いわゆる「ビッグ4」と呼ばれる外資系ホテルチェーンとしては、マリオットやハイアット、ヒルトン、そして、インターコンチネンタルホテルズグループ(IHG)がよく知られている。加えて、最近ではタイのセンタラやシンガポールのカペラといった東南アジアのホテルグループも日本市場に参入してきている。円安を背景に外資系ホテルの進出は加速、その幾つかは大都市圏のみならず地方都市へも波及してきている。
 なにしろ、国際的知名度が47都道府県中下から二番目か三番目の三重県でさえ、米国投資ファンドのブラックストーンや、米国の運営会社であるチョイスホテルズ、そしてマリオットが進出してきており、鳥羽市においてもアジア系投資会社のホテルが改装オープンしている。
 実は私は今そこにいるが、その内装はまるでゲストハウスの延長にあるような洋式の旅館となっている。ベッドも大きい。そして、ホテルマリテームで大いに悩まされた雨漏りが全くないのが何よりである。
 外資系進出の理由は至ってシンプルである。多くの外資系ホテルの運営会社(オペレーター会社)が、宿泊需要の長期的成長に期待しているからだ。つまり、日本市場はこれまで閉鎖的で発展途上だったからである。彼ら彼女らはそのポテンシャルに注目しているのだ。
 また、日本人は観光(ツーリズム)=物見遊山(サイトシーイング)と勘違いし、週末だけの娯楽産業だと思っているが、外国人はツーリズム=人的移動市場と理解しており、日本市場はサービス貿易の拠点として高く評価されている。その証左に、ケツに火がついた地銀は、ホテルや旅館を不良債権扱いして損切り処分の対象とする(そう思われても仕方のない世襲経営者もいるが)。彼らはモノ貿易に代表される20世紀型価値観から脱却できていない。
 一方、海外投資家は、インターネットサービスの発達とともに急成長をみせる日本のインバウンド需要を欧州に続く投資対象と見ている。この事は、私が10年前に参加した欧州の観光統計フォーラムで、欧州・オセアニアの先進事例として既に発表されていた。日本は10年遅れなのである。
 外資系ホテルの独特な契約体系も、新規ホテルの開業を促す要因となっている。外資系ホテルの最も一般的な開業形態はホテルマネジメント契約(HMC)だ。
 これは日本の公共施設の指定管理制度に似ているが、ホテルのオーナーはホテル運営会社を設立して内装や備品、設備などに投資し、オペレーター会社は運営ノウハウを持った人材を派遣してホテル運営を実質的に統括する。オペレーター会社は出店時のコスト負担を軽減でき、出店機会が増えれば増えるほど手数料収入が増え、出店数の増加につながるわけである。
 例えばトマムの場合は、米投資ファンドのグローブが全株式を中国の復星集団に183億円で売却したが、星野リゾートは日本政策投資銀行の支援を受け、オペレーター会社として今にちに至っている。
 しかし、多くの場合、主導権はオーナー側にある。これはスポンサーだから当然なのだが、信頼関係が損なわれたり、心得が足りないとオペレーター会社の交代もあり得る。その場合スタッフの雇用は、事業継続の有無によって、継続または打ち切りとなる。外資系ではないが、オーナー会社が売却したマリテームの場合は後者だった。
 このオーナー会社は、国の高付加価値化事業の補助金を得るに至るも、改装か転売かを最後まで迷い、結局のところ改装を諦め売る事にした。国の予算を使ったが最後、3年以内に転売したあかつきには国庫返納の定めがあるからだ。買った側の国内大手リゾート会社は、ウワモノ(建造物)を解体し、新たに新築するという。考え方とすれば、老朽化した鉄筋コンクリート製の建物は、諸設備等々、年々歳々修理が嵩めば新築なみのコストを要する。
 そのコストは、顧客の高級化または薄利多売の何れかでなければ回収できない。ならば最初からスクラッチビルドの方が、長期スパンでは割安だというわけだ。とりわけそれは、ホテルではなく旅館形態を目指すならば的を射ている。旅館とは、宿泊施設に飲食店と風呂屋の機能も備えた複合施設のことであり、ホテルとは似て非なるものである。したがって、老朽化したボイラー、空調設備、厨房機器、配管、浴室の濾過システムなどへの投資は、畳宴会場の解体や客室のリフォームよりも高くつくからだ。
 大江戸温泉物語ホテルズ&リゾーツと湯快リゾートも米国ファンドのローンスターの傘下だが、両社は現在、経営統合を進めている。業務効率向上による再建加速が目的である。
 私は海外からのチャレンジャーたちにエールを送ると同時に、10年遅れの日本の投資家たちにも20世紀型常識からの卒業を望む次第である。

 (OHMSS《大宇陀・東紀州・松阪圏・サイト・シーイング・サポート代表》)