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石部宿を超えて、30分ほどのどかな道を歩く。途中のJR草津線の踏切には、ポイ捨てに対する並々ならぬ怒りが込められた木の看板が取り付けられている。よく見ると盛り塩もされている。付近にはいくつか同じ人が設置したと見られるポイ捨てへの警告看板がある。いずれも厳しい言葉でポイ捨てを糾弾し、合掌という言葉で締めくくられていることから「これを書いたのはお坊さんなのかな」「いや、それにしては口調が少々荒々しいかもしれない」などと心の中で探偵がパイプをくゆらせながら推理を始める。踏切や付近のフェンスに取り付けられており、風雨にさらされて変色するまで撤去されていないということは、然るべき許可を取って設置されている可能性が高い。圧倒的証拠不足のため、真実にたどり着けるわけもないが、看板を置いたのは、きっと強い使命感と地域を愛する心を持ち合わせた人なのだろうという結論に辿り着くことができた。
ポイ捨ては、人の業の縮図だと感じる。なぜポイ捨てをするのかというと、自分の手元のゴミを無くして快適な環境をつくりたいからである。そのためであれば、他人や公共の土地を汚しても良いと考える非常に利己的な行為といえる。ただ裏を返せば、ゴミを捨てられれば、他人が不快になることを捨てる側も理解しているということに他ならない。事実、ポイ捨てをしている人が、自分の家の庭にポイ捨てされたら受け入れがたいはずである。
私は長年、津まつり翌日の清掃活動に参加しているが、一年で最も賑やかだったイベントを終えた後の中心市街地には無数のゴミが落ちている。とりわけ空き缶やたばこの吸い殻は、側溝や植垣の奥に押し込まれていることも多い。つまり、捨てた人は恥ずべき行為と自覚しつつも、ポイ捨てをするという不条理な行動をしているということである。ポイ捨てする人も、良識や善性をしっかりと持ち合わせている証拠といえる。
少し話を広げると、毎日多種多様な犯罪のニュースが飛び交っているが、誰もが被害者になる可能性があると同時に、加害者になる可能性を秘めていると感じる。よく犯罪者は異常で、自分とは全く違う存在と考える人もいるが、私はそうは思わない。人の心のバランスは、周囲の環境や人間関係などをきっかけに簡単に崩れてしまうからだ。事実、ポイ捨ても立派な軽犯罪だが、良識や善性を持ち合わせた人ですら、手を染めてしまう実情があるのは先述の通りである。読者の中にも、過去にポイ捨てをした経験がある人もいるかもしれない。いつ自分の心は悪に支配されるかわからないし、犯罪者は明日の自分の姿かもしれない。だからこそ、善であるための弛まぬ努力が必要となる。これは現代において、様々な文脈で使われる機会の増えた「性悪説」という言葉の本来の意味に近い。
件の看板は、強い言葉で、ポイ捨てしようとする人の良識や善性に訴えかけ、思いとどまらせることに一役買っているのではないかと感じる。少なくとも私はあの近くでポイ捨てをする気になんてなれない。ただし、私もこれから先の人生において、ゴミ箱が見当たらず、途方に暮れた場合などに心の中で悪魔が甘くささやかないとは限らない。そんな時は、この看板を思い出そうと心に誓う。
さて、旅路に話を戻すと、湖南市から栗東市に入ると、鮮やかな色で描かれた花の絵と共に「伊勢落」という集落名が書かれた道標が出迎えてくれる。栗東市内の旧東海道沿いの東端に当たる集落で、伊勢へと向かう斎宮の禊の場があったと言われている。
時刻は15時半過ぎ。いよいよこの日のゴールであるJR手原駅が近づいてきた。残りの行程も楽しもうと思う。(本紙報道部長・麻生純矢)
2024年6月27日 AM 4:55
社会人の演劇集団、劇団津演による公演「ら抜きの殺意」=作・永井愛、演出・マスダ春花=が7月6日㈯18時30分開演(開場17時30分)、7日㈰14時開演(13時開場)、津リージョンプラザお城ホールで開かれる。
1998年、第一回鶴屋南北戯曲賞を受賞した同作は、現代日本の言語状況に迫った知的コメディで、「見れる」「出れる」「来れる」「食べれる」など…現代日本語の乱れの象徴としてよく話題になる「ら抜き言葉」に作者が抵抗感を覚え、日本人の言葉遣いをまとめてみたいと執筆した。
また、「ら抜き」言葉だけにはとどまらず、一般的に「敬語」とされている言葉も「尊敬語」「謙譲語」「丁寧語」の3種類に別れ、時と場合に応じて使い分けなくてはならない日本語の難しさにも焦点をあて、出演者らが言葉をめぐる抱腹絶倒のバトルを繰り広げながらテンポ良くストーリーを進める。
あらすじは…通信販売の会社にアルバイトで入った男、海老名は言葉遣いに厳しく「ら抜き言葉」を嫌っている。一方、社員で頻繁に「ら抜き言葉」を使い、意味が通じればいいだろう程度の感覚で話す男、伴がいる。立場上は正社員である伴の方が強く、遠慮がちに言葉の乱れを指摘する海老名をうるさがる伴。やがて二人の間には殺意に似た感情が芽生え始める…というもの。
演出のマスダさんは「津演は創立61周年を迎えます。1973年から2001年までは、稽古場を小劇場に仕立てたアトリエ公演を28年間続けてきました。しかし2001年の公演を最後に使用できなくなり、最後のアトリエ公演は2003年11月に東宝会館で『ら抜きの殺意』を3日間上演しました。
今回の再演では、キャスト、スタッフも一部を除いてリニューアルしています。殺意と言っても血生臭い話しではありません。ら抜き言葉は日常で普通に使っています。劇中に出てくる「チョベリバ、アリゴザ、シンコクル」など言葉の展示場になっています。合理化精神の現れかもしれませんが、簡略化した言葉は今後も出没してくるでしょう。今公演で少しでも言葉について考えて頂けたら」と話す。
前売り大人1500円(当日1800円)、学生1000円(同1200円)、小学生600円(同800円)。津演劇鑑賞会☎津228・9523、三重額縁☎津225・6588、久居アルスプラザ、県文☎津233・1122などで取り扱い。7月4日まではメールでの受付も可能。g-tsuen1963@hotmail.com(名前・枚数・種類を記入) 問い合わせは同劇団☎059・226・1089(月・水・土の夜8時以降)。
2024年6月27日 AM 4:55
6月6日、津市羽所町のアスト津アストホールで、「21世紀のエネルギーを考える会・みえ」=小林長久会長=の令和6年度総会が行われた。
同会は環境問題との調和を図ったエネルギーの確保等による脱炭素社会の実現に向け、世界のエネルギー事情、エネルギーの安全保障上の課題、エネルギーの安定確保に向けたベストミックスなどへの正しい理解を広げ、県民生活の向上に資することを目的に活動している。
総会では令和6年度の事業報告案と収支決算案、令和7年度の事業計画案と収支予算案、声明書案などが審議され、全会一致で承認された。
更に新会長に四日市商工会議所会頭の小川謙氏が選出された。小川新会長は「エネルギーは国民生活や経済を支える根幹。エネルギー問題について県民と共に考え、行動に移していくことは重要と考える。会の理念であるエネルギーや環境問題を自分の問題として考えて行動していくための事業活動が展開できるよう努力していく」とあいさつした。
採択された声明書では、エネルギー資源のほとんどを海外に依存し、自然エネルギーの活用も諸外国と異なる点など、我が国のエネルギーの脆弱性や、収束の見えないロシアによるウクライナ侵攻や中東地域の武力衝突によって我が国のエネルギー安全保障が脅かされていることや新興国の発展に伴うエネルギー資源の獲得競争が与える影響などを踏まえた上で、エネルギーの安定確保と脱炭素社会を目指すために、原子力発電の安全を確保した上での早期再稼働と多様なエネルギーの特性を生かして組み合わせる「最適なエネルギーミックス」の実現などを訴えた。更に三重県、三重県議会と、経済産業省中部経済産業局への要望事項も提出された。
2024年6月27日 AM 4:55