と地域への貢献。続いて訪問者の多様な価値観への対応と受入環境の整備。そして、ツーリズムによる住民生活の向上である。
 ①ツーリズム産業の安定的な経済活動と地域への貢献
・シーズンオン・オフ平準化による売り上げと雇用の安定(従業員の所得向上、福利厚生の充実)
・地産地消やツーリズム事業における雇用などの現地調達
・ツーリズム事業者の地域コミュニティへの貢献
 ②訪問者の多様な価値観への対応と受入環境の整備
・ツーリストへの特別な体験(宿泊、ガストロノミー、アクティビティ等)の提供
・訪問者と住民の自然・歴史・文化などへの理解促進
・安全で快適にサイトシーイングできる受入環境の整備(メディカルも含む)
 ③ツーリズムによる住民生活の向上
・訪問者の環境配慮型行動の喚起
・地域の魅力や取り組み等のアウターブランディングとインナーブランディング
・ツーリズム関連の起業を増やし、自然・歴史・文化の継承に寄与
 そして、「未来志向」のスピリットもだ。加えて、私は「ツーリズム」と「観光」が混同される日本の国民的コンセンサスの遅れについて話した。分かりやすい例を一つあげるならば、「メディカル・ツーリズム」と「医療観光」の訳語のちぐはぐさである。
 日本では大学病院などでの渡航治療における高額な外貨収入は旅行収支に反映されてはいない。また、医療はDMOにも参加してはいない。しかしながら、これでは外貨が動くツーリズムの産業化推進においては不条理である(以前書いたが、タックスヘイブン地域における高額観光収入もそうだ)。ツーリズムは物見遊山だけではない。だから私は、三重県鳥羽市に国際会議場を備えたホテルへの改装を提案し、国の補助金採択も得た。最も多い国際会議はメディカルだからだ。
 しかし、アフターコロナの回復が遅れているこの地において、それは時期尚早だったようである。3月末に全国旅行支援が終わって以来、閑古鳥が鳴いたホテル・マリテームだが、大量キャンセルをみたお盆の台風7号の影響もあり、この夏をもって事業撤退が決まった。少子高齢化や物価高騰、オフシーズンや天候不順などによる日本人観光客の減少を補うにはインバウンド誘致が必須条件だが、三重県の知名度はまだまだ低い。旅館やホテルの数は奈良県の3倍あるにもかかわらず、47都道府県中ビリから2番目だからである。
 ところで、プロジェクトコーディネーターが申されていたように、今でいうウズベキスタンなどの中央アジア=ペルシア帝国の文化はシルクロードを経て日本に伝わった。正にこれこそは、ヒト・カネ・モノが移動するツーリズムの根幹である。奈良の正倉院の宝物には、ペルシャ王国のササン朝時代のものとされるガラス椀やガラス品、日本最古の敷物などが保存されている。
 考えてみれば、これも日ユ同祖論の根拠の一つかも知れない。アイデンティティー云々ではなく文化の伝播という意味で、ツーリズムの成果への興味は尽きない。
 帰り際、三重ふるさと新聞特別寄稿のナンバー67から70までのコピーをお渡しした。が、国連職員たちは既にその内容をご存知のようだった。新聞社が毎回この新聞を送ってくれていたのである。地方ニュースが殻を破って域外に出ることは意義深い。嬉しい限りである。(OHMSS《大宇陀・東紀州・松阪圏・サイト・シーイング・サポート代表》)

 ◆戸木地区敬老会 9月24日㈰9時~12時、戸木小学校にて。主催=戸木地区社会福祉協議会。桂三発氏の落語「紀州」…10時~10時35分…や、久居高校吹奏楽部演奏…10時50分~11時20分…、お楽しみ抽選会…11時半~11時55分…など。

歴史や変遷などを学び  市民からの意見を集約

三重県指定史跡の津城跡

 10月14日13時~16時、津市大門の津市センターパレスホールで、津城跡のこれからを考えるシンポジウム「津城をたどる」が開かれる。津市のシンボルである津城は近年復元運動が活発で、中心市街地活性化の核としての役割も期待される一方、都市公園として市民の憩いの場として愛されるなど多面的な役割を果たしている。シンポジウムは市民とともに今後の整備の在り方を考えていく場となりそうだ。

 三重県指定史跡の津城跡。津藩祖で築城の名手・藤堂高虎の居城として名高い津城は、公益財団法人日本城郭協会の続日本100名城に選ばれて以降、全国から城好きを中心に観光客が訪れるようになっている。その一方で、現在は本丸と西之丸の石垣と内堀の一部を残すのみとなっているため、在りし日の姿を知らない市民も多い。
 津城の歴史を大まかに紹介すると…この一帯を治めていた長野氏の一族である細野氏が永禄年間(1558年~70年)に築いた城郭がルーツと言われており、伊勢侵攻で伊勢上野城に居城を構えた織田信長の弟・信包がより大規模な安濃津城として改修し、天正8年(1580年)に完成。次に富田信高の居城となるが、慶長5年(1600年)に関ヶ原の戦いの前哨戦の舞台となる。慶長13年(1608)に入府した高虎による大改修を経て、完成に至っている。最大100m幅の堀が囲む城は難攻不落の要塞でありながら、平和な時代を見据えて政庁としても使い易い革新的なつくりであることが特徴。明治時代に廃城となり、建物は棄却され、堀も戦後復興で埋め立てられたが、昭和33年(1958)に市民の寄付などによって、三層の模擬櫓が建てられた。その後、お城公園として整備され、現在は史跡であると同時に市民の憩いの場の都市公園として親しまれている。
 今回のシンポジウム開催のきっかけの一つは、津城復元への気運の高まり。復元は歴史的資料に基づいたものでなければならない大前提があるが、平成18年に当時広島大学の大学院生だった松島悠さんが三重県庁の資料から古図面『御城内御建物作事覚四」を発見。その他、丑寅櫓と戌亥櫓の二つを結ぶ多門櫓の古写真なども見つかっているなど、復元の条件は整っている。そこで市民有志による「津城復元の会」=西田久光会長=は地道な募金活動や復元資金造成のコンサート、ゴルフコンペなどを行い集まった浄財を、津市のふるさと納税制度・津かがやき寄附の使途項目「津城跡の整備」に納め続けている。近年ふるさと納税制度の好調を受け、年間1000万円近い浄財があり、7月末時点で延べ2万9699人から6605万円の復元資金が集まっている。
 これを受け津市では、津城跡に関わる部(公園を管理する建設部、文化財を管理する教育委員会、中心市街地に関わる商工観光部、文化のスポーツ文化部、解体工事が進められることとなる旧社会福祉センターなど津市の施設を管理する財産部、財源の政策財務部)が集まり、多角的な視点から意見を交わす会議を行っている。津市の広報誌でも6月より、「津城かわら版」で情報発信を行っている。
 シンポジウムはこういった経緯を踏まえつつ、より多くの市民の意見を掘り起こし、様々な顔を持つ津城跡の整備のあるべき方向性を考えることを目的に開かれる。
 基調報告は津市文化財保護審議会委員の吉村利男氏による「津城の歴史と変遷」で津城の移り変わりを学ぶ。続く専門学芸員の県内城跡の詳細報告では、津市教育委員会生涯学習課の中村光司氏が津城、松阪市産業文化部文化課の寺嶋昭洋氏が松坂城、玉城町教育委員会生涯教育係の田中孝佳吉氏が田丸城をそれぞれ語る。そして、皇學館大学非常勤講師の竹田憲治氏をコーディネーターに迎え、登壇者が集まって「津城跡の整備と活用」をテーマにトークセッション。その後、参加者の発言を求めたり、意見の聴取やアンケートを実施する。
 申込締切9月29日㈮必着。はがき(宛先〒514─0035 津市西丸之内37─8)、またはファクス(FAX059・229・3257、Eメール (229-3248@city.tsu.lg.jp)で「津城シンポジウム」と明記し、〒、住所、氏名、電話番号を記し、津市教育委員会事務局生涯学習課へ。定員270名(応募多数の場合抽選)
 問い合わせ同生涯学習課☎059・229・3251。

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