見えない化学物質が原因  気遣いや優しさ裏目に

 夏場は体臭のエチケットとして使われることも多い香水や制汗スプレーなどから発せられる香り成分に含まれる微量の化学物質で様々な体調不良に陥ってしまう「化学物質過敏症」で悩む人たちがいる。この病気で悩む人たちは、目に見えない原因物質を恐れ、自宅から出られなくなるだけでなく、社会生活そのものが難しくなるケースも多い。少しでも理解を深めることがより良い社会を築く礎となる。

化学物質過敏症とは、アレルギー疾患や中毒性疾患と類似しており、大量の化学物質にさらされたり、慢性的に少量の化学物質にさらされ続けることで発症する。発症すると空気中に漂っている微量の化学物質に反応し、目・鼻・喉などの粘膜が荒れたり、めまい、頭痛、吐き気などの症状を引き起こしてしまう。発症の詳細なプロセスはまだ不明で有効な治療方法も確立されていない。
 一般的に良く知られている「シックハウス症候群」と似ているが大きな違いがある。シックハウス症候群は、建築用接着剤に含まれているホルムアルデヒドなどに反応して様々な症状が引き起こされるが、原因となる住宅から離れれば症状が和らぐケースが少なくない。一方、化学物質過敏症は、香水などの化粧品、シャンプー、ボディソープ、衣料用洗剤や柔軟剤などに含まれる香料を始めとする化学物質が空気中を漂っていれば、あらゆる環境下で症状が引き起こされてしまう。つまり、不特定多数の人が集まる場所では、自分ではコントロールできない要因で症状が出てしまう可能性が高く、自由に外出するどころか、仕事へ行くのもままならなくなってしまうということ。
 津市内在住で化学物質過敏症に悩まされているAさんは、普段から自身が食べるものや洗剤などは化学物質の影響がないものを選んで自衛をしているが、近所の住民が干している洗濯物から風に乗って漂ってくる化学物質によって体調が悪くなることもある。しかし、「トラブルになると辛いので、無理には伝えない」とAさんは話し、家族間でも完全な理解が得られないこともあるそうだ。事実を伝えているにも関わらず、好みやわがままで言っていると勘違いされれば、周囲から孤立する原因になる可能性があるのもこの病気の辛い点といえる。Aさんは電磁波の影響でも体調不良を感じるという。
 薄着になる夏場は特に汗が原因の体臭が気になるため、エチケットとして制汗スプレーや香水、香りの強い洗剤や柔軟剤などを使う人が目立つようになる。それらは本来、周囲の人への気遣いや優しさであるが、逆に傷つく人が出てしまうのは余りに皮肉と言える。
 当事者たちの地道な努力もあって、県内では、尾鷲市、桑名市、伊賀市、名張市が、化学物質過敏症の人への配慮をホームページ上で呼びかけるなど、少しずつ理解は広がっており、国も生活が困難な場合は障害年金の対象として認めている。ただし、まだまだ周知が十分とは言えず、発症している人とそうでない人の間には、感覚に大きな隔たりがあるため、問題解決には、粘り強く理解を求めていく必要がある。更に理解が広がれば、化粧品や洗剤などを買う消費行動での最適な選択につながり、メーカーもそれに合わせた商品開発をするといった正の循環で問題解決が期待できるからだ。
 化学物質過敏症は、発症の過程が花粉症に近く、誰でも発症する可能性があると言われているだけに、自分も当事者になる可能性があることは無視できない点といえよう。特に夏場は先述のように、強い香りが出る化粧品や洗剤や虫よけスプレーや殺虫剤を使う機会も増える。まずは、香りが弱いタイプの商品を選んだり、周囲に人がいないことを確認した上で使うといった配慮など、少しでも多くの人が自分にできることを考えていく姿勢がこの病気の重要な対策に繋がっていく。